過去 7
大きく手を振ってくるバカ、もとい霧生を見て笑う。このクォーターが正念場なんでしょーが。なにリラックスしてんだ。
でもついつい、小さく手を振り返した。徳田先輩が来て、霧生と並んで歩いていく。
ちらっとこっちを見て、微笑んだ。まるで優しい兄のような、柔らかい笑顔だった。霧生も徳田先輩のことよく話すし、兄弟みたいな関係なのかも。
「仲よさそうだね、あの2人。兄弟みたい」
愛美が笑みを含んだ声で言った。考えたことは同じらしい。
「あ、私も同じこと思った」
「あはは。やっぱり?」
つまり私の考えは、常識から外れていなかった。変に思われることはしてない。
「ゆ・う・と! ゆ・う・と!」
「ディフェンス! 腰落として!」
バスケ部のベンチから声が飛ぶ。客席にいる1年生たちからもだ。
気合いが入っているのが見て取れる。選手の顔も真剣だし、本気で勝つ気だ。そういえば霧生も見たことないくらい真剣な顔だ。
……へらへらせずに普段からその顔してろ。
相手側ゴールで粘っていたかと思えば、すぐに切り返される。ならまたボールを奪い返して、1点。目まぐるしく入れ替わる状況を追うのが精一杯だ。
愛美にいたっては、「あれどっちのチーム……?」とブツブツ言っている。黒いのがうち。緑が向こう。そう答える余裕もないから、とりあえず放っておく。
「来た! 霧生くんだよ由梨奈!」
「そのコースは無理っ! 右抜けてレイアップ!」
左側は明らかに相手が多い。それなのに、霧生は左に突っ込んでいく。
次の瞬間、ボールはリングをくぐっていた。
……は?
「由梨奈、なにがあったか見えた?」
「見えたけど……信じられない」
「私、見えなかった」
「霧生が左に突っ込んで、相手が戸惑った。そのときに、突然現れたキャプテンの溝田先輩がボールを取って、スリーを決めた」
そこまで言って、思い当たる。
「ああ、霧生は右に行くと思ってたんだ。それでそっちを意識してたら、逆方向に行って。そりゃ戸惑うわ」
「その隙に、キャプテンが来たってこと?」
「そうだね。霧生、近くにいるの分かってたんだ。キャプテンが」
第3Qは39対23で終わり、第4Qは45対30となった。勝った。勝った!
客席に向かって礼をする選手たちに、拍手が降り注ぐ。勝敗に関係なく、平等に。けれど表情は、やっぱり違っている。
笑っているチームの中でも、特に笑顔なやつがまた手を振った。楽しそうに、嬉しそうに。
私もまた、少し笑って手を振り返す。
そのとき、ほんの少しだけ、心臓が速く脈を刻んだ気がした。




