エピローグ
これが、最後です。
合格発表で合格を確認した私は、すぐに電車に乗った。最寄駅で降りて、3分。そこにいるよと、彼のお母さんに教えてもらった。
手には、ガーベラとカスミソウとスイートピー。
……ずいぶん、見晴らしのいい場所で寝てるんだね、霧生。
ねぇ、話したいこと、たくさんあるんだ。まずね、私、あんたのこと好きなの。いつからかは覚えてない。でもね、あんたのお陰で、泣けたし笑えたし……。とにかく、あんたは私の太陽だった。ほら、前にスピーチしたでしょ? 『あなたの思う、光に満ちた特別な場所は?』ってやつ。私が全校生徒の前で喋ったやつ。
特別な場所は、笑顔。あれね、あんたにアイデアもらった。昔より、ずっと……笑顔が、大事に思えてさ。
あんたの笑顔が、特に輝いて見えた。だから、みんなに言いたかった。あんな風にデフォルメしたけど、でも、言いたかった。
ああそれとね、吹っ切れたらこの花を持ってお墓参りに来ようって思ってたんだ。吹っ切れた……っていうか、絶望から抜け出せたら?
当然寂しいし、戻れるなら戻ってほしい。でも、無理らしいよ。人間が生き返るのって。だからね、私、霧生のこと忘れないようにしようって思って。
覚えてる? この花の花言葉。覚えてくれてるのかな。なんかね、川端康成の小説で、「別れる男に、花の名前を1つは教えておきなさい」ってのがあるらしいよ。別れ方が違うけど、花の名前は教えたでしょ?
卒音で私、あんたの遺影持って歌ったんだよ。あの曲も、泣きながらだけど、ちゃんと歌った。日比野と久郷が首謀者なんだけど、みんなで「翼。今までありがとう」って叫んだんだ。……D組だけね。
下級生も大泣きしてた。なにより私たちが泣いてたけど。
*
神納さんの声を、俺は泣きながら聞いていた。お墓の前で手を合わせる神納さんの声は、全部聞こえた。
ああ、よかった。神納さん、もう俺のこと大丈夫になったんだ。……ああでも、やっぱ寂しいや。
俺、最低だ。忘れて、って願ったくせに……忘れてほしくないんだ。ねぇ、神納さん。俺のことで嘆く必要はないけど……ちょっとだけ、覚えてて。あんなやついたなって。
それでね、霧生。私、1つ決めたの。
たくさん今までのことを話して、少し泣きながら、でもしっかり笑いながら神納さんは語る。
私にいつか好きな人ができたら……あんたのこと、話したい。私ね、あんたのこと忘れられないと思う。絶対に。だって、あんなに好きだったのに。いや、まだ次の好きな人ができてないから、今でも好きだよ。
……だから、だからね。
俺の目からは涙があふれ出て、神納さんの姿をしっかり見られない。ああ、今の神納さんの顔、見たいのに。きっと、声と同じように、強くて凛とした表情をしている。
共有したいんだ。その人と。私の、大事な人の思い出。ああでもね、そのときにはもう、あんたは思い出だからさ。話の最初の言葉は、こうなるんじゃないかな。
私には………………。ってね。
*
私の居場所は、霧生だった。今は、私を取り巻くすべての環境。
私の光は、霧生だった。今は、国際公務員っていう将来の夢。
私の生きる意味は、霧生だった。今は、核をなくすっていう意志。
ねぇ、聞いて。未来の、私の好きな人。昔の好きだった人はね、明るくてうるさくて優しくて、私を人間にしてくれた人。
そうだよ。
私には、好きな人がいた。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
いかがだったでしょうか。面白いって思ってくだされば、幸いです。




