第25話 『家族の定義』
シンの話を聞いて、こいつらが助かった理由が分かった。
なるほど、そういうことか。
国は、シンが勇者とやらだと発覚したから助けたと。
そして、テアはその交渉材料として助けられた。
こいつらが分かっているか知らんが、国は少なくとも利益があるからこいつらを助けた。
それでも、勇者か。
元居た世界だと、世界を救う救世主とかのイメージなんだが、その認識で合っているのか?てか、こいつはどういう認識で了承したんだ。
そこが心配だ。
「なるほど、助かった理由は分かった。だけど勇者とやらが何をやるか分かっているのか?」
「知らない」
そんな当然の顔で知らんと言われてもなぁ、こいつ。
人類の危機が発生した時、シンが戦うことになっているんだがそこは理解してるのかよ。
人類の危機になる想像もできない訳だが、そもそもそんなことがあるのか?
今考えられるとしたら、魔物が人間を襲い続けて、人類滅亡の危機とか?人間の戦争が発展しすぎたとか?うーん、あまり思いつかんな。
「知らないってお前なぁ、お前、一応戦うことになってるんだぞ、最悪死ぬことになるかもしれない。そこは分かっているのか?」
「そこはもちろん、分かっているとも」
「そこは分かっているのかよ、で?なんで勇者になったんだ?別に強制ではないんだろ?なら、なる理由は特にないだろ?補助の金が目的か?」
「それは、正直あるけれどもね。妹もその対象になるわけだし、でも一番の理由は恩を返すことだね!」
恩ねぇ。
聞いた限りだと、シンガ読み上げた同意書というのは金という弱みを握って、脅迫しているようにしか聞こえなかったんだが。
スラムの人間に金で釣るなんて、国側は相当にあくどい。
「恩って、お前なぁ。要はお前、戦いに出向かせるためにお前ら兄妹を助けた訳だろ?それにスラムの住民だと分かって金をチラつかせて、同意書を作っているようにしか見えないぜ」
「関係ないね、僕を利用するためにテアと僕が助かったなら本望だよ。結果は変わらない、だから恩がないことにもならない。返さない理由もない訳さ」
これ以上、この話をしても無駄か。
どうせ、もう同意しちまっているんだし、これ以上は後の祭りか。
これまでの状況は整理できてきたな。
次は決めなくてはいけないのは、これからのことだ。
「それで、どうする?」
「どうするって?」
「今後のことだよ、お前らはどうするんだ?勇者になったからには王都から住む場所とかも提供されているのか?生活の補助どうこう言ってたし」
「あぁ、もちろんあるよ、それと僕からの提案なんだけど君もそこに一緒に住まない?他にいるなら、補助対象として国は扱ってくれるみたいだしさ!」
「おにぃ、それはいいね!そうしよう、アラタ君!」
二人から、提案されるのは嬉しい限りだが冷静に考える。
国からの補助を受けれるのは、とてもありがたい。
なにより、住む場所が確保できるのはデカいが、そもそも国を信用していいのか?
どうにも、信用できねぇんだよな。
勇者の交渉といい、国全体の態度といい、どうにも引っかかる部分がある。
前世の感覚に引っ張られているものもあるだろうが、やり方が妙に引っかかって仕方がねぇ。
同意書がまるで、家族も助けてやって金もやるんだから勇者をやれと、そういっているようにしか思えない。
それが多くの人間を束ねている国がやることか?あまりにも姑息すぎる。
……と考えていると。
「悩む必要はないでしょ!行くよ、アラタ君!」
「えー」
硬直していて悩んでいるのが伝わったのか、テアが強引に話を決めようとしてくる。
テアに体を引っ張られて、俺を連れ出そうとする。
この兄を持てば、強引にもなるか。
これ以上考えすぎても状況は好転しないんだし、ここは流れに身を任せて行ってみるか。
「テアの決定には誰にも抗えないからね、もうあきらめてよ、アラタ。そして、これからよろしくね、今日から僕達は家族だ」
「あぁ、よろしくな、シンとテア。それと家族ではないな、血は繋がってねぇし」
そこは、訂正しておく。
こいつは一緒にいる奴、全員家族だと思っているのか?
こいつの感覚的に友達は家族みたいな感じ?
それは無理がある気がするが。
「血は繋がっていなくとも、これから同じ時間を多くともにするんだからね。血なんて関係ないよ、これからは家族、僕のことはお兄ちゃんだと思ってくれていいからね!」
「ふざけんな、何がお兄ちゃんだ」
「お兄ちゃんって呼んでごらん?」
「呼ばねぇよ、ふざけんな」
そうやって共に笑いながら、王都にある住居に向かった。
これから間違いなく、大変になるな。こいつの性格を考えると。
でも、なんでだろうな。
大変になることが分かっているのに、気持ちは曇っていないのは。
期待すらしている。これからどうなるのか。
生まれてきて、初めてかもしれない。
未来に、明日に、一秒後に、期待を持って生きれるのは。
こんな気持ちになれるなんて、前世では考えられなかっただろうな。




