第25話 機械の戦士
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秋葉原の夜空。
ネオンの光の上で、二つの機影が交差していた。
ヴェスパー。
そしてゼファル。
衝突。
火花。
次の瞬間、二体はすでに別の位置にいる。
中央通りの上空。
その速度は、地上からでは追いきれない。
ARC部隊の隊員が空を見上げる。
「……見えない」
別の隊員が双眼鏡を構える。
「いや、いる」
「高速すぎるだけだ」
夜空の一点。
ネオン看板の上で、ヴェスパーが着地する。
脚部スラスターが微かに噴射し、姿勢を安定させる。
その瞬間。
背後の空気が歪んだ。
ゼファル。
黒い機体が、すでに背後にいた。
拳が振り抜かれる。
ヴェスパーが反応する。
体を沈め、回避。
拳が看板を貫いた。
ネオン管が砕ける。
光の破片が夜空へ散る。
ヴェスパーが跳ぶ。
エネルギー翼が展開する。
空へ離脱。
その背後を、ゼファルが追う。
加速。
中央通りの上空で、二体が再び衝突する。
金属音。
スティンガーブレードが振り抜かれる。
ゼファルが腕で受ける。
火花。
だが、すぐに距離が開く。
再び加速。
再び衝突。
まるで。
互いの速度を確かめ合うように。
中央通りの下。
ARC部隊がその戦いを見上げていた。
隊員が呟く。
「……化け物同士だ」
神谷一佐は何も言わない。
ただ空を見ている。
ネオンの光の上で、二つの機影が再び交差した。
衝突。
火花。
次の瞬間には、互いに距離を取っている。
ヴェスパーが空中で旋回する。
背部のエネルギー翼が光り、機体を安定させた。
黄金の複眼が前方を捉える。
ゼファル。
黒い機体が、夜空に静止していた。
赤い単眼が、わずかに動く。
ヴェスパーを追っている。
悠真が低く言う。
「……来ない?」
ゼファルは攻撃しない。
ただ、見ている。
その視線は、まるで――
機械が標本を観察しているようだった。
そして。
機械の声。
「戦闘行動、記録」
一瞬の沈黙。
「機動パターン解析」
中央通りの下。
ARC隊員の一人が顔を上げる。
「……解析?」
神谷一佐は空を見たまま言った。
「観察している」
低い声。
「戦いながらな」
その瞬間。
ゼファルが動いた。
空中で加速。
ヴェスパーへ一直線。
悠真が反応する。
「来た!」
ヴェスパーが横へ回避する。
だが。
ゼファルの拳は、その軌道をなぞるように追ってきた。
衝撃。
ヴェスパーの肩装甲をかすめる。
機体が空中で回転する。
悠真が息を呑む。
「今の……」
通信が入る。
リゼリアの声。
落ち着いていた。
だが、その声はわずかに緊張している。
「悠真」
「ゼファルは、攻撃しているだけじゃない」
一瞬の間。
「あなたのことを調べてるわ」
夜空。
赤い単眼が再び光った。
ゼファルの声。
「戦闘パターン更新」
黒い機体が再び加速する。
その動きは、先ほどよりわずかに速くなった。
ヴェスパーとゼファルの戦闘は続いている。
衝撃と火花があちこちで散る。
気づけば次の瞬間には、二つの機影がすでに別の場所へ移動している。
ビルの壁面。
高架の上。
空中。
三次元の戦闘。
中央通りの下。
ARC部隊が空を見上げていた。
隊員の一人が言う。
「速度が……」
言葉が途切れる。
神谷一佐も空を見ている。
その視線は冷静だった。
だが、眉がわずかに寄っている。
隊員が報告する。
「目標二体、中央通り上空で交戦継続!」
「戦闘速度、追跡困難!」
別の隊員が言う。
「対空ミサイル、発射しますか」
神谷一佐は即答した。
「却下だ」
短い言葉。
「ヴェスパーを巻き込む」
隊員がうなずく。
「了解」
その時。
夜空で衝撃が弾けた。
火花。
ネオン看板が揺れる。
ビルのガラスが割れた。
ARC隊員が思わず叫ぶ。
「近い!」
神谷一佐は動かない。
ただ戦闘を見ている。
二つの機影。
黄金の機体。
黒い機体。
互いに一歩も引かない。
神谷一佐が小さく呟いた。
「……手が出せん」
隊員が振り向く。
神谷一佐は空を見たまま言う。
「これは、あいつの戦場だ」
中央通りの上空。
ヴェスパーとゼファルの戦闘は、さらに激しくなっていた。
地下研究施設、HIVE。
管制室の中央に、巨大なホログラムスクリーンが浮かんでいる。
映し出されているのは――
秋葉原中央通り上空。
二つの機影。
ヴェスパー。
そしてゼファル。
その動きは速すぎて、通常映像では追えない。
モニターには、スローモーション解析映像が映っていた。
フレーム分解。
軌道予測。
衝突ポイント。
戦闘データが次々と表示されていく。
SARAの声。
『戦闘解析中』
画面の横に数値が並ぶ。
機動速度。
反応時間。
攻撃軌道。
その中の一つのグラフを、リゼリアが見つめていた。
彼女の表情が、わずかに変わる。
「……違う」
小さく呟く。
SARAが応答する。
『何がですか』
リゼリアはモニターを指差した。
ゼファルの軌道データ。
攻撃パターン。
回避ルート。
それらが、時間とともに微妙に変化している。
「この動き……」
リゼリアは目を細めた。
「最初と違う」
モニターの中。
ヴェスパーの回避。
その直後。
ゼファルの拳が、その軌道を追うように動く。
リゼリアが言う。
「反射じゃない」
短い沈黙。
「考えてる」
SARAが解析を続ける。
『戦闘データ更新を確認』
『対象は戦闘情報を逐次記録しています』
モニターの中央。
赤い単眼。
ゼファルがヴェスパーを追っている。
リゼリアが小さく息を吐く。
「悠真」
通信回線を開く。
「聞こえる?」
一瞬の間。
「相手は、怪物じゃない」
静かな声だった。
「戦士よ」
秋葉原の夜空。
その言葉の意味を証明するように。
ゼファルの動きは、さらに洗練されていった。
秋葉原上空。
ネオンの光の上で、二つの機影が再び交差した。
衝突。
火花。
次の瞬間には、互いに距離を取っている。
ヴェスパーが空中で旋回する。
エネルギー翼が姿勢を支える。
その視界の先。
ゼファル。
黒い機体が、夜空に静止している。
赤い単眼が光る。
悠真が低く言う。
「……なら」
一瞬の間。
「こっちから行く」
ヴェスパーが加速した。
空気を裂いて前進する。
ゼファルへ一直線。
スティンガーブレード展開。
前腕装甲が開く。
鋭い光刃。
距離が詰まる。
ゼファルの拳が動く。
だが。
その一瞬前。
ヴェスパーの背部が開いた。
ハニカムユニット。
六つのセルが光る。
「ドローン展開」
蜂型ドローンが飛び出した。
六機。
夜空へ散開する。
同時に。
ゼファルの周囲を旋回。
包囲。
ドローンが光弾を放つ。
小さな爆発。
閃光。
ゼファルの視界を遮る。
その隙。
ヴェスパーが突っ込んだ。
スティンガーブレード。
一直線の刺突。
金属音。
火花。
刃がゼファルの装甲をかすめる。
だが。
次の瞬間。
ゼファルの腕が動いた。
速い。
ヴェスパーの腕を掴む。
空中で動きが止まる。
悠真が息を呑む。
「……!」
赤い単眼が、至近距離で光る。
ゼファルが言った。
「攻撃パターン、記録」
その瞬間。
黒い機体の拳が振り抜かれた。
衝撃。
ヴェスパーの機体が弾き飛ばされる。
夜空に火花が散った。
中央通りの上空で。
ヴェスパーの機体が空中を滑る。
衝撃の余波が、まだ機体を震わせていた。
脚部スラスターを噴射する。
姿勢を制御し、回転を止める。
ネオンの光の中で、ヴェスパーが再び体勢を立て直した。
黄金の複眼が前方を捉える。
ゼファル。
黒い機体が、すでに距離を詰めている。
速い。
悠真が反応する。
「ドローン、援護!」
六機のドローンが散開する。
夜空を横切り、ゼファルの周囲へ回り込む。
光弾。
小さな爆発が弾けた。
だが。
ゼファルは止まらない。
爆発の中を突き抜ける。
赤い単眼が光る。
そして。
その右腕が展開した。
黒い装甲がスライドする。
内部から、細い光が現れる。
次の瞬間。
光が刃となった。
長い。
鋭い。
エネルギーブレード。
悠真が息を呑む。
「武装……!」
ゼファルが加速した。
一直線。
ヴェスパーへ。
刃が振り下ろされる。
ヴェスパーが横へ跳ぶ。
回避。
しかし。
ゼファルの動きは止まらない。
刃の軌道が変わる。
追ってくる。
「くっ……!」
閃光。
エネルギーブレードがヴェスパーの胸部装甲をかすめた。
火花。
金属音。
装甲が裂ける。
ヴェスパーの機体が空中で揺れた。
中央通りの下。
ARC隊員が叫ぶ。
「被弾!」
神谷一佐の視線が鋭くなる。
上空。
ヴェスパーはまだ飛んでいる。
だが。
胸部装甲に、深い傷が走っていた。
夜空で。
ゼファルの赤い単眼が、静かに光っていた。
ヴェスパーが後退する。
胸部装甲の裂け目から、細い光が漏れていた。
機体の内部で、警告音が鳴る。
SARAの声。
『胸部装甲損傷』
『構造安定率、低下』
悠真が歯を食いしばる。
「まだ動ける」
黄金の複眼が、再び前方を捉える。
ゼファル。
黒い機体は、距離を取っていた。
空中に静止している。
赤い単眼が、ヴェスパーを観察していた。
悠真が低く言う。
「今なら――」
ヴェスパーの胸部中央。
魔導コアが強く輝く。
光が集まり始める。
ネクタルレイ。
照射準備。
中央通りの下。
ARC隊員がその光を見上げる。
「主砲……?」
神谷一佐の目が細くなる。
夜空。
ヴェスパーの胸部から、眩い光が漏れる。
その瞬間。
ゼファルが動いた。
消える。
そう見えるほどの加速。
悠真が反応する。
「速――」
言葉が終わらない。
次の瞬間。
ゼファルはすでに目の前にいた。
赤い単眼。
至近距離。
エネルギーブレードが振り上げられる。
ネクタルレイの光が消える。
射撃不能。
悠真が叫ぶ。
「近すぎる!」
刃が振り下ろされた。
ヴェスパーが必死に体をひねる。
閃光。
刃がかすめる。
金属音。
ヴェスパーの機体が弾き飛ばされた。
ネオンの上空で、機体が大きく揺れる。
ネクタルレイは撃てない。
ゼファルは、それを理解していた。
弾き飛ばされたヴェスパーが、空中で体勢を崩す。
脚部スラスターが噴射する。
姿勢制御。
だが。
わずかな遅れ。
その隙を、ゼファルは見逃さなかった。
黒い機体が加速する。
一直線。
悠真が気づく。
「……来る!」
ヴェスパーが空中で回避行動を取る。
右横へ跳ぶ。
エネルギー翼が姿勢を支える。
だが。
ゼファルの軌道が変わる。
追ってくる。
まるで、回避先を読んでいたかのように。
次の瞬間。
赤い単眼が光る。
ゼファルの腕が伸びた。
ヴェスパーの脚部を掴む。
空中で動きが止まる。
悠真が息を呑む。
「……!」
ゼファルの右腕。
エネルギーブレードが再び展開する。
光の刃。
ヴェスパーの脚関節へ向く。
悠真が必死に機体をひねる。
スラスター全開。
だが。
遅い。
閃光。
刃が振り抜かれた。
金属音。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
ヴェスパーの左脚が、空中で切断された。
装甲片が夜空へ散る。
脚部ユニットが回転しながら落下していく。
中央通りの下。
ARC隊員が叫んだ。
「脚部損傷!」
神谷一佐の目が鋭くなる。
夜空。
ヴェスパーの機体が、片脚を失ったまま大きく傾いた。
ゼファルの赤い単眼が、その様子を静かに見つめていた。
左脚を失った機体は、バランスを失っている。
スラスターが噴射する。
姿勢制御。
だが。
機体は安定しない。
悠真が叫ぶ。
「くっ……!」
警告音が重なる。
SARAの声。
『左脚ユニット喪失』
『姿勢制御能力、低下』
『飛行安定率、危険域』
機体が回転する。
ネオンの光が視界を流れる。
中央通り。
ビルの屋上。
看板。
すべてが高速で過ぎていく。
悠真が必死に操縦する。
「まだだ……!」
スラスターを吹かす。
だが。
落下速度が止まらない。
その瞬間。
夜空に、黒い機影が現れた。
ゼファル。
静止している。
赤い単眼が、落下するヴェスパーを追っている。
まるで。
結果を観察する研究者のように。
中央通りの下。
ARC部隊が騒然となる。
隊員が叫ぶ。
「ヴェスパーが落ちる!」
神谷一佐が即座に言う。
「退避!」
次の瞬間。
ヴェスパーの機体がビルの側面へ激突した。
衝撃。
コンクリートが砕ける。
そのまま滑り落ちる。
火花。
瓦礫。
そして。
機体は中央通りの路面へ叩きつけられた。
轟音。
煙が上がる。
ネオンの街が、一瞬静まり返った。
空の上。
ゼファルが静かに浮いている。
赤い単眼が、煙の中を見つめていた。
砕けたアスファルト。
崩れた街灯。
その中央に。
ヴェスパーが倒れている。
左脚は、もうない。
断面から光が漏れていた。
機体は動かない。
ARC隊員が銃を構えたまま立ち尽くしている。
誰も近づけない。
神谷一佐が低く言う。
「状況報告」
隊員が答える。
「ヴェスパー、転倒」
「左脚ユニット喪失」
短い沈黙。
その時。
煙の中で、機体が動いた。
ヴェスパーの腕が地面を押す。
ゆっくりと。
機体が起き上がる。
片脚のまま。
立ち上がった。
ARC隊員が息を呑む。
「……立った」
神谷一佐は何も言わない。
ただ、その姿を見ている。
ヴェスパーは片脚で体を支えていた。
不安定。
だが。
倒れない。
黄金の複眼が、空を見上げる。
その視線の先。
夜空に、黒い機体が浮かんでいる。
ゼファル。
赤い単眼が、静かに光っていた。
そして。
機械の声が、夜の中央通りに響く。
「損傷確認」
一瞬の間。
「戦闘継続」
その言葉に答えるように。
ヴェスパーの胸部コアが、再び強く輝いた。
悠真が低く言う。
「……まだ終わってない」
ネオンの街の中央。
片脚の機兵が、再び空を見上げていた。
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本作は毎日更新中です。
明日もお待ちしています。
現在、別作品として
『不遇スキル【球術】の俺は、均形鍛冶の少女とダンジョンを攻略する』
というダンジョンファンタジーも連載しています。
意味不明と言われたスキル【球術】で戦う主人公と、鍛冶職の少女がダンジョンを攻略していく物語です。
もしよろしければ、そちらも覗いていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。




