第9話 『少年の自己紹介』
あまりにも、まっすぐ、面と向かって言われたもんだから言葉を失ってしまった。
言葉を失って、少し冷静になった。
……こんなことをしている場合ではないか。
一旦はこいつの言ったことは納得しておこう。
心の底から納得したわけではないが。
「……そちらの言い分は分かった。不本意だが納得しよう」
表では納得したことにしておこう。
こいつもこんな状況で深くは突っ込んでこないだろ。
これが一番丸い解決のはず――。
「不本意ではダメだ!」
太陽の光のように輝く金髪の少年が、声を上げた。
こいつは何を言っているんだ?
こんなことをしてる場合ではないというのに。
早くこの状況をなんとかする必要がある。
「不本意でも、今は構わないだろ?それより――」
「君には、心の底から納得してもらいたい!」
俺の言葉を遮って、自分本位の言葉をぶつけてくる。
こいつは、どこまで勝手なんだ。
何故か、イラついてきた。
「お前、こっちはこの場を収めようとしてるのに、その態度はなんなんだ?」
イラついてきて喋り方に影響が出て、少し尖った声色になる。
「君が心から納得するまで、この場を収めるつもりはない!」
「お前なぁ」
イラつきを通り越して、呆れてくる。
本当にどうしたものか……。
「おにぃ、こんなことしている場合じゃないよ!人が来てるよ!」
外の様子を見ていたのか、満開の桜のような淡い桜色の髪を持つ少女が、人がこちらに向かってきていることを知らせてくる。
「ほんとに?それはまずいね!」
「まずいのは、お前のせい……にするのもあれだな」
イライラしていて、この状況はこいつのせいだと言いたい気持ちが出てくるが、そもそもこの状況は俺の責任だ。
だとしても、対応する時間がないのは事実だ。どうするか。
「テア、こちらに向かっている人を説得してくれ!」
「分かった!」
「君は……名前なんだっけ?」
「今はいいだろ!どうするんだ?」
「ああ、妹が説得しているうちに、男の人を運ぼう」
「分かった。お前は足の方を持ってくれ」
「了解した」
対応する時間は限られているため、急ぎ、死体を運ぶ。
裏の扉を開け、人が周りにいないことを確認して、外へ出る。
「一旦、埋めよう」
「そうだな」
一時の間、埋めることにした。
後ほど、掘りなおしてまた遠くに埋めなおすとしよう。
墓も必要だしな。
「そういえば、名前を聞いていなかったね。なんて呼べばいいのかな?」
名前を聞かれた。
少し迷うな、前世の名前を名乗るべきか、この身体の名前を名乗るべきか。
前世の名前を使っていると、前世であった嫌なことを思い出しそうだ。
「俺は……アラタだ」
迷った結果、この身体の名前を語ることにした。
せっかく、異世界に来たんだ。
前世の嫌なことは忘れて……完全に忘れることは無理だろうが、あまり気にせずに生きていこう。
この身体に憑依したのも、何かの縁だ。
名を広げるなんて、大層なことはする気はないが、人に覚えられるならこの身体の名前の方がいいだろう。なんとなくだが。
「うん、アラタだね。覚えたよ!僕は、シン。覚えやすいでしょ?忘れないでくれると嬉しいよ」
「あぁ、シンだな。俺も覚えたぜ」
こんな奴、忘れようと思っても忘れるのは難しいだろ。
にしても、変な奴をと関りを持ってしまったな。
こんな変な奴だから、この状況が何とかなっているのか?分からん。
「……君はさ、後悔してる?」
「後悔?」
「そう、後悔だよ」
少し暗い表情で言われた。
この表情どっかで見たな、そうだ。
あの時、俺を励まそうとしてくれた場面の時だ。
その時に見たあの表情、勘違いではなかったのか。
「後悔か、正直分からないな」
「分からない?」
「そう、分からないんだ。俺はあの時――」
喋ろうとすると、次言葉を発するものに邪魔されて言葉が途切れる。
「おにぃ!人はおっぱらったよ!」
「おお、妹よ!よくやった!」
人を説得するどころか、追い払ってくれたらしい。
一旦、一安心か。
「こちらももうすぐで終わりそうだ」
「そうだな、すぐ終わらせよう」
※ ※ ※ ※ ※
父親を埋め終わったその後、少年たちは、先ほどいた俺の部屋まで戻っていた。
「ふぅ……疲れたたね」
「俺も、少し疲れた」
この世界に来てから、色んな状況が続いて疲れた。
少し休みたい気持ちがあるな。
「先ほど、軽く自己紹介したが改めて自己紹介をしよう!僕の名前はシン、好きなものは英雄譚と妹だ!」
「私はテア。好きなものは料理とお兄ちゃん」
休みたい気持ちが湧いてきたが、どうやら自己紹介が始まった。
始まったからには、俺も適当に自己紹介しないとな。
それにしても、この兄妹の自己紹介を聞くと、お互い思いあっているみたいだな。
微笑ましい限りだ。
「俺は、アラタ。好きなものは多分、読書」
「多分?」
思いもしないことで、突っ込まれる。
余計なことをいったな。
「あー好きなものかどうか自分でも分からなかったから、多分と付けた、他意はない」
読書してた理由なんて、現実逃避するために読んでいただけだ。
そんなものを好きなものと言っていいものなのか。
「それは良くない!好きなものは人生を豊かにするものだよ、そこははっきりしないと!」
シンは、そう叫ぶ。
人生を豊かにねぇ、確かにそうかもしれないけれども。
「良くないって、別にお前には関係ないだろ」
「関係ないなんてことない!それを聞いて、悲しい気持ちになったんだ。だから僕にも関係ある」
短い時間であるが、こいつの人間性が分かってきたな。
こいつは、目の前のことを全て自分に関係があると捉えそうだ。
大変な性格だな。
「あー分かった、分かった。読書は確かに好きなものだよ」
「なんか言わした感を否めないが、そこがちゃんとしたなら許そう!」
「許すって、お前なぁ」
「おにぃはいつもこんな感じだから、諦めるしかないよ」
いつもこんな感じなのか。
本当に疲れそうな性格をしている。
本人だけではなく周りも、疲れそうな性格をしているな。
あまり関わらない方が良さそうだ。
「そうか、まぁ今日は助かったよ。そこは感謝している」
「どうってことないよ」
「当然のことだよね!」
感謝しているのは事実、そこは伝えておく。
「何かあったときは恩を返させてくれ」
俺が言ったことがおかしかったのか、二人とも一瞬固まっている。
「おかしなことを言ったか?」
「……いや、そんなことないよ。ここの人たちはね、恩を返そうとする人がいないから、新鮮だと思っただけだよ」
「そうなんだな。冷たい奴ばっかなんだな」
「うーん、というより自分のことで精一杯な人たちが多いだけだよ」
なんとも甘い評価を下すんだなこの男は。
恩を感じないどうしようもない人間のことを。
「それは、おにぃ違うよ。あの人たちは自分がどうにかなればいいと思っているだけだよ。それもまた、正しいと私は思うけどね」
こっちの妹の方は、現実的な評価できているように見えるな。
この兄を持つと大変だろうに。よくできた奴だな。
「仮にそうだとしても、冷たいだけの人間なんていないよ」
「まぁ、そうなのかもな」
冷たいだけの人間なんていない。
確かにそうかもしれないが、真相は分からない。
真相を知るには、全人類の心を暴く必要がありそうだ。
そんな手段ある訳がないけれども。
「ちょっと辛気臭くなってしまったね。君はこれからどうするんだい?」
「まだ、これからの予定は決まっていないな」
まずは、そうだな。
この世界について、いや、まずはこの地域について詳しく知る必要があるな。
そのために何をする必要がある……?
そう思考をしていると。
「よかったら僕たちの場所に来ないかい?」
思いもしない提案で、一度思考が止まる。
「それは……」
「無理にとはいえないけど、行く場所の宛てがないなら来るといいよ。宛てが見つかるまででもいいしね」
それは流石に、気が引けるな。
それとこの兄妹の間に入れる気がしない。
「おにぃ、それは急すぎるんじゃない?もうすこし落ち着いてからでもいいと思うけど」
「確かに、そうだね。僕が言いたかったのは、行く場所がなければ、僕たちの場所にくればいいさ」
「分かった、頭に入れておくよ」
それはありがたいが、最終手段だ。
まずは、自分だけで生きていく方法をこれから模索していくとしよう。




