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魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》  作者: 昼ライス
Season 2 ~覚醒者都市~

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第5話 怪力

毎日20時投稿

大阪市内。


再開発が進むエリア。


かつてオフィスビルだった高層建築が、今は解体工事の真っ最中だった。


足場が組まれ、外壁はすでに大部分が剥がされている。


重機のエンジン音。


鉄骨を切断する火花。


作業員たちがヘルメット姿で忙しく動き回っていた。


クレーンがゆっくりと瓦礫を吊り上げる。


現場監督の声が響く。


「そっち気を付けろ!」


「鉄骨落とすぞ!」


昼の作業は順調だった。


――その時だった。


ドンッ。


鈍い衝撃音。


地面がわずかに揺れた。


近くにいた作業員が振り向く。


「……今の音、なんだ?」


次の瞬間。


ガンッ!!


鉄骨が足場に叩きつけられた。


足場のパイプが大きく歪む。


「おい!?」


作業員たちが一斉に振り向く。


瓦礫の山。


その上に、一人の男が立っていた。


作業服。


ヘルメットは被っていない。


目は血走っている。


誰かが声を上げた。


「……あいつ」


「前にここで働いてた……」


男はゆっくりと周囲を見渡す。


現場。


作業員たち。


解体途中のビル。


その手が、近くの鉄骨を掴んだ。


ギシッ。


金属が軋む。


次の瞬間。


バキンッ。


鉄パイプが簡単に曲がった。


作業員たちが凍り付く。


「……は?」


男は曲がった鉄材を片手で持ち上げる。


そして怒鳴った。


「俺をクビにしやがって!」


その腕が振り抜かれる。


ドゴンッ!!


鉄材が足場に叩きつけられた。


足場が崩れ、鉄パイプが次々と落ちていく。


作業員が叫ぶ。


「覚醒者だ!」


「逃げろ!!」


現場が一気にパニックになった。


ヘルメットを落とし、工具を放り出しながら現場の外へ向かう。


だが男は止まらない。


瓦礫の山の上から、作業員たちを見下ろしていた。


呼吸が荒い。


目は怒りで血走っている。


足元に転がっていたコンクリート塊を掴む。


両手で持ち上げる。


普通の人間なら持ち上げることもできない重さ。


しかし男は軽々と持ち上げた。


「俺が何年この会社に尽くしてきたと思ってんだ……!」


腕を振りかぶる。


ドゴッ!!


コンクリート塊が重機へ叩きつけられる。


ガシャーン!!


ガラスが砕ける。


ショベルカーのキャビンがひしゃげた。


近くにいた作業員が腰を抜かす。


「う、うそだろ……」


男はさらに鉄骨を掴む。


足場から引き抜く。


ギシギシと金属が悲鳴を上げる。


そして――


バキッ!!


鉄骨が根元から引きちぎられた。


その様子を見ていた作業員の一人が震えた声で言う。


「……怪力」


「完全に覚醒してる……」


男は鉄骨を振り回す。


怒鳴る。


「覚醒者だからクビだと!?」


「ふざけんな!」


「この力があれば、もっと役に立てると思ったのに!」


鉄骨が振り上げられる。


男の腕の筋肉が膨れ上がる。


「どけぇ!!」


怒号。


逃げ遅れた作業員がその場で凍り付く。


振り下ろされる鉄骨。


その瞬間だった。


地面に、光が走る。


六角形の魔法陣。


次の瞬間。


白と黄色の機体が現れた。


ヴェスパー。


ドゴンッ!!


振り下ろされた鉄骨が、その腕に叩きつけられる。


だが――


止まった。


ヴェスパーの左腕が、鉄骨を受け止めていた。


作業員が目を見開く。


「……え?」


ヴェスパーはそのまま鉄骨を押し返す。


金属が軋む。


覚醒者の男が歯を食いしばる。


「……なに?」


ヴェスパーが顔だけ後ろに振り返って言う。


「危険です」


静かな声。


作業員の方を向く。


「この場から離れてください」


我に返った作業員が走り出す。


その背中を確認すると、ヴェスパーはゆっくりと鉄骨を押しのけた。


覚醒者の男が後ろへよろめく。


瓦礫の上で体勢を立て直す。


男はヴェスパーを睨みつけた。


「……ヒーローか」


口元が歪む。


近くに転がっていたコンクリート塊を持ち上げる。


片手で。


「ちょうどいい」


腕を振りかぶる。


「ぶっ壊してやるよ!」


コンクリート塊がヴェスパーへ投げつけられた。


コンクリート塊が空中を飛ぶ。


ヴェスパーは一歩踏み込む。


右腕を振る。


バキンッ。


装甲の前腕部がわずかに展開する。


スティンガースタン。


伸びたブレード状ユニットがコンクリート塊を弾き飛ばした。


砕けた破片が瓦礫の上に散る。


覚醒者の男が笑う。


「やるじゃねぇか」


足元の鉄骨を掴む。


そのまま振り回す。


巨大な鉄骨が横薙ぎに迫る。


ヴェスパーは身を低く沈める。


鉄骨が頭上を通り過ぎた。


すぐに前へ踏み込む。


右腕で突く。


バチッ。


スタンユニットが男の肩に触れる。


青白い電流が走る。


男の体が一瞬硬直する。


「ぐっ……!」


しかし次の瞬間。


男は歯を食いしばり、そのまま腕を振り抜いた。


怪力。


ヴェスパーが横へ弾き飛ばされる。


瓦礫の上に着地。


男が笑う。


「効かねぇな!」


鉄骨を振り上げる。


ヴェスパーは静かに構え直す。


スティンガースタンの先端に微かな電光が走る。


「……すみませんが、制圧させてもらいます」


背後で、解体途中のビルの鉄骨が風に軋んだ。


再び鉄骨が振り下ろされる。


ヴェスパーは横へ踏み込み、瓦礫を蹴って距離を離す。


怪力覚醒者が笑う。


「逃げんな!」


鉄骨を横薙ぎに振る。


重い金属音。


ヴェスパーは体を沈め、その下を滑るように潜り抜けた。


そしてすぐに懐へ入る。


スティンガースタンを振りぬくように横なぎで当てる。


バチッ!!


青白い電撃が走る。


今度は脇腹。


男の体が大きく揺れる。


「ぐあっ……!」


だが、倒れない。


むしろ怒りが増している。


男はヴェスパーの腕を掴んだ。


ギシッ。


装甲が軋む。


「捕まえた!」


そのまま振り回す。


ヴェスパーの機体が宙を描く。


ドンッ!!


瓦礫の山へ叩きつけられた。


鉄骨が崩れ落ちる。


埃が舞う。


男は荒い息を吐きながら叫ぶ。


「ヒーローだかなんだか知らねぇが!」


「俺の人生返せよ!」


その瞬間。


瓦礫の中から、ヴェスパーが立ち上がる。


装甲に傷はない。


右腕のスティンガースタンが再び展開する。


ヴェスパーは静かに言った。


「あなたを傷つけるつもりはありません」


一歩前へ出る。


「ですが」


「これ以上の暴力は止めます」


瓦礫の上で、再び二人が向き合った。


男の呼吸は荒い。


怒りに満ちた目で、ヴェスパーを睨みつけている。


そして、吐き捨てるように言った。


「……全部お前のせいだ」


ヴェスパーがわずかに動きを止める。


男は続ける。


「テレビで見たぞ」


「秋葉原の戦い」


「空が光って、街がめちゃくちゃになった」


怒りで声が震える。


「その後だ」


「こんな体になったのは!」


拳を握る。


瓦礫が砕ける。


「覚醒者だって分かった瞬間、会社は俺を切った!」


「家族にも怖がられて!」


「仕事も全部終わった!」


男は吠える。


「全部お前のせいだろうが!!」


その言葉に。


ヴェスパーの動きが、一瞬止まった。


――図星だった。


ゼファル戦。


マナ爆発。


覚醒者の発生。


悠真の脳裏に、秋葉原の光景がよぎる。


その一瞬。


男が踏み込んだ。


「死ねぇ!!」


拳。


怪力。


ドゴォッ!!


重い衝撃。


ヴェスパーの機体が横へ吹き飛ぶ。


鉄骨に叩きつけられた。


装甲が鈍く鳴る。


瓦礫が崩れる。


男は息を荒くしながら笑った。


「どうしたヒーロー!」


「止まってんじゃねぇか!」


ヴェスパーがゆっくり立ち上がる。


そして右手ではなく、左手を前に出した。


掌の装甲がわずかに展開する。


魔法陣が浮かび上がる。


「……制圧します」


掌から光が放たれた。


ネクタルパルス。


ドンッ!!


マナ衝撃波が男の胸を直撃する。


男の体が大きくのけぞる。


足が止まる。


膝が崩れる。


「が……っ!」


その瞬間。


空中に六つの光。


ハニカムドローン。


ヴェスパーの声。


「拘束」


ドローンが一斉に展開する。


六角形の光。


魔法陣。


光の拘束フィールドが男を包み込む。


バチバチとマナが走る。


男の体が完全に動きを止めた。


瓦礫の上で、怪力の覚醒者は膝をついた。




解体現場の入口から、ARCの車両が数台入ってきた。


隊員たちが降りてくる。


その中央。


神谷一佐が現場へ歩いてくる。


瓦礫の上。


膝をついたままの覚醒者。


ハニカムドローンの魔法陣拘束が、男の動きを封じている。


隊員が近づく。


「対象を確保します」


男は荒い呼吸をしながら顔を上げる。


しかし、抵抗する力はもう残っていなかった。


ARC隊員が腕を取る。


マナ拘束手錠を取り出す。


カチッ。


金属音。


手錠が男の両手に嵌められる。


その瞬間。


男の体から力が抜けた。


マナ抑制。


覚醒能力が封じられる。


隊員が報告する。


「マナ拘束完了」


一佐は小さくうなずく。


「移送しろ」


「了解」


男は隊員たちに連れて行かれる。


その途中。


一度だけ振り返った。


ヴェスパーを睨む。


しかし、もう何も言わなかった。


静寂が戻る。


瓦礫の上に立つヴェスパー。


その様子を見ながら、一佐が口を開く。


「ヴェスパー」


静かな声。


「さっきの話は聞いていた」


少し間。


「……気に病むことはない」


短い言葉。


ヴェスパーは答えない。


金色の複眼が、静かに一佐の方を向いているだけだった。


やがて視線を戻す。


拘束された覚醒者。


マナ手錠。


ARC隊員たち。


すべてを確認する。


数秒。


ヴェスパーの背後に、六つの光が浮かぶ。


ハニカムドローンによる六角形の魔法陣が展開される。


転移陣。


一佐はそれを黙って見ていた。


次の瞬間。


光。


ヴェスパーの姿は、現場から静かに消えていた。




HIVE格納庫に青白い光が収束する。


六角形の魔法陣。


その中心に、ヴェスパーが現れた。


静かな空間の中で、機体がゆっくりと直立する。


ハニカムドローンが周囲を旋回し、順に格納庫へ戻っていく。


光翼が折りたたまれる。


静寂。


数秒。


『魂融合を解除します』


SARAの声が響く。


機体の胸部に淡い光が灯る。


次の瞬間。


光が広がる。


悠真の魂が機体から引き離される。


空間が歪み、


悠真の体が床の上に現れた。


魂融合解除。


悠真は一歩よろめく。


すぐに体勢を立て直す。


格納庫の中央。


目の前にはヴェスパー。


いつものように直立している。


沈黙。


その時、頭上から声がかかる。


リゼリアの声。


「おかえりなさい、悠真」


悠真は小さく息を吐いた。


「……ただいま」


しかし、その声はいつもより少しだけ重かった。




二人は会議室へと移動した。


会議室のモニターには、大阪の事件の資料が表示されていた。


解体ビル現場。


暴走した覚醒者。


確保された後の写真。


悠真は腕を組み、画面を見ている。


テーブルの向かいにはリゼリア。


その隣に、如月直哉が座っていた。


直哉が資料を操作する。


モニターにグラフが表示された。


覚醒者事件の発生数。


ここ数か月で、ゆっくりと増えている。


直哉が言う。


「覚醒者犯罪の増加は予測通りです」


悠真が顔を上げる。


「予測通り?」


直哉は頷いた。


「ゼファル戦のマナ爆発」


「それによって、覚醒者が発生した」


モニターが切り替わる。


覚醒者事件。


暴走。


事故。


犯罪。


「社会が対応できるはずがありません」


リゼリアが続ける。


「覚醒者の多くは、能力を制御できていません」


「そして」


少し言葉を選ぶ。


「社会は、覚醒者を恐れています」


悠真はテーブルに置かれた資料を見る。


覚醒者収容施設。


マナ抑制魔法陣。


拘束手順。


悠真が小さく言う。


「犯罪を起こしてない覚醒者でも……」


「仕事を失ったり、学校で孤立したりする」


リゼリアは静かに頷いた。


「ええ」


悠真はしばらく黙る。


大阪の覚醒者の顔写真がモニターに映っていた。


悠真が呟く。


「……あの人も」


「最初から暴れるつもりだったわけじゃないんだろうな」


部屋に少し重い沈黙が落ちる。


直哉がゆっくり言った。


「問題は」


「この状況が、まだ始まったばかりだということです」


その言葉に、悠真が顔を上げた。


直哉は続ける。


「覚醒者は、これからも増えるだろう」


「そして」


「社会はまだ、その答えを持っていない」


モニターの光が、静かな会議室を照らしていた。


「だけど、この状況を作り出してしまったのは俺です」


「その責任だけはしっかり取るつもりです」


悠真は、沈鬱な表情でそう呟いた。




ニュース番組の生放送。


スタジオの照明が明るく灯っている。


アナウンサーが原稿を読み上げていた。


「本日午後、大阪市内の解体工事現場で発生した覚醒者による暴走事件について、警察と自衛隊の特殊部隊が——」


画面の横には現場映像。


崩れた足場。


瓦礫。


避難する作業員。


「なお、現場では——」


その時だった。


ザッ。


画面が一瞬揺れる。


アナウンサーが言葉を止める。


「……?」


モニターが乱れる。


ザザッ。


ノイズ。


スタジオのスタッフがざわつく。


「映像が——」


「どうなってる!?」


次の瞬間。


画面が真っ黒になった。


アナウンサーが慌てる。


「ただいま映像にトラブルが——」


その瞬間。


新しい映像が現れる。


薄暗い部屋。


背後には大きな窓。


その向こうに広がるのは、夜の秋葉原。


ネオンの光が街を染めている。


窓の前に、一人の男が立っていた。


大きな体。


黒いコート。


鋭い目。


黒崎蓮司。


その背後には、四つの影が並んでいる。


細身の女が一人。


手の中でナイフをくるくると回している。


腕を組んだ、虎柄のスカジャンを着た大柄な男。


その隣には、不安定な笑みを浮かべる若い白い服を着た女。


そして、端末を操作している少年。


五人の姿が、静かにカメラへ映し出される。


男が一歩前へ出た。


低い声が、テレビのスピーカーから響く。


「聞こえるか」


少し間。


男はカメラをまっすぐ見据える。


「覚醒者たち」


ネオンが背後で揺れる。


男が続ける。


「初めましてだな」


口元がわずかに歪む。


「俺は黒崎蓮司」


短く名乗る。


黒獣こくじゅうだ」


背後の四人は、動かない。


ただ静かに立っている。


その存在だけで、画面に異様な圧力が漂う。


黒獣は続けた。


「最近、こういうニュースばかりだ」


画面が一瞬切り替わる。


銀行強盗。


放火。


学校暴走。


覚醒者事件のニュース映像。


すぐに黒獣の姿へ戻る。


「覚醒者は危険だ」


「怪物だ」


「隔離しろ」


黒獣は小さく笑った。


「そう言われてる」


少し間。


「違うか?」


黒獣はカメラを見据える。


「覚醒者のお前たち」


低く言う。


「もう分かってるはずだ」


「この社会に」


「居場所はない」


スタジオではスタッフが叫んでいる。


「回線切れ!」


「放送止めろ!」


だが映像は続く。


画面が少し引く。


背後の窓。


ネオンの街。


そして、はっきり映る建物。


ラジオ会館。


黒獣が言う。


「だが」


「ここにはある」


ゆっくりと。


「覚醒者の街が」


そして言い切る。


「秋葉原へ来い」


「覚醒者なら歓迎する」


背後の女が小さく笑う。


大柄な男は腕を組んだまま動かない。


もう一人の女は楽しそうに体を揺らしている。


少年は無言で端末を操作していた。


黒獣が最後に言う。


「力があるなら」


「好きに生きろ」


少し間。


「ここは」


「そういう街だ」


次の瞬間。


ザザッ。


映像が崩れる。


ノイズ。


そしてニュース画面へ戻る。


スタジオは完全に混乱していた。


アナウンサーが震える声で言う。


「た、ただいま——」


「不明な映像が放送されました——」


その放送は。


全国に流れていた。



いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


現在、別作品として

『不遇スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する』

というダンジョンファンタジーも連載しています。


意味不明と言われたスキル【球術】で戦う主人公と、鍛冶職の少女がダンジョンを攻略していく物語です。


もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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