第16話 『今後の話』
この世界に来てから、少し時間が経ち、分かったことがある。
この世界の重力は前の世界と比べると、軽い。
それも大分だ。
どれくらいかって言われると、正確には分からない。
今まで重力を気にして生きたことがないからな。
軽いと感じて、初めて実感することができた。
重力が前世と比べ軽いから、かなり走りずらい。
地を足で蹴ろうとすると少し足が浮かんで、蹴るタイミングが前世とは異なって難しい。
歩くのにも、かなり違和感があるな。
これは、生活していれば、時期に慣れていくだろう。
そして、もう一つ分かったことがある。
それは、この世界に来てからというより前々から思っていたことだが労働はクソだということだ。
「マジでなんで働いているんだ?」
この世界に来てから、刹那の間で色んなことが起きたが、状況が落ち着き、初めて湧いた疑問だった。
前世でも、働いていたというのに異世界に来ても、働くって、どんな仕打ちだよ。
でも、こんなスラムの生活をしていると元居た世界は充実したいたんだな、と錯覚する。
いや、日本が充実していただけか。
元の世界でも、他の国ではこういうこともザラにあったはずだ。
だから変わったのは世界ではなくて、環境か。
いや、世界自体は変わってはいるのだが。
つまり、俺が言いたかったのは、俺が無知だったってことだ。
元居た世界にも、こういう生活を送っている者が居た。
子供から学校に行くこともなく、働き続けて、青春のせの字も知らない。
子供が居たという事実だ。
こう言葉にすると、あまり俺も変わらんか。
でも、学校行けていただけ幸せだったってことだ。
それを知らずに棒に振るっていた訳だが。
……てか、もういいだろ。前の世界のことは。
少し考え事をすると、つい前の世界のことを考えてしまう。
まだ、この世界に向き合う心構えが俺の中でできていない。
「よし、もう忘れよう」
言葉を口にして、それが現実になれば誰も苦労しない。
でも、言葉にすることで自分に意思表示くらいはできる。
それくらいの効果は確かにある。
そうだな、一旦忘れるために別のことを考えよう。
今後の生活についてだ。
この生活を脱するには、今考えられる限り三つある。
自分で店を開くか、冒険者になるか、物売りをするか。
一つずつ、可能性について考えてみよう。
まず、店を開く、これは場所の確保が難しい。
土地にも金が掛かるということだ。
もちろん莫大の金が必要で、スラムで店を開くにも、土地が必要だ。
これは、大金持ちにしか許されない選択肢だな。
「てか、貴族スタートの奴ってずるくね?」
前の世界で、異世界転生ものを何度か読んだことがある。
どれも、同じ流れであまり好きではなかったが、中には逸脱した物語などがあって面白かった。
大体が貴族から転生して、物語が進んでいるが最初から人生上がってるじゃねぇーか。
俺だったら、貴族ニート万歳生活をしてた。間違いなく。
……だから、前の世界は置いておいて。
「よし、忘れるぞ」
二度目の先ほどと同じ言葉。
もう前の世界のことは忘れる。
俺は、今を生きると決めたんだ。
もう、前の世界の記憶なんてないマインドでいく。
えっと、次は冒険者か。
これは、依頼をこなしてお金を稼ぐ職業だな。
後は、魔物を倒してその材料を売ったりする。
リスクもあるがこれが一番可能性があるだろう。
でも、この業界は実は、衰退しているらしい。
依頼は、信頼のおける実績がある者に行くし、魔物は国の騎士が倒していくし、弱い魔物数が自体減って、強い魔物が増えているしで、リスクしかない微妙な職業になってきている。
昔は、もっと違ったんだろうが。
強い魔物に殺されるリスクを背負ってまで、おいしい職業ではない。なので却下。
そして、最後に物売りか。
「単純にこの世界が何売れるか分からないんだよな」
そう、それが問題である。
単純な話、何を売ればいいか分からない。
「相場が分からねぇだよなぁ」
仮に、物売りができるものを集められたとしても相場が分からなければ、ぼられる可能性がある。
だから、まともに売ることができない。
そういう相場は、市場に行けば分かるのだが、そこも問題である。
物売りが対象となる物は希少価値が高いものだ。
金持ち、そう貴族ぐらいしか参加できない。
貧乏人は相場すら知ることができないのか。
「俺の人生、詰んでるわ。既に」
考えた末に、その結論が出た。
この生活から脱することができないという、結論が出てしまった。
この生活から脱することができないということは、生涯労働をし続けるということだ。
「てか、ここ地獄なんじゃね?」
若干、冗談交じりに独り言を口にする。
でも、地獄だとしたらこの状況に納得するんだよな。
労働するしか生きていけない状況だし。
異世界に来て、そんな状況意味が分からんし、大体こういうものって何か目的や理由があったりするんじゃねぇーの。知らんけど。
「あいつらどうしているのか」
俺を助けてくれた。助けてくれた?で合っているのか?
そこは分からんが、あの兄妹が来てくれたから、今の俺がいると思っている。
あそこでシンに、自分の憤りをぶつけることができたから、今心の余裕がある。
もし、シンがあの場に来てくれなかったら、俺はずっと悩んでいたかもしれない。
悩み続けて、苦しんでいたかもしれない。
そこに間違いない。それは、感謝しないとな。
もう少し、話せばよかったな。
状況が落ち着いてきたら、あいつらのことをもっと知りたくなってきた。
そういえば、困ったら家に来いって行っていたな。
「今度行ってみるか」
ある程度の場所は教えくれたので知っている。
あいつらと話をしてみたくなったので、家に行ってみるか。
特に困っていないけど、あの兄妹なら特に問題ないだろう。
特にやることもないし、明日にでも行ってみよう。




