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魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》  作者: 昼ライス
Season 2 ~覚醒者都市~

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第1話 覚醒者犯罪

毎日20時投稿

冬の空気が、教室の窓越しに静かに差し込んでいた。


大学の講義室。


前方の黒板の前で、教授が淡々と話を続けている。


チョークの音。


ノートをめくる音。


キーボードを叩く音。


昼前の講義らしい、落ち着いた空気だった。


神谷悠真は、ノートを取りながら教授の話を聞いていた。


特別なことは何もない。


どこにでもある大学の講義。


窓の外には、冬の薄い青空が広がっている。


秋の戦いから、二か月弱。


街はすでに落ち着きを取り戻していた。


少なくとも――表面上は。


教授の声が続く。


「では、この理論の重要なポイントですが――」


悠真はペンを走らせる。


板書を書き写しながら、時折窓の外に視線を向ける。


普通の学生生活。


朝に大学へ来て、講義を受けて、帰る。


そのはずだった。


だが、悠真の腕にはもう一つの生活がある。


左手首。


腕時計のように装着された、小さなデバイス。


講義の途中、ふと。


それがわずかに震えた。


悠真の手が止まる。


一瞬だけ視線を落とす。


黒い画面。


通知の表示。


――マナ活性化反応。


悠真は何事もなかったように視線を戻した。


教授はまだ話を続けている。


周囲の学生も、誰も気づいていない。


悠真は小さく息を吐いた。


そして、ペンを置く。


講義は、ちょうど休み時間に入ろうとしていた。




福岡市内。


昼前の銀行。


窓口には数人の客が並び、ロビーの椅子には順番を待つ人たちが座っている。


いつもの平日。


静かな空気。


自動ドアが開いた。


男たちが入ってくる。


三人。


帽子を深くかぶり、顔の下半分を隠している。


その先頭の男が、立ち止まった。


次の瞬間。


拳銃が引き抜かれる。


「動くな!」


鋭い声が銀行内に響いた。


空気が凍る。


客の一人が息を呑む。


窓口の女性行員の手が止まった。


男は銃口を振り回す。


「全員床だ! 伏せろ!」


悲鳴。


椅子が倒れる音。


人々が慌てて床に伏せる。


別の男がカウンターへ走る。


バッグを叩きつける。


「金を出せ!」


行員は震えながら引き出しを開ける。


そのときだった。


リーダーの男が、ゆっくりと手を上げた。


指先がわずかに光る。


次の瞬間。


バチッ。


青白い火花が走った。


電撃。


近くにいた行員の体が跳ねる。


そのまま床に崩れ落ちた。


ロビーにざわめきが広がる。


男は自分の手を見つめている。


もう一度、指を動かす。


火花。


電気の匂い。


男の口元が歪んだ。


「……見たか」


低い声。


そして笑う。


「覚醒者だぞ、俺は」


周囲の客たちは、言葉も出ない。


男は振り返る。


ロビーの壁際に並んだATM。


数台の機械が静かに待機している。


男はその一台の前に立った。


右手を持ち上げる。


指先から青白い電流が走る。


バチッ。


電撃がATMの金属パネルに叩きつけられる。


火花が散る。


機械が震える。


もう一度。


バチバチッ。


電撃が連続して流れ込む。


金属が赤く変色する。


プラスチックの焦げる匂いが広がる。


数秒後。


バキン。


鈍い音が響いた。


ATMの前面パネルが歪む。


男が足で蹴り飛ばす。


金属が外れ、内部がむき出しになる。


札束が見えた。


男が笑う。


「ほらな」


背後の仲間に顎で合図する。


「袋出せ」


客たちは床に伏せたまま動けない。


誰かが小さくすすり泣いている。


焦げた匂いがロビーに広がっていた。


壊れたATMの前で、男はむき出しになった内部を見下ろしている。


札束が詰まったカセット。


仲間の一人がバッグを広げた。


「早くしろ」


男が言う。


もう一人が手を突っ込み、札束を引き抜いた。


紙幣の束が次々とバッグに放り込まれる。


その様子を、床に伏せた客たちが恐る恐る見上げている。


一人の中年男性が、思わず声を上げた。


「やめろ……」


男が振り返る。


ゆっくりと歩み寄る。


床に伏せた男の前で立ち止まる。


指先に、再び光が走った。


バチッ。


短い電撃。


中年男性の体が跳ねる。


そのまま床に崩れ落ちた。


ロビーに悲鳴が広がる。


男は鼻で笑った。


「大人しくしてりゃいいんだよ」


もう一度、指を鳴らす。


青白い火花が散った。


「覚醒者に逆らうな」




薄暗い管制室。


壁一面のモニターが静かに光っている。


HIVE。


中央のスクリーンに、波形データが流れていた。


規則正しく動いていたラインが、ある瞬間から大きく跳ね上がる。


警告表示。


【マナ活性化反応】


電子音が鳴る。


『マナ活性化反応を検知』


SARAの声が室内に響いた。


モニターに地図が表示される。


日本列島。


その一部が拡大される。


九州。


さらにズーム。


福岡市。


一点が赤く点滅していた。


リゼリアが画面を見つめる。


指先でデータを操作する。


波形を解析。


マナ出力。


反応パターン。


数秒。


「……覚醒者ですか」


静かな声だった。


画面に数値が並ぶ。


マナ出力推定。


リゼリアが続ける。


「出力はCランク相当」


別のモニターに現場の情報が映る。


銀行。


警察への通報記録。


強盗事件。


『現地警察が出動中』


リゼリアは小さく息をついた。


「また、覚醒者犯罪ですね」


その言葉は、もう特別な響きではなかった。


最近、増えている。


世界中で。




ARC本部。


作戦指揮室。


大型モニターに日本地図が表示されている。


福岡。


赤いマーカーが点滅していた。


隊員が報告する。


「福岡市内の銀行で強盗事件」


「覚醒者の能力使用を確認」


室内の空気が引き締まる。


神谷一佐は腕を組んだまま画面を見ていた。


モニターには現場の速報が流れている。


警察無線。


通報記録。


目撃証言。


隊員が続ける。


「電撃系能力と推定」


「負傷者あり」


一佐は短く息を吐く。


「ランクは」


別の隊員が答える。


「HIVE解析、Cランク」


数秒の沈黙。


一佐は視線を上げた。


「現地部隊は」


「出動中です」


「警察と連携して包囲に入ります」


一佐は小さくうなずく。


「覚醒者を確認次第、制圧」


「被害を拡大させるな」


「了解」


隊員たちが一斉に動き出す。


モニターの福岡が、赤く点滅し続けていた。




講義室にチャイムが響いた。


休み時間。


学生たちが一斉に立ち上がる。


椅子が引かれる音。


ざわめき。


悠真は席に座ったまま、ゆっくりと腕を上げた。


手首。


スマートウォッチの画面が淡く光っている。


通知。


――マナ活性化反応。


悠真は視線を落とす。


画面に通信が開く。


『マナ活性化反応を確認』


SARAの声。


悠真は周囲をちらりと見た。


学生たちは雑談に夢中で、誰も気にしていない。


悠真は小さく口を動かす。


「場所は」


『福岡県福岡市』


リゼリアの声が続く。


「銀行強盗です」


「覚醒者の能力使用を確認」


悠真は立ち上がった。


バッグを肩に掛ける。


「ランクは」


「Cランク相当です」


数秒。


悠真は軽くうなずく。


「行きます」


教室を出る。


廊下は休み時間の学生で賑わっていた。


悠真はその中を歩きながら、静かに腕を操作する。


『転移座標設定』


SARAの声。


『ヴェスパー出動準備完了』


悠真は階段を降り、人気のない場所へ向かった。


大学構内。


建物の裏手。


人通りの少ない場所。


冬の風が静かに吹いている。


悠真は周囲を見回した。


誰もいない。


腕を上げる。


スマートウォッチの画面が光る。


魔法陣の座標が表示される。


『転移座標固定』


SARAの声。


悠真は小さく息を吐いた。


「行きます」


足元に光が走る。


魔法陣。


青白い光が円を描く。


空間が歪む。


光が一瞬、強くなる。


次の瞬間。


悠真の姿は消えた。




――福岡。


銀行の上空。


空間が揺らぐ。


青い魔法陣が空中に展開する。


その中心から、一つの影が現れた。


黄色い装甲。


蜂を思わせるシルエット。


機体は空中に現れ、そのまま数メートル落下する。


地面へ。


ドンッ。


重い音。


膝をつき、片手を地面につける。


アスファルトがわずかに鳴る。


警察車両が並び、周囲は規制線で囲まれている。


周囲の警察官たちが振り向いた。


突然現れた機体を見て、ざわめきが広がった。


「ヴェスパーだ!」


ヴェスパーはゆっくりと立ち上がる。


視線の先。


銀行の入口。


シャッターは途中まで降ろされ、内部は見えない。


中から、かすかに物音がする。


怒鳴り声。


金属を叩く音。


ヴェスパーは数歩、前へ進んだ。


シャッターの前で立ち止まる。


両手をかける。


金属が軋む。


ゆっくりと力がかかる。


ギギギ……


シャッターが歪む。


さらに力を込める。


金属が悲鳴のような音を立てた。


バキッ。


シャッターが持ち上がる。


隙間が広がる。


ヴェスパーはそのまま金属を押し上げた。


内部が見える。


銀行のロビー。


床に伏せた客たち。


壊されたATM。


そして――


男たち。


その中央に、電撃をまとった男が立っていた。


男が振り向く。


ヴェスパーを見る。


口元が歪んだ。


「……ヒーローか」


男の指先に火花が走る。


青白い電撃。


空気が弾ける。


「来やがったか」


男はゆっくりと歩き出す。


床に伏せた客たちが震えている。


壊れたATMの前。


仲間の男たちは袋に札束を詰めていた。


ヴェスパーは一歩、銀行内へ踏み込む。


足音が静かに響く。


ロビーの奥。


床に伏せた客の一人が、恐る恐る顔を上げた。


ヴェスパーの姿を見る。


息を呑む。


ヴェスパーはその客に視線を向けた。


短く手を動かす。


出口を指す。


客が理解する。


小さくうなずき、ゆっくりと立ち上がる。


その動きを見た男が笑った。


「動くな」


指先に電流が集まる。


バチッ。


電撃が放たれる。


ヴェスパーの前腕が上がる。


ハニカムドローンが展開する。


空中に六枚の小型機。


六角形の光の壁。


電撃が弾ける。


火花が散った。


客たちの間に、ざわめきが広がる。


ヴェスパーはそのまま前へ出た。


客たちの前に立つ。


背中で守るように。


男が舌打ちする。


「邪魔だ」


腕を振る。


今度は連続放電。


電撃がロビーを走る。


ヴェスパーは動かない。


光の壁が電撃を受け止めていた。


その隙に、客たちが出口へ走り出す。


床に伏せていた人々が、次々と立ち上がる。


ロビーが騒然とする。


男は歯をむいた。


「逃がすか!」


電撃が再び集まる。


電撃が放たれる。


青白い光がロビーを走る。


ヴェスパーは一歩踏み出した。


スワームシールドが電撃を受け止める。


火花が散る。


焦げた匂いが広がった。


背後では客たちが出口へ向かって走っている。


悲鳴。


足音。


強盗の仲間たちが振り向く。


「おい!」


袋を抱えたまま、慌てて拳銃を構える。


発砲。


乾いた銃声が銀行内に響いた。


弾丸がヴェスパーの装甲に当たる。


弾かれる。


火花だけが散った。


ヴェスパーは止まらない。


まっすぐ前へ進む。


電撃覚醒者が歯を食いしばる。


両手を広げた。


電流が腕を走る。


バチバチと空気が鳴る。


「消えろ!」


強烈な放電。


ロビー全体を覆うように電撃が広がる。


その瞬間。


ハニカムドローンが動いた。


六機のドローンが高速で配置を変える。


六角形の光の壁が展開される。


電撃がぶつかる。


激しい光。


火花が弾けた。


ヴェスパーはその光の中を突き進む。


距離が一気に縮まる。


電撃覚醒者の目が見開かれた。


「なっ——」


ヴェスパーの腕が動く。


スティンガースタン。


男の手から拳銃が弾き飛ばされた。


金属が床を滑る。


男がよろめく。


ヴェスパーはさらに一歩踏み込んだ。


男は後ずさる。


床を滑るように距離を取る。


腕を振り上げた。


電流が走る。


バチバチと火花が散る。


「近づくな!」


電撃が放たれる。


ヴェスパーは体をひねる。


光が装甲の横をかすめる。


壁に当たった電撃が弾け、石膏が砕けた。


男は歯を食いしばる。


両手を前に突き出した。


今度は連続放電。


空気が震える。


青白い光がロビーを走る。


ヴェスパーは止まらない。


前へ。


一直線に距離を詰める。


電撃が装甲をかすめ、火花が散る。


数歩。


それだけで距離は消えた。


男の目が見開かれる。


ヴェスパーの腕が動いた。


重い打撃。


男の腹部に衝撃が叩き込まれる。


空気が抜ける音。


男の体が浮き、床へ叩きつけられた。


転がる。


数メートル滑り、動きが止まる。


電流の光が消えた。


銀行のロビーが静かになる。


その静寂を破るように、入口から足音が響いた。


「ARCだ!」


武装した隊員たちが突入してくる。


ARC隊員たちがロビーへ広がる。


銃口を向けたまま周囲を制圧する。


「動くな!」


残っていた強盗たちはすでに戦意を失っていた。


袋を落とし、その場に座り込む。


数人の隊員が電撃覚醒者のもとへ駆け寄った。


男は床に倒れたまま、かすかに呻いている。


「確保します」


隊員の一人が腰の装備に手を伸ばす。


取り出されたのは金属製の手錠。


内側には三角形の魔法陣刻印。


男の両手首が後ろへ回される。


カチッ。


手錠が閉じる。


その瞬間。


男の体を走っていた微かな電流が、すっと消えた。


男が顔を上げる。


指を動かす。


火花は出ない。


「……なんだ」


戸惑いの声。


隊員が答える。


「マナ拘束手錠だ」


別の隊員が周囲を確認する。


「覚醒者確保」


銀行のロビーに緊張がほどけていく。


床に散らばった札束。


壊れたATM。


避難した客たちが、入口の外から様子を見ていた。


その中で、ヴェスパーは静かに立っている。




銀行の外。


規制線の向こうに人だかりができていた。


パトカーの赤色灯が回っている。


救急隊員が担架を運び、警察官が周囲を整理している。


ARC隊員たちは確保した男たちを外へ連行していた。


電撃覚醒者は手錠を掛けられたまま、二人の隊員に挟まれて歩かされている。


男はヴェスパーの姿を睨んだ。


何か言いかけたが、隊員に押されてそのまま車両へ連れて行かれる。


周囲の人々がざわめく。


スマートフォンを向ける者もいた。


「ヴェスパーだ……」


小さな声が広がる。


ヴェスパーはその様子を一瞬だけ見渡した。


負傷者はすでに救急隊が対応している。


ARC隊員が銀行から出てきた。


「現場制圧完了」


短い報告。


ヴェスパーは小さくうなずく。


そして視線を上げた。


冬の空。


静かな青空が広がっている。


次の瞬間。


足元に光が広がった。


魔法陣。


青白い光が円を描く。


ヴェスパーの姿が光に包まれる。


そして消えた。


その場に残ったのは、回転する赤色灯の光だけだった。




大学の講義室。


休み時間が終わり、学生たちが席に座り始めている。


ざわめき。


椅子の音。


ドアが開く。


悠真が教室に入ってきた。


何事もなかったように歩き、空いている席へ向かう。


近くの席に座っていた佐伯が顔を上げた。


「遅かったな」


悠真はバッグを椅子の横に置く。


「ちょっとトイレが混んでて」


友人は特に気にした様子もなく、ノートを開いた。


「もうすぐ始まるぞ」


前方では教授が資料を整えている。


学生たちが静かになっていく。


悠真は席に座った。


ノートを開く。


ペンを手に取る。


少し前まで福岡の銀行にいたとは、誰も知らない。


教授が教壇に立つ。


「では、続きを始めます」


チョークが黒板を走る。


教室は再び、いつもの講義の空気に戻っていた。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


現在、別作品として

『不遇スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する』

というダンジョンファンタジーも連載しています。


意味不明と言われたスキル【球術】で戦う主人公と、鍛冶職の少女がダンジョンを攻略していく物語です。


もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いします。

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