第21話 『無関心という悪』
隠れるには丁度良い木を見つけたので、登ってシンの様子を見る。
息はしているし、血も止まっているが、意識が戻らない。
意識が戻るまでここでやり過ごすか、国に行って医者に診せるか。
そういえば国は宛にはならないと、スラムの奴らが嘆いていたな。
だが、このままだとシンの症状が悪化しないとは限らない。
ここは慎重に判断しないと、命に関わるかもしれない。
「テアどうすべきだと思う?このままやり過ごすか、国に頼るか」
と俺がそう言った瞬間、テアが木から落ちようとしていた。
落ちる前から少しフラフラしていたので、何をしているのかと思ってはいたが、木から落ちる状況になるとは予想できなかった。
「おいッ」
必死になって、落ちようとするテアを掴む。
掴んだら、体から熱が出ていた。何か病気か?
分からない。
何か判断出来る材料がない。
……もう一か八か国に頼るしかないか。
二人が危険な状態だと判断したため、医者に診せようと判断する。
俺一人ではどうにもならない状況だ。
あまり時間は掛けられない。
急いで向かおう。
何とかして、魔物を撒き、国に着くことができた。
俺達がいた位置から国はそこまで遠くはなかったので、大きな問題は起きなかったが、問題はここからだ。
「誰か、助けてくれ!病人と怪我人が居るんだ、誰か、部屋を貸してくれないか!それと、医者を紹介して欲しいんだ」
何処に行けば分からないので、ひとまずこの場にいる人間に訴える。
誰でも良い、助けてくれと訴えるが誰も見向きもしない。
誰もが、自分達の日常を過ごしている。
俺を無視して。
まるで俺が世界から遠ざかっているような、そんな錯覚を受けた。
「なっ……」
絶句した。
周りの人間はこういうことに慣れているのか、誰も関心は示そうとはしない。
中には申し訳なさそうな顔している人間もいる。
ただ、関わろうとはしない。
誰もが自分には関係ないと、関わってもロクなことが起きないと思っている。
そんな態度に腹が立ってきた。
俺達が、俺がどんな思いでここまで来たと思ってやがる。
「ふざけるんじゃねぇよ!今、外が、スラムがどんなことになってるのか分かってるのか!?人間がゴミ見たいに魔物に喰われてんだぞ!おい」
こんなに訴えても、何も反応がない。
本当に人間なのかこいつらは。
いや、俺が間違っているのか。
元の世界の基準で、考えていた。
国に、他人に救いを求めれば、救ってくれると勝手に思い込んでいた。
この状況は何とかなると、この兄妹は助かると勝手に思い込んでいたんだ。
だとしても、この無関心を続ける奴らに腹を立てる一方だ。
「そんな身なりをして、他人を助ける余裕がないとでも言うつもりなのか、お前らは。ふざけんじゃねぇ、ふざけるんじゃねぇぞ!」
そんな高そう服を着て、大人も子供も、何も外の地獄を何も知らずに生活していることに腹が立って、その気持ちを周りの人間に伝える。
「ごほっ……ごほっ……」
テアから咳が聞こえてくる。
それを聞いて、冷静になる。こんなことを言っている場合じゃない。
俺がここでこいつらに八つ当たりしても意味がない。
俺が今やらなくてはいけないのは、こいつらに助けを求めることだ。
落ち着け、アラタ。
「ふぅ……、頼む。いや、頼みます。誰か部屋と医者を紹介してくれませんか?お願いします」
ただ、切実に頭を下げて、お願いした。
今はこれしかない。俺にできることなんて、何の価値もない頭を下げることだけだ。
だから、お願いだから助けてくれ。
この兄妹を。
俺を救ってくれた奴らなんだ。恩人なんだ。
だから――、
「お前が、街中で騒いでいる奴か?」
「誰ですか?」
「この国の騎士だ。でお前が騒いでた奴で間違いないな?」
「あぁ、そうです。この兄妹が怪我と病気を患っているんです。何処か休める場所と医者を紹介してくれませんか?」
「そうか、街の人から通報があったため、連行する。抵抗しないで頂きたい」
「は?」
通報だと?こいつらは、手を差し伸べる余裕があると言うのに、差し伸べない所か押し退けた訳か。クソが。
あいつらは、俺達を厄介者扱いしている訳か。
外がどんな状況にもなっているかも知らずに、いや、それすら知っていて傍観を決め込んでいたかも知れない。
人が魔物で襲われているというのに、何も関心を抱かないどころか、助けを拒んで、国に突き出すとは本当に性根が腐ってやがるな。
自分の中に良くない感情が芽生えるのが分かる。
それは怒りだ。
「お前ら、ふざけんじゃねぇよ!安全圏から俺みたいなゴミを排除するのが楽しいか?楽しいだろうなぁ!?」
自分達は見向きもせず、都合の悪いものがあれば、国に泣きつき排除してもらう。
自分の手は汚さず、手間も掛けることせず、国に頼り、また自分達の生活に戻る。
外のことも、魔物のことも、スラムのことも何も見ず、知らずでまるで自分達は何も関係ないと。
スラムの人間は国の為に低賃金で働いていたと言うのに、それすら自分の中でなかったことにして。
「そこまでだ。行くぞ」
国の騎士とやらは、俺の体を掴み、連れて行こうとする。
置かれている兄弟を無視して。
「おい、こいつらはどうするんだ」
「そのままだ」
「そのままってことは、見殺しにする気かよ!おい、何処まで腐ってるんだよ!この国の人間は!?こんなの人殺しと変わんねぇだろうが!この人殺し共がぁ!」
俺の訴えは誰にも届かない。
騎士も無視して、俺を連れて行こうとする。
そして、悟った。
もうこいつらに何を言っても無駄なのだと。
もうこの兄弟を救うことはできないのだと。
「離せッ!」
捕まった体を動かして、抜け出そうとする。
俺があいつらから離れて、誰が助けることができる?いない。
この国には、この国の人間にはいない。
だから、離れてはいけない。
このまま連れていかれてしまえば――、
「抵抗するなと言っただろう!」
「うッ」
思いっきり、腹を殴られた。
意識は薄くなるが、完全には落ちていない。
その僅かな意識の中で、ただ謝っていた。兄妹達に。
俺を救ってくれたというのに、俺はお前らを救うことはできなかった。
俺は本当に最低な奴だ。本当にごめんな。
俺の所為で死んでしまう。
俺が判断を誤った所為で。
謝って許されることではないけど、ただ今は謝ることしかできない。
それしか、俺にできることはなかった。




