304・幻視。
「すみません……ソレは私のなんですが返していただけませんか?」
ソレは通された客間に置いてあったものだ。
一体何だろうとめくってみたらこの館の主人が飼っている珍奇な動物たちの
ラフなスケッチだった。
画家ほど上手くは無いがそれなりに特徴を捉えている。
なぜか王家の女性達の似顔絵まで何枚も入っていた。
こんなに何人もの方々にお目通りできるなんて……一体誰が描いたのか?
そうして最後の絵を見て私は動けなくなった。
そこに描かれていたのは息子だった!
病気で亡くなった私の息子!
笑顔で小馬に乗って剣を掲げて進軍の号令を掛けている。
続くのはおなじように小馬に乗ったオモチャな兵隊とどうやら布で出来ている
丸っこい動物たちだ。
あの子は馬が好きだった。
でも館からどころか部屋から出ることすら出来なくなっていったのだ。
だからあの小馬をつくらせた。
鑑定の出来る者の中には時々能力が妙な方向に伸びてしまう者が居る。
私が雇った者もその一人だった。
変化というか進化というかそういう可能性が見えてしまうのだと言う。
大きくなりやすい者、小さくなりやすい者、若さを保ちやすい者、老けやすい者
いろんな形質の可能性が見えると言う。
なので部屋にも入れられる小さな馬が出来ないかと思ったのだ。
そうして出来たのがあの小馬だったのだが……
息子は喜んでくれたが小馬と過ごせた時間は短かった。
そうして私は……あの小馬を見ているのが辛くて侯爵に預けたのだ。
目の前で絵の束を返して欲しいと言っている子供……
4歳になっているだろうか?
この子が息子に会ったことが有るはずが無い。
でも絵の子供は私の息子そのものだ!
混乱している私を正気に戻したのは掃除のために入って来たメイドだった。
メイドは慌てていた。
案内担当の者が部屋を間違えたらしい。
この子は侯爵の客だった。
もう出立すると言う所を引き留めて侯爵との面会に付き合ってもらった。
あの絵……息子の絵がどういうことなのか知りたかったのだ。
「勝手に絵にしてしまって申し訳ありません。
モデルは実は侯爵様なんです。
侯爵様が子供なら多分こんな感じの子供だったかもと想像したんです。
ご親戚だと伺いましたので……」
息子と小馬たちの話を聞いて小馬に乗せてあげたいと思ったのだそうだ。
もっともあの大きさだから子供でも乗って走るのは無理だろう。
侯爵とは確かに親戚で息子をよく見舞って下さっていた。
馬が好きな息子に好感を持っていたのだと思う。
似てたのか? こんなジジ……ゲフンゲフン。
絵を描いてくれた子供はオリーザ国の宰相の庶子で原種の馬やうさぎ馬のことを
侯爵に教えて貰うためにわざわざ来たのだという。
馬……馬か……
確かあの国では馬が足りなくなっているという話だったな。
この子はその辺りのことを理解しているのだろうか?
結局息子の絵を譲ってもらうことになった。
元気で小馬やオモチャの兵隊と進軍する息子。
これは息子の見ていた「夢」なのかもしれない。
息子はもう居ない。
でもあの子のことは夢ではなかった。
確かにちゃんと私の息子として生きていたのだ。
軽快に走る小馬たち……息子が乗って走って行く姿が見えた気がした。




