第26話 ~撤退中だったベレッカ達~
やや説明が重複している所があります
「……お別れ? 今、お別れって言ったか!?」
「ああ、お別れ」
「………」
あっさり別れを言う佐夜に己の耳を疑ったイングは思わず聞き返すが同じ答えが来て言葉を失う。
「何で……何で急にそんな事をあっさり言うんだy───(もごもご)」
「……イング。大声出したらダメ」
あまりのショックで大声を出しそうになったイングの口をマナが塞ぐ。実行前にバレたら意味が無いし。
「(もごもご)………。……サヤ、何で急にそんな事言うんだ?(少しおこ)」
マナに「めっ」されて気分を落ち着かせたイング。再び佐夜に問うが若干怒っているのは誰の目にも分かる。
「急というか何というかな……正直俺はこの世界の地に骨を埋めても良いと思ってたんだよ」
「じゃあ何で……っ」
イングが怒りながら問い詰めて来るので佐夜は「あはは……」と困った顔でイングの問いに答える。
先ほども言った様に佐夜は自分の世界が真っ白になり、命辛々(いのちからがら)逃げ延びてこの世界に落ちて来てイング達と過ごしている時、元の世界に帰る事はほぼほぼ諦めていた。だって本校の図書館や錬成術のアルガド爺さん、その他色んな人や国王、エミリアに聞いても帰る手段が無かったから。
それにこの世界の人達も結構良い人が多く(あくまで小説で読んだ様な悪人は現れなかっただけ)、イング達との修行や魔法の勉強、バカ騒ぎなどの青春を経て、佐夜は元の世界へ帰還する事など諦めるというよりはすっかり忘れていた。
しかし先日の隣国での異世界からの侵略未遂事件や選抜戦で乱入してきた機械人形襲来事件で世間の佐夜への反応は少しずつ変わっていった。
要は簡単に言うと『こいつ、もしかして異世界からのスパイなんじゃないか?』と。
当然そんな事ないのはイング達やエミリア、今回調査に来ていた冒険者達や騎士達、そして王家の人達は分かっているが、民衆達は佐夜の事をよく知らないので悪い噂が出回り過ぎ、どんどん立場が悪くなっていく。
それも佐夜自身の事ではなく、佐夜の身柄を預かっているイングの両親のアイナとリンド、そしてアルケシスの面々が、だ。
勿論直接聞いた話ではないが、隣国の事件以降、買い物に出かける度に周りの兵や主婦達が佐夜を見る度にコソコソとヒソヒソ話しているのが嫌でも分かり、視線が常に突き刺さるのだ。ちなみにこの事は選抜戦で戦った他のチームの人達や街を放浪しているニケからの情報でイング以外、みんな知っている。
だってイングがこの事を知れば絶対、例によって無茶で無謀で馬鹿な事をするのが目に見えているからだ。特に佐夜の事となれば尚更。
それにイングは毎日鍛錬修行漬けであまり街に出なかったので余計に知らない。
なので佐夜は自分以外の異世界人が未だこの世界にいる事を知り、その潜伏場所が割れた時、アイナとリンド、そして国王には「もしかしたらこれでお別れになるかもしれません」とは伝えている。
なんか佐夜を毎日、娘の様に扱っていたアイナとリンドも悲しそうな顔をしていたが流石にこれ以上、自分が原因ではないとはいえ迷惑を掛ける訳にはいかないのだ。
「じゃあサヤ、本当にこれでお別れなのか……?」
急な別れ話にイングが何か彼女に振られてショックを受けた様な顔をする。
「まーな。でもこれで永遠のお別れじゃないだろ。ほらあの装置を使えば異世界に行けるみたいだしな。会いたくなったら後日、俺のいる世界を探して来ればいいだろ」
「で、でもよ……」
「……イング、ダメ」
「マナ?」
一応妥協案として例の装置を使えばいいじゃん、と言う佐夜に尚食い下がるイングだがマナに止められる。
「サヤだって凄く悩んでた。あの日から今日まで悩んで悩んで、なんだったら他の国へ亡命する道もあった。けどこの世界にいる以上、異世界人は肩身の狭い存在になるから佐夜は帰る事にしたの。亡命しても安全とは限らないから」
「だ、だったら俺も……」
「亡命したらご両親はどうするんですの?」
「………」
マナとエミリアに言われ、イングは黙って俯くしかない。
「あ、お話しは終わりですか?」
「「「「「「「っ!?」」」」」」」
と、青春していると急にイング達の目の前に軍服少女のルソワが直ぐ近くまで接近していて今までの話を聞いていたのだ。
「ど、どこまで聞いていた貴様!?」
「どこまでって……貴方がたがそこのビビリさん(タックの事)と合流した時からですよ」
「そもそも姿どころか気配すらしませんでしたわ……」
「それは向こうにいる私の上司が持つ能力のお陰ですね。時間切れでこうして姿を現してしまいましたが」
騎士団長とエミリアが敵意を放ちながら問うがルソワは平然としながら答える。
「ふんっ──────何!?」
「ふふ、そこに私はいませんよ?」
騎士団長とエミリアが話している隙に気配を断ちながらルソワの背後に寄っていたガルがルソワを捕えようとするが、羽交い絞めにした瞬間ルソワの姿が消えた。
これはベレッカが習得したスキル【ミスディレクション】の応用技なのだがここではどうでもいいので割愛。ガルの手の中から消えたルソワは一瞬にしてベレッカの元に現れる。現れた、というよりは最初からそこにいて姿だけ立体映像の様に佐夜達の所に出した様な感じ。
『あー、あー。今更こそこそしても監視カメラあるから隠れても無駄だぞー?』
「え?」
「「「「「「???」」」」」」
ルソワが元の位置に戻った瞬間、どこからか流れてくるスピーカーからの音声に佐夜は周りを見たわす。けどここはダンジョン内。暗すぎてカメラの位置が分かる筈がない。佐夜がきょろきょろするのを見て周りの人は「何やってんの?」とハテナマーク。
『さっきから話は聞いていたがそこの女、やはりこの世界の者じゃなかったんだな。それで元の世界に帰る為にこの装置を使いたいと。そういう事でいいんだな? 肯定なら○か×で答えろ』
「お、女って俺の事か!?」
「だろうよ……」
己と同じ異世界人であるベレッカにすら当然女だと間違わられる佐夜は動揺するがイングに「何を今更……」的な顔をされる。
(サヤは女じゃないんだけどな……)
(……しっ。余計な事言って場をややこしくしないで)
(え、あの子って女の子じゃないのですか!?)
(え、ええ……。女として敗けた感はありますが……)
(ノンの理想の目標ー)
(ロロの理想の目標ー)
佐夜が狼狽えているのを見て皆も「今更!?」的な感を出している。まぁ騎士団長は佐夜が男だって事を知らなかったらしいが。
バチッ──
『正直このフロアで暴れられてこの次元転移装置とか他の装置を破壊されては困るからな。だから例のアンドロイドや恐竜は配置してはいない。なので先に攻めて来た連中はこの装置で地上へ送り返した。下手に異世界に飛ばして我々の世界にうっかり飛ばしかねないからな』
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
てっきり異世界へ飛ばしたと思われていた冒険者達&ニケがまさか地上に転移されたと聞いて皆ぎょっとなる。
『上のフロアでの争いはともかく、この階層で暴れるのならこちらも容赦はしない。が、大人しく帰るのなら追いはしないし、そこの女も元の世界に帰りたいのなら協力もしよう。話を聞いている限りこちらに負いがあるからな』
自覚があるのか、ベレッカは佐夜に協力する事を提言する。
「ふざけるな! こちらは死人も出てるんだぞ!? 今更引ける訳がない!」
『それはそちらが我が軍の拠点に攻めて来たからだろう。それにダンジョン内は死と隣り合わせと言うではないか。無抵抗からの虐殺ならばともかく、戦争でその理論は通用しないぞ。そちらも騎士ならよく分かるのでは?』
「うぐ……っ」
確かに帝都や王国に先に手を出したのはゼリア軍だがそれも含めて戦争、つまり死すら覚悟の上で攻めて来ているのだ。騎士団長も戦争や決闘、ダンジョン攻略や盗賊討伐などで人の命を奪っているのでぐうの音もいえなくなる。
バチバチ──────
『それにただでさえ今、我が父が要する隊がセルニア王国に独断で侵攻している最中だというのに全く……』
「「「「「「「「ゑ?」」」」」」」」
それに加え、ベレッカからとんでもない発言が飛び出してきて佐夜達は固まる。
※:ベレッカ達はゴルド中将が既に送還された事を知りません。今、向こうと音信不通なのは作戦実行中だと思っています。
「ちょ、それってどういう事ですの!?」
『どうもこうも言われてもそれはこっちが父に言いたいわ!』
エミリアが詳しく聞こうとするとベレッカも何故かキレる。勿論何でゴルド中将が勝手に軍を動かしたのかとかも説明する。
娘に良い所を見せるのだと。
『戦争に良い所も何もないだろうに! あの馬鹿親!』
『しかも作戦を止めようにも作戦中なのか今、音信不通状態ですしね』
「「「「「「「「……………」」」」」」」」
ぷんすか怒るベレッカに佐夜達一同は苦笑するしかない。
※:ちなみにエミリア王女や騎士団達に情報が行かなかったのは、伝達する者が途中で盗賊被害に遭ったのが後日判明するが、この時は当然分かる筈がない。
バリ、バリバリバリ───────────
『と、ともかく我々は貴様達が攻めて来た時、無駄に兵の命を散らす訳にはいかないから先に私とルソワ以外は元の世界に送り返したわ。……アンドロイドや恐竜は流石に回収する時間が無かった所為でそちらにも被害が出てしまったがな』
「道理で生きた兵が1人も出て来なかったわけだ……」
ベレッカは流石に分かっていた。
愚父の事は正直どうでもよいが、大勢の実力者と思われる現地人達を相手に圧倒的に人材不足な状況で対抗するのは悪手過ぎると。
なので残っている兵を集めて元の世界に戻す事には成功するが、上層に徘徊している恐竜やアンドロイド、あと勝手に転移に巻き込まれた動物などは時間が無く回収できなかった。
その所為で無駄に命が失われた。
『先ほどの連中を地上へ送った所為で異世界へ戻るタイミングをズラされたが、今貯めているエネルギーが溜まり次第、私達もこの装置一帯を含めて帰る予定だ』
「え、ちょっとそれって……」
『ああ、この装置を使える私達が帰ればお前は帰れなくなるかもしれない訳だ。だから帰るのなら今しかない。どうする?』
「………ちょっと考えさせて」
最初から元の世界に帰る事を決めてここへ来た佐夜だが、流石にこの展開は予想外。
相手が敵対心を持っていて争いの末に敵の罠などに掛かって転移するとか、はたまた何とかベレッカ達を捕縛して佐夜を元の世界に帰すとかを考えてはいたが、まさかその相手が今撤退中だったとは思わなかったのでどうしようかと佐夜は考える。
────だが、その考える時間はそう長く残されてはいなかった。
ボンッ!!!
『『!?』』
「な、何の音だ!?」
佐夜が仲間と相談しようとしたその瞬間、規模は小さいが何かの機械が爆発した音がした。
次回、佐夜は無事元の世界に帰れるのだろうか?(フラグ)




