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他力本願な世界で救済を  作者: 夜桜
第1章 灰色の世界
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第3話 『少年の目標』

 人生のなかで 『諦めなければいつか成功する』と、似た言葉をいくつも聞いてきたことがある。

 そして、そんな言葉を吐いてきた人間は、誰しもが成功した人間に限られる。

 成功していない人間でそんな言葉を聞いたことがない。


 誰しも、道半ばで絶対の成功を信じきれない。

 成功してやっと、自分の進んできた道が間違ってなかったことを証明することができるからだ。

 証明できていない人間にとって、この言葉は疑問になる。

 仮に、その言葉が本当だとしてもその成功はいつにくるかなんて誰にも分からない。

 成功する保証もない


 無責任ではないだろうか?


 そんな言葉を信じている人はどれだけいて、その言葉を信じ、成功した人間はどれほどいるのだろうか。

 確かに成功するまで諦めなければ、成功はするかもしれない。

 でも、この言葉の確かな言葉はこうだ。

 『信じ切ることができればいつか成功する』だ。


『諦めなければいつか成功する』そんな言葉は、成功した人間が吐いた言葉で、失敗してきた人間にはなんの価値もない、虚しい言葉でしかない。

 人生を失敗してきた人間は自分を信じ切ることができない、自分の進んでいる道は正しいのか、間違っているのか。

 それすらも曖昧で、自分が進んでいる道を信じ切れずに走っている。

 何かを成功させるためには、まず自分自身を信じることが大事なんだろう。


 でも、最初の環境、準備、心持ち――これが一つでも失敗すると自分を信じるのがどうしても難しくなってしまう。

 最初に失敗すると、自分に才能なんてないんじゃないか?自分はこのまま道を進んでも、何も成せないんじゃないか?と疑問が湧いてくる。

 一瞬でも、疑問が湧いてしまったなら自分の道を信じ切るのが難しくなるのが、人間だ。


 だからさ。成功した人間なんてただ、たまたま才能があったのと、努力ができる環境があっただけのことだ。

 才能も、努力ができる環境がない人間にとっては関係のない話で、どうでもいい言葉だ。


 ――違うな。これは、ただの勝手に諦めた側の人間の言い訳か。

 諦めた側の人間が厚かましく、諦めなかった側の成功した人間に意見しているだけ。

 それも、また違うな。これは意見でもなんでもない。


 ただの負け惜しみだ。


 諦めた、諦めてしまった。

 人生を失敗してきた人間のただの負け惜しみ。

 くだらない人間の負け惜しみだ。

 今言ったことは全部忘れてくれ。

 ただ言いたかったのはただどうにもならない事実に対して『どうにもならなった』と、『なにもできることはなかった』と、諦めたいだけなんだ。

 努力することも、希望を持つことも、諦めてしまった人間の言ったことなんて忘れてくれ。

 俺のことも、俺が言ったことも全部――。


 ※  ※  ※  ※  ※         

              

 中学の卒業日やってきた。

 せっかくの卒業日なので、学校生活振り返るが、本当に何もしてこなかった気がする。

 ずっと親の仕事を手伝い、その疲れでほとんど学問を学ぶことをしなかった。

 友人を作ることや、人間関係を築くことすら叶わなかった。

 何もしてこなかったのは、疲れだけが原因じゃない。

 どうせ今、人間関係を作れたとしても俺には意味のないことだ。


 中学卒業後、俺は学校に滞在している人間とは別の道を行く。

 行かざるを得ない。高校に行く金もないし、親の借金を返すために働かなければならない。

 だから今、人間関係を作っても意味がなくなる。

 意味がないことを知っていて、人間関係を築く気にはなれなかった。


 それも、全部言い訳か。

 学校での学習も、人間関係も自分の努力不足だ。

 環境のせいにしてはいけない。

 確かに、今までの環境は良いとは言えないが、学校内での生活は少なくとも俺が判断したことだ。

 それはもういい、過ぎたことなのだから今はこれからの話だ。


 学校卒業後、俺は働きに行く。

 その条件で、一人暮らしを親に申し出たがあっさり了承された。

 少し考えたら当たり前のことか。

 あいつらにとっては目障りの存在だったに違いはない、それはお互い様だっただろうしな。

 あいつらの元から離れられるそれだけで、今は他にいらない。

 働くことで自分の時間が取られるが、それは我慢だ。


 少なくとも、今までよりかは自分の時間ができる。

 何事も欲張るのは良くない。

 さて、これからどうしようか。

 今日はやることもないし、一人暮らしを始めるアパートを下見でも行くとするか――。


「―――――」


 これからどうしようかと思考しているなか、委員長だった存在に話しかけられる。

 これから進む道について、尋ねられた。

 学校で友人という存在は作ってこなかったが、委員長とはたまにこうして話す機会が合った。

 でも、これで最後だろうけどな。


「俺はどこにも進学しない、卒業したら働きに行く」


「―――――」


 進学しないことを不信がられた。

 その歳で働きにいくなんて、なにか理由があるんじゃないかと問われた。

 その理由は親にあるんじゃないかと、問い詰められたが、委員長にあまり深く話す必要もないので、ここは適当に流すことにした。

 面倒なことになっても嫌だしな。


「別に親は関係ないよ、自分が選んだ道だ」


 親は関係しかないのだが、説明しても仕方がないので適当に理由を言っておく。

 この委員長には、これまで色々詮索されて家での事情が良くないと気づかれている。

 細かいところまでは俺が適当にあしらっているため、気づかれていないと思うが、これまでの言動や、学校後の行動で察しがついたのかもしれない。

 それにしても、他人の進路を気にするなんてこいつも大概だな。


「あまり、他人の事情に踏み込みすぎない方がいいぞ。それと、もっと自分勝手に生きた方が楽になると思うぜ」


 これで会うのは最後だと思うので、本音を本人に伝えてみる。

 これまでの委員長の学校生活を見てきたが、少し他人の事情に踏み込みすぎている気がする。

 傍から見ていて、近い将来痛い目に遭うのは目に見えている。

 関係を築いた人間では、本音を言うのは難しいだろう。


 だが、俺だったら関係も浅い。

 今日で関係が終わる俺だったら、本音を伝えるのは指して難しいことではない。

 だから、伝えることにした。

 少なくとも、卒業の日に話しかけてくれた者は委員長だけだったしな。

 その感謝ではないが、少しお節介を焼くことにした。


「―――――」


 何の迷いもなく、返事が返って来た。

 その返事に納得と自分の過ちに気が付いた。


「そうか」


 彼女の返事で分かった。

 勝手に生きた結果が彼女の姿なのだろう。

 それを指摘するのは無粋だった。


「―――――」


 今後どうするのか、聞かれる。

 どうするかなど、全く考えていない。

 だか、どうしたいかは決めている。


「普通に生きていくことにするよ」


 それが、難しいと思いながらそれを口にする。

 これから、俺は普通と向き合っていく。

 これまで、普通に生きてこれなかったと自覚しているが、これからは普通に生きる。

 もう普通というレールから外れてしまったかも知れないが、普通に生きようとすることはできる。

 できるはずだ。


「―――――」


「あぁ」


 普通に生きる。

 それが、生きている人の目標だと言っていい。

 普通になりたいからこそ、学校に通っているし、友達とか関係を作ったり、社会に出ている。

 目標として認識されていないのは、無意識にできている人間がほとんどいるからだ。

 普通に生きることができてやっと、他の目標を掲げることができる。


 俺は、少なくともそう思う。


 だから、まずは普通に生きることを目標にする。

 そっから先のことは分からない。

 まずは、土俵からという話だ。

 これから大変になるが頑張って行こう。

 今までも、頑張ってきたんだ。

 これからも大丈夫さ――。

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