306・アドバイス。
まだ赤ん坊の息子が泣き出した。
飛んでいって抱き上げた。
そうして見えたのは亡くなった上の息子!
何か言っているように見えたが聞こえなかった。
頭を下げて蒼白い馬に乗って走って行ってしまう。
白い花の咲く草原が広がっていた。
ココは館の中のはずなのに!
「アナタと息子さんには表に出ていない能力があったようですね。
彼はこの館から出られなくなってました。
小物の魔性は結界を抜けられたようですが彼も私も出入り出来ませんでしたよ。
無意識に張られた結界って厄介で困ります」
フードの人物は見覚えのある顔をしていた。
だがもう亡くなった人物だ。
コイツは化けているのか?!
「彼に怖がられないようにこの顔をお借りしたんです。
私はタダの案内人ですよ。あの『馬』もそうですがね。
アナタが持ち帰ったあの絵のオカゲで結界を越えられましたよ。
苦情は作者の彼に言って欲しいですね」
息子は……死んでからずっとこの館に居たのか……
気付いてやれなかったのか? 私は……
「弟君は気付いていたようですね。
別れを感じて泣き出しましたし……
落ち着いたら神官に相談することをお勧めしますよ。
見えなくていいものが見えるというのは小さな子ではよくあることです。
でもいささか力が強すぎますね。
アナタにまで彼や私の姿を見せてしまいましたから。
彼は弟君の心配をしてました。
魔性から弟を守ってたんです。
けなげな彼に免じてアドバイスを一つあげましょう。
弟君は兄君と同じ病を抱えています。
魔性が寄って来ていたのもソレが原因でしょうね」
兄と同じ病だと!?
そんな!!!
でも弟にはまだ何の症状も出ていない!
「だから彼が守っていたんです。
でも魂だけの存在はこの世では存在を保つのが難しい。
限界は近かったんです。
症状が出始めたらあの絵の作者に相談しなさい。
彼はこの世界の神が異世界から招聘された魂を持っています。
彼は居るだけでこの世界を活性化させるそうですよ。
本人が何もしなくてもね」
このローブの人物は多分……
だがどうして次男が生きるためのアドバイスなどをくれるのだろう?
「死神」なのに……
「言ったでしょう? 私は案内人だと。
亡くなった魂を導くのが仕事なだけで殺人鬼じゃあないんです。
この顔になってるので持ち主の影響が出てしまったのかも知れません。
ちょっとした気まぐれ……ですかね。
まあお詫びは言っておきますよ。
母君の顔を拝借したことは申し訳ないことでした」
私がこの死神に恐怖を感じていないのは母の顔をしているせいだろうか?
それにしても私が死神やあの蒼白い馬の事を言いふらすとは思わないのだろうか。
「生きることに夢中ですからね。普通の人は。
死は他の人のコトで自分のコトとはなかなか実感できないものなんです。
アナタが言いふらしてもタダのお話のパターンの一つとしか思いませんよ。
彼はあの馬が案内したので私の仕事も終りです。
この辺りで失礼しますよ。
次回にお目に掛かるのがずっと先だといいですね」
そう言うと空気に溶けるように消えてしまった。
息子は泣きながらしがみついて来ている。
今夜は一緒に居てやろうと思う。
この子の兄はこの子が産まれる前に死んでいる。
だが確かにたった今! この子は兄を失ったのだ。
優しく見守ってくれていた兄を!




