第23話 『世界の常識』
あれから何日経って、刑務所から解放された。
すぐに、シンとテアがいた所に向かったが当然のように、いなかった。
もう処理された後なんだろう。
そう考えると空虚で心が押しつぶされそうになる。
俺は失敗した。判断を誤った。
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
これからどうするか。
俺に行く場所なんて当然ない。
一旦、スラムがどうなったか、様子を見に行くか。
そこまで遠くはない。
見に行く分には問題ないだろう。
俺は、この場から逃げるようにスラムに向かった。
――そして、スラムに付くと予想されていた光景だ。
血という血が、建物に、大地に、あらゆる箇所にある。
死体が全くないのは、魔物に喰いつくされたからだろう。
特に親しい人がいたわけではない。
それでも、スラムの人達と完全に関わりがなかったわけではない。
外に出ると話すことはないがよくみる顔ぶれ、労働に行くとお馴染みの人達がいた。ただそれだけだ。
たった、それだけこと。
別に何か思うことがあるとかじゃない。
ただこの光景を見て、この世界は簡単に人が死ぬのだと改めて思い知らされた。
この血の数が人が死んでいった数なのだと。
そりゃあ、当然かもな。
この世界の人間が冷たくなるのも。
冷たいっていうのも俺の感性か。この世界では当然のことなんだろうな。
こんなに簡単に人が死ぬ世の中で、他人なんて構っている余裕なんてないか。
でも、あいつら、王国の人間はこの光景の経緯を知らない。
何も知らずに、のうのうと生きている。これからもきっとそうだろう。
その事実が苛立てる。
だが、冷静なって考えると、知らず、見ず、関わらずがこの世界の常識か。
……そんなの元いた世界も変わんねぇか。
俺が今まで知らなかっただけ。知ろうとしなかっただけだ。
他人のことも、世界のことも。
あの兄妹が可笑しかっただけ、他人の事情に踏み入れるなんて。
「本当にこれからどうするかなぁ」
困ったものである。
ゴミみたいな場所だが、スラムが居場所になりつつあったのは事実。
それがなくなったんだ。
これから先どこを居場所にすればいい?
「うーん、自給自足の生活をするとか?」
いや、無理だろ。そうやって自分にツッコミを入れる。
この世界のことなんて、ほとんど知らねぇのに自給自足の生活なんて、不可能に近い。
そういうのも知識が必要なんだ。
そんなもの俺が知るわけがない。
元いた世界でも、自給自足からかけ離れた生活を送ってたしな。
この世界で生活すればするほど、元いた世界がどれだけ恵まれていたか分かる。
誰かが敷いたレールを走っていれば、生きていける生活。何不自由ない衣食住、それにプラスして、知識の塊のネットワーク、本当に充実した。
だが、この世界はどうだ?誰も整備していないスラム、衣食住も確保するのも困難で知識を得る手段がない。
「おかしいだろ」
なんで異世界に来て、元の世界より生きることの難易度上がってんだよ。
労働はきつい、生活はぎりぎり、で魔物が大量いると、俺を殺す気しかないな。
本当にどうなってるんだよ……愚痴はこれぐらいにしておくか。
まだ、言いたいことは死ぬほどあるが、これからのことを考えるのが優先だ。
「にしても詰んでないか?これ」
どう考えても詰んでいる。
住む場所は……建物自体は残っているからスラムに住めるとしても、それ以外が問題だ。
人がいないから、食料も調達できないし、仕事も来ない。
ここに住むとしたら、自給自足ていう手段を取るしかないのだか、俺にそんな能力はない。
その他の選択しとしては、国に頼る?論外だな。
頼っても、拒まれるに決まっている。
「取り敢えず、もうしばらく歩いてみるか。人がいるかもしれねぇし」
立ち止まっていても、思考がまとまらないので、歩きながら考えることにする。
まだ、生き残りや俺みたいに戻ってきた人がいるかもしれない。
探してみるか――。
歩いていると、自分の家に着いてしまった。
別に愛着というものはないのだか、これが帰巣本能というものか。
来たなら仕方がない。中に入ってみるか。
「ただいま〜とか言って」
少し小声で言ってみる。人生で言ったことなんて一度もないが、自分の家だしな。
自分の家だという実感はあまりないけど、自分の家だと言うのは間違いない。
だから、言ったとしても間違いではない。
「アラタ?」
中から人の声が聞こえてくる。
人がいるだと?それにこの声って、そんなわけがない。
俺は等々おかしくなっちまったのか?
幻聴が聞こえるなんて。
「誰だ!?」
そんなわけがないと、中に入って誰なの確認する。
ありえない、ここにいるはずがない。
だって、俺の所為で――、
「僕だよ!シンだ!良かった、生きていたんだね!」
そこにはいるはずのいない奴がいた。
俺が取りこぼした存在がそこにいた。
間違いなくそこにいた、幻聴でもなく、幻覚でもなく、現実に。
泣き出しそうになるのを必死に堪えて言葉を口に出そうとする。
「……あぁ、生きてたぜ、それよりお前も無事だったんだな」
「うん!もちろんテアも無事だよ!本当に良かった、王都の人からはそんな人知らないって言われたもんだから焦ったよ」
「王都の人?」
「そう!王都の人に助けて貰えたんだ!」
「どうゆうことだ?」
王都の人に?あの後、助けられたのか。
俺を連れていった奴は、無視していたがその後、他の奴が助けたのか?
あの騎士からはシン達を助けるような様子を見られなかったが、何があったんだ?
まぁいい、生きてくれてて本当に良かった。
「うーん、気がついたら王都にいてね。それは後で話そう!テアを呼んでくるから待ってて」
「あ、あぁ」
状況が呑み込めないが、一旦こいつらが助かったという事実は本当のようだ。
王都の意図は分からないが、今はそれだけでいい。




