第18話 『魔物の襲来』
結局、色々考えすぎてあんま寝れなかったな。
当然ではあるか、まだこの世界に来てからそんなに時間は経過しているわけでもないから、不安も正直いうと沢山ある。
この状況でまだ寝れないのは、しょうがないか。
体に怠さを自覚しながら、外を見ようとすると、妙に外が騒がしい。どうしたんだ?
窓に手をかけて、外を見てみると怪我を負っている男が叫んでいるのが聞こえてくる。
少し遠くて、何を言っているのか聞こえないが、必死になっているのはその姿を見れば分かる。
遠目からでも、必死に叫んでいる男のもとにぞろぞろと人が現在進行形で集まっている。
俺も行ってみるか――。
「皆さん、早く逃げてください!魔物群れが今から来ます!早く逃げてください!」
最初は遠目で分からなかったが、叫んでいる人間は思ったより若い男の様子だった。
所々、体に傷を負っているので只事ではないと一目で分かる。
剣を背負っているので、少し身分は高いように思える。
そんな奴がなんで、スラムにいるんだ?と疑問が湧くがそれは優先順位は低いため、思考を廃棄する。
それより魔物の群れか……、どうしたものか。
どうするのが正解なのか、少し周りの様子を見て判断をしよう。
「逃げろって言われても、何処に逃げればいいんだよ」
叫んでいる男の近くにいる、禿げているおっちゃんがそう問いかけていた。
そこだよな、スラムの人間なんて逃げる場所なんてない。そこが一番の問題だろう。
他に居場所がないから、このスラムにいるってのに。
国に泣きつくか?でも、この人数を保護してくれるのか?そもそも、こういう時って普通、国が動くものなんじゃないのか?
この状況をどう理解すべきか、自分の中で自問自答を続ける。
ひとまず、今の状況を把握するには情報だ、情報がいる。
今必要な情報は、目の前の傷を負っている男が握っているに違いない。
こいつの言動は一つ一つ噛みしめて、自分の中で理解を進めなければならない。
出ないと、出遅れて理解した時には、もう遅いなんて状況になる。そんなのは御免だ。
「分からないけど、取り敢えず、ここはダメだ!魔物の進行と被る!」
「てか、国はどうした?こういう時の為に騎士という奴らがあるもんだろう?そいつらに任せようぜ」
「国もダメだ!あいつら、魔物の数に怯えて、騎士を出し惜しみしやがった!クソッ、しかも防護壁を張りやがったから、まともに国に入ることができない」
なるほど、国を宛にはできないということか。
ということは、無作為に逃げるしかないということか。
土地勘も分からないし、どうしたものか。
……てか、本当に魔物って居るんだな。
魔物っていう存在は話に聞いただけだし、本当にいるか定かではなかったけど、こうして明言されるということは居るんだろうな。
にわかには信じがたい。
だって、魔物って俺にとっては空想上の生物だぜ?それが目の前にいると言われても、実感が湧いてこない。
魔物がそんなものなのか、見てみたい気持ちが少しを湧いてきた。
でも、数が多いと来たか、今回は諦めるとしよう。
まだ見る機会はあるだろうしな。
「はぁ!?国は俺達を捨てた所か匿う気がないと言うことか?ふざけるんじゃねぇ!何のための国だ!俺達は低い賃金で国の為に働いてきたんだぞ!」
それは最もだな。
労働はクソだと散々思っていたが、国もクソだったという訳か。
酷い話だ。
「言いたい気持ちは分かる!でもこんなことをしている場合じゃない、今すぐにでも来るかもしれないんだ!」
「今すぐに!?何で国はもっと早く教えてくれなかったんだよ!」
「それは分からない、でも国がスラムの住民を捨てたのは間違いない」
「クソがッ!逃げるしかねぇってのかよ」
ここはスラム、だが腐っていても故郷では間違いないということなのか。
そんな気持ちがこの場所から逃げるのを渋る、禿げているおっちゃんから伝わってくる。
俺はまだこのスラムという場所に来てから時間はそれほど経っていないので、愛着は湧かない。
だから、禿げているおっちゃんの気持ちは分かってあげれないな。
そうか、状況的に今すぐ何処に逃げるのが正解か――。
そんな思考をしていると、遠くから足音が聞こえてくる。
足音だけで、ものすごい数と速度だと分かる。
そんな音が聞こえてる来ると、スラム住人達はパニックになってその場から逃げ出そうとする。
「ふざけるんじゃねぇよ!ここで死んでたまるかよ!」
「逃げろ!みんな、逃げろ!」
「でも、何処に逃げればいいんだ!?」
「取り敢えず、北だ!北に逃げろ!魔物は東に向かっていく習性がある、だから東はダメだ!北に逃げろ!」
「え!?本当に魔物がここに来るの?!」
「冗談じゃねぇーよ!」
スラムの住民の叫びが飛び交う。
その間、俺はどうしようかと考えていた。
頭に最初に浮かんだのは、あの兄弟のことだ。
あいつらは、まだこのことを知らないかも知れない。
逃げるのは一旦後回しにして、あの兄妹が心配だったため、知らせることを最優先に行動することにした。
※ ※ ※ ※ ※
「よし、行こっか」
「そうだね」
昨日話した通り、アラタの住所に向かう。
少し、緊張してるね。
何でだろう、別に会いに行くだけと言うのに。
僕にとっては結果的に僕を救ってくれた人には違いないからかな?
本当に勝手だけどね。
「あれ?あの子、アラタくんじゃない?」
「あ、本当だ」
目つきの悪い黒髪の少年、間違いないアラタくんだ。
誰か探しているように見えるけど見間違いかな?
取り敢えず、声をかけてみよう。
「アラタだよね?」
そう声を掛けると対象の少年は振り向いてくる。
少し焦っているようにも見える。
「ちょうど良かった。今、お前達を探していた所だった」
「僕たちを?」
「そうだ、今すぐに逃げないとこのスラムに魔物が大量に来る。おそらく北に逃げるのがよさそうだ」
「なるほど、魔物だ来るんだったら、国に対処して貰うのが一番いいんじゃないかな?」
「状況的に国は俺達、スラムを捨てたそうとそう判断して良さそうだ」
「それは本当かい?」
少し寂しそう顔をして、問いかけてくる。
そんな顔を見ると俺が悪いことしたように思えてくるな。
「そんなことより!それが本当なら逃げないと!今すぐ」
「テア、でも」
「でもじゃない!命が一番大事なの!」
シンの方は名残り惜しそうに、テアの方を見る。
テアの方はもう割り切っているようだ。
ここから逃げるということは、ここが魔物に蹂躙されるということだ。
生まれた故郷が魔物に蹂躙されるんだ、簡単に割り切れるわけもないか。
「そうだね、よし逃げよう」
「他に一緒に逃げたい奴はいるか?」
「特にいないかな」
やっぱ寂しそうな顔するんだよな、こいつ。
その顔を見ると、罪悪感が湧いてくるから止めてくれ。
「よし、逃げる――」
ぞと言いかけた時、聞いたことがない悍ましい声が聞こえてきた。
この声もしかして、魔物の声か。
相当近くから聞こえたぞ。
だとしたら、早すぎないか?
さっき聞いた時は、まだ足音は確かに遠かったはずだ。
「うわぁ!来るなぁ!」
かなり後ろにいた奴が、魔物に噛まれたのを見る。
それを見たスラムの住民は、恐怖とパニックに陥って、その場から走り出した。
思った以上に早い、先程の足音的にまだ遠いと思っていたが、魔物はすぐ近くまで来ていた。
なぜ、こんな近くに来るまで気が付かなかった?足音は全く聞こえてなかった。
まさか、人間の気配を察して足音を殺していたのか?
少し考えすぎか、所詮獣だ。
そんな知能があると思えない。
「チッ、早く逃げるぞ」
「でも、人が」
「お前は馬鹿か?今は人助けする余裕も、力もないだろ?なら今は逃げるしかねぇよ」
余裕がないのか、シンの余計な一言にイラついた口調で答える。
今は、最優先で逃げることが最善だ。
「そうだよね、人なんて助けている余裕なんてないよね」
だから、何なんだ。
その顔を、見ているだけでイライラしてくる。
魔物に襲われている人間を今すぐにでも、助けに行きたいとそう顔に出ている。
どこまでお人よしなんだ。こいつは。
こんな状況で人を助けようとするなんて、まともじゃねぇよこいつ。
「取り敢えず、お前が先導してくれ、俺は土地勘がないから分からん」
「僕も分からないよ」
「俺よりはマシだろう、頼んだぜ」
スラムの住民が魔物に食い殺されてるのを背にして俺達は、北へ逃げることにした。




