第22話 『なけなしの希望』
あれから騎士に捕まって、刑務所に入れられた。
俺は、結果としてあいつらに何もできなかった。
ただ、醜く騒ぎ立てていただけだ。
ずっとあいつら、兄弟のことを考えている。
無事なのか?それともあのまま、放置されたままなのか?
もう三日以上経っている。
あの状態で三日経っているのであれば、危険な状態かもう――、
「もうどうにもならないことか」
諦め気味で独り言を吐く。
過ぎてしまったことだ。
もう取り返しが付かないこと。
俺がここに捕まった時点で抗う術は失っている。
俺は失敗したんだ、あいつらを救うことを。
本当に情けない。
最悪の気持ちだ。
本当に自分を殺してしまいたい気持ちでいっぱいだ。
俺が間違いだった。
他人を頼るなんて。
前世の感覚で人に頼ってしまったのが駄目だった。
日本に住んでいた人間と異世界の人間の感性なんで同じな訳がない。
勝手に頼れば、助けてくれると思い込んでいた俺のミスだ。
でも、どうすれば良かったんだよ。
知らない土地で魔物から逃げ回って、色んな人間が喰われていく中、それでも助けたい奴がいて、自分ではどうにもならないと悟って、この行動に移した。
シンが魔物に襲われて、気を失い、テアは病にかかった。
その状況で取れる手段なんて限られているだろ。
そうだ、俺は間違った判断なんてしなかった。
国に頼るほか、選択肢はなかったんだ。
結局、あの状況になった時点で詰んでいたんだ俺は。
魔物に追われた時点で詰んでいた。
どうにもならないことだったと、そう思うと少しだけホッとした。
……ホッとした?俺が?何も救えなかったこの俺が?
ふざけるんじゃねぇ。ふざけるんじゃねぇぞ。許される訳ねぇ。
あいつらを救えなかった癖に、自分は救われようとする、楽になろうとするなんて。
そうじゃねぇだろ。
どうにもならなかったんじゃない。
途中で思考を放棄にして、他人に頼ったのが駄目だったんだ、だってそうだろ?
自分が苦しむ選択をせず、楽な選択をして他人を頼る選択した。その所為であいつらは。
つまり、全部俺の所為だ。
俺の判断ミスだ。
「そこは勘違いするじゃねぇぞ、アラタ」
自分が勘違いしないように、自分に言葉を突き立てる。
自分の失敗を心に刻んだ。
一生忘れないようにしないために、あの兄妹の恩を忘れないようにする為に。
※ ※ ※ ※ ※
独りになって、また色んなことを考え始めた。
いや、元から一人ではあったんだが、何故かあの兄妹に会ってからは孤独はあまり感じることはなかった。
出会って自己紹介しただけなのに、俺は確かにあの時から孤独ではなかった。間違いなく。
出会ったのが大きかったんだろうな、あの兄妹に。
だか、本当の意味で独りになってしまった。
俺は何のために異世界に来たんだ。
この身体に意識が宿ったんだ。
そんな疑問が湧いてくる。
大抵、こういうものは理由があるはずだろ。世界を救うためとか、魔王を倒すためとか、国を守るためとか、そんな理由が。
何でもいい、何でもいいから理由をくれ。
この世界に来た意味を。
じゃないとまた心が折れそうだ。挫けそうだ。
「怖い」
ここに来て、初めて異世界に来たのだと実感した。
スラムにいた時は、生活は大変だったが、生活自体には困らないし、特に前世とあまり変わらない生活をしてたものだから、あまり異世界という実感が湧いてこなかった。
魔物が来た時は、逃げるのが手一杯で実感を感じる余裕すらなかった。
でも、本当の意味で独りになって、世界の違いをようやく理解できるようになった。
簡単に魔物が喰われていく人間、病人を厄介そうに見る人々、助けを求める人間に対して無関心を決め込む国の住民、それらが元いた世界とは決定的に違うのだと思い知らされた。
ここは俺の知っている世界ではないのだと。全く異なる世界。
人間も、生きている生物も俺の知っているものではないとこれまでの体験で思い知らされてしまった。
俺はこの世界でこのまま独りで生きていくしかない。
そう思うと、未知というものから恐怖が湧いてくる。
「俺は本当に情けない奴だな」
少しため息混じりで、そう自分を蔑むように言う。
本当に情けない。
今こんな思考しても、ろくなことにならない。それはよく知ってる。
今は生きる理由をかき集めないと。
また同じ道を進むことになる。
何でもいい、嘘でもいい、上っ面でもいい。
今は少しでも生きる希望になる材料がないと心が折れて、希望という生きていくために最も必要なものをなくしてしまう。
何か……そうだな。
頭の中に希望がないか探す。
自分が今、己を立ち上がらせる希望がないか探す。
探している中で一番先に思いついたのが――
『君は勇気のある人間だ』
勇気のある人間。
俺なんかが天地をひっくり返してもなれない様な人間だ。
俺は、情けない人間だ。
だか、あいつは、シンは。
何も疑いもなく、自分は絶対に間違っていないと思ってるような表情で、目で、俺に言葉を投げつけた。
あの目を裏切っていいのか?
俺を信じてくれた目を。
俺なんかを肯定してくれた人間の言葉を、今の俺が否定していいのか?
勇気のある人間なら、こういう状況どうする?
諦めたりしないだろう、最後まで抗うだろ?
そう自分を騙すように、問いかける。
今は嘘でもいい。
今、心が折れなければいつか本当になるかも知れない。
それは生きてみないと分からない。
俺は、シンの言葉を信じて、生きてみることにした。




