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他力本願な世界で救済を  作者: 夜桜
第1章 灰色の世界
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第9話 『少年の自己紹介』

 あまりにも、まっすぐ、面と向かって言われたもんだから言葉を失ってしまった。

 言葉を失って、少し冷静になった。

 ……こんなことをしている場合ではないか。

 一旦はこいつの言ったことは納得しておこう。

 心の底から納得したわけではないが。


「……そちらの言い分は分かった。不本意だが納得しよう」


 表では納得したことにしておこう。

 こいつもこんな状況で深くは突っ込んでこないだろ。

 これが一番丸い解決のはず――。


「不本意ではダメだ!」


 太陽の光のように輝く金髪の少年が、声を上げた。

 こいつは何を言っているんだ?

 こんなことをしてる場合ではないというのに。

 早くこの状況をなんとかする必要がある。


「不本意でも、今は構わないだろ?それより――」


「君には、心の底から納得してもらいたい!」


 俺の言葉を遮って、自分本位の言葉をぶつけてくる。

 こいつは、どこまで勝手なんだ。

 何故か、イラついてきた。


「お前、こっちはこの場を収めようとしてるのに、その態度はなんなんだ?」


 イラついてきて喋り方に影響が出て、少し尖った声色になる。


「君が心から納得するまで、この場を収めるつもりはない!」


「お前なぁ」


 イラつきを通り越して、呆れてくる。

 本当にどうしたものか……。


「おにぃ、こんなことしている場合じゃないよ!人が来てるよ!」


 外の様子を見ていたのか、満開の桜のような淡い桜色の髪を持つ少女が、人がこちらに向かってきていることを知らせてくる。


「ほんとに?それはまずいね!」


「まずいのは、お前のせい……にするのもあれだな」


 イライラしていて、この状況はこいつのせいだと言いたい気持ちが出てくるが、そもそもこの状況は俺の責任だ。

 だとしても、対応する時間がないのは事実だ。どうするか。


「テア、こちらに向かっている人を説得してくれ!」


「分かった!」


「君は……名前なんだっけ?」


「今はいいだろ!どうするんだ?」


「ああ、妹が説得しているうちに、男の人を運ぼう」


「分かった。お前は足の方を持ってくれ」


「了解した」


 対応する時間は限られているため、急ぎ、死体を運ぶ。

 裏の扉を開け、人が周りにいないことを確認して、外へ出る。


「一旦、埋めよう」


「そうだな」


 一時の間、埋めることにした。

 後ほど、掘りなおしてまた遠くに埋めなおすとしよう。

 墓も必要だしな。


「そういえば、名前を聞いていなかったね。なんて呼べばいいのかな?」


 名前を聞かれた。

 少し迷うな、前世の名前を名乗るべきか、この身体の名前を名乗るべきか。

 前世の名前を使っていると、前世であった嫌なことを思い出しそうだ。


「俺は……アラタだ」


 迷った結果、この身体の名前を語ることにした。

 せっかく、異世界に来たんだ。

 前世の嫌なことは忘れて……完全に忘れることは無理だろうが、あまり気にせずに生きていこう。


 この身体に憑依したのも、何かの縁だ。

 名を広げるなんて、大層なことはする気はないが、人に覚えられるならこの身体の名前の方がいいだろう。なんとなくだが。


「うん、アラタだね。覚えたよ!僕は、シン。覚えやすいでしょ?忘れないでくれると嬉しいよ」


「あぁ、シンだな。俺も覚えたぜ」


 こんな奴、忘れようと思っても忘れるのは難しいだろ。

 にしても、変な奴をと関りを持ってしまったな。

 こんな変な奴だから、この状況が何とかなっているのか?分からん。


「……君はさ、後悔してる?」


「後悔?」


「そう、後悔だよ」


 少し暗い表情で言われた。

 この表情どっかで見たな、そうだ。

 あの時、俺を励まそうとしてくれた場面の時だ。

 その時に見たあの表情、勘違いではなかったのか。


「後悔か、正直分からないな」


「分からない?」


「そう、分からないんだ。俺はあの時――」


 喋ろうとすると、次言葉を発するものに邪魔されて言葉が途切れる。


「おにぃ!人はおっぱらったよ!」


「おお、妹よ!よくやった!」


 人を説得するどころか、追い払ってくれたらしい。

 一旦、一安心か。


「こちらももうすぐで終わりそうだ」


「そうだな、すぐ終わらせよう」


 ※ ※ ※ ※ ※


 父親を埋め終わったその後、少年たちは、先ほどいた俺の部屋まで戻っていた。


「ふぅ……疲れたたね」


「俺も、少し疲れた」


 この世界に来てから、色んな状況が続いて疲れた。

 少し休みたい気持ちがあるな。


「先ほど、軽く自己紹介したが改めて自己紹介をしよう!僕の名前はシン、好きなものは英雄譚と妹だ!」


「私はテア。好きなものは料理とお兄ちゃん」


 休みたい気持ちが湧いてきたが、どうやら自己紹介が始まった。

 始まったからには、俺も適当に自己紹介しないとな。


 それにしても、この兄妹の自己紹介を聞くと、お互い思いあっているみたいだな。

 微笑ましい限りだ。


「俺は、アラタ。好きなものは多分、読書」


「多分?」


 思いもしないことで、突っ込まれる。

 余計なことをいったな。


「あー好きなものかどうか自分でも分からなかったから、多分と付けた、他意はない」


 読書してた理由なんて、現実逃避するために読んでいただけだ。

 そんなものを好きなものと言っていいものなのか。


「それは良くない!好きなものは人生を豊かにするものだよ、そこははっきりしないと!」


 シンは、そう叫ぶ。

 人生を豊かにねぇ、確かにそうかもしれないけれども。


「良くないって、別にお前には関係ないだろ」


「関係ないなんてことない!それを聞いて、悲しい気持ちになったんだ。だから僕にも関係ある」


 短い時間であるが、こいつの人間性が分かってきたな。

 こいつは、目の前のことを全て自分に関係があると捉えそうだ。

 大変な性格だな。


「あー分かった、分かった。読書は確かに好きなものだよ」


「なんか言わした感を否めないが、そこがちゃんとしたなら許そう!」


「許すって、お前なぁ」


「おにぃはいつもこんな感じだから、諦めるしかないよ」


 いつもこんな感じなのか。

 本当に疲れそうな性格をしている。

 本人だけではなく周りも、疲れそうな性格をしているな。

 あまり関わらない方が良さそうだ。


「そうか、まぁ今日は助かったよ。そこは感謝している」


「どうってことないよ」


「当然のことだよね!」


 感謝しているのは事実、そこは伝えておく。


「何かあったときは恩を返させてくれ」


 俺が言ったことがおかしかったのか、二人とも一瞬固まっている。


「おかしなことを言ったか?」


「……いや、そんなことないよ。ここの人たちはね、恩を返そうとする人がいないから、新鮮だと思っただけだよ」


「そうなんだな。冷たい奴ばっかなんだな」


「うーん、というより自分のことで精一杯な人たちが多いだけだよ」


 なんとも甘い評価を下すんだなこの男は。

 恩を感じないどうしようもない人間のことを。


「それは、おにぃ違うよ。あの人たちは自分がどうにかなればいいと思っているだけだよ。それもまた、正しいと私は思うけどね」


 こっちの妹の方は、現実的な評価できているように見えるな。

 この兄を持つと大変だろうに。よくできた奴だな。


「仮にそうだとしても、冷たいだけの人間なんていないよ」


「まぁ、そうなのかもな」


 冷たいだけの人間なんていない。

 確かにそうかもしれないが、真相は分からない。

 真相を知るには、全人類の心を暴く必要がありそうだ。

 そんな手段ある訳がないけれども。


「ちょっと辛気臭くなってしまったね。君はこれからどうするんだい?」


「まだ、これからの予定は決まっていないな」


 まずは、そうだな。

 この世界について、いや、まずはこの地域について詳しく知る必要があるな。

 そのために何をする必要がある……?

 そう思考をしていると。


「よかったら僕たちの場所に来ないかい?」


 思いもしない提案で、一度思考が止まる。


「それは……」


「無理にとはいえないけど、行く場所の宛てがないなら来るといいよ。宛てが見つかるまででもいいしね」


 それは流石に、気が引けるな。

 それとこの兄妹の間に入れる気がしない。


「おにぃ、それは急すぎるんじゃない?もうすこし落ち着いてからでもいいと思うけど」


「確かに、そうだね。僕が言いたかったのは、行く場所がなければ、僕たちの場所にくればいいさ」


「分かった、頭に入れておくよ」


 それはありがたいが、最終手段だ。

 まずは、自分だけで生きていく方法をこれから模索していくとしよう。

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