今 6
「昨日ね、泣かなかったんだよ」
「つーくんのお葬式で?」
「そう」
「マジで? 誰?」
「神納さん」
「うっわ、ないわ」
「それな。悲しくないってことじゃん?」
「仲よかったんじゃないのあの2人」
仲がよかった……。そうかもね。泣かないのがおかしい……そうだね、私もそう思うよ。
水の中を揺蕩うような気分だ。流され、浮いて、沈んで、なにも感じずなにも考えず。
ただ、息をするだけ。
「由梨奈」
「ん?」
愛美だった。ただ条件反射で返事をする。
「……髪、触らせて」
私の髪で遊ぶ前に、いつも言う言葉だ。いつもなら苦笑でいいよと答える。
「あー……うん」
今日はそうできなかった。
「ありがとう、由梨奈」
隣に腰かけた愛美が、私の髪に手を伸ばす。
「……変わらない」
思ったことを、そのまま口に出す。いつも心の声がだだ漏れな、あいつの真似をして。
「え? なにが?」
「変わらない、なにも。みんなが学校に来て、女子の陰口があって、愛美が私の髪で遊んで」
どうしてと呟く。愛美の指が離れていく。
「どうして、あいつがノート見せてって言いながら学校に来ないの」
また?
眠かったから!
たまには自分でやれ。
なんでもう、この会話ができないの。
「由梨奈」
ゆっくりとした口調で、愛美は静かに私を呼ぶ。私の大好きな声。でも……聞きたいのは、この声じゃない。
「由梨奈が辛いのは、見てたら分かる。あそこでなにか言ってる女子より辛いのも分かる。私よりも、リューくんよりも、誰よりも辛いんでしょ」
ぎゅっと唇を噛みしめる。それをなんの前触れととったのか、愛美は私を抱きしめた。
「由梨奈を救えなくて、ごめん。私は由梨奈ほど辛い思いをしてないから……由梨奈の気持ち、全部は分からない」
違うよ、愛美。
私はただ、感情がないだけなんだ。




