第11話 『少年の労働』
この世界に来てから数日のこと。
なんだこれは、なんなんだこの状況は。
俺は、何でこんなことをしているんだ?させられているといった方が近いか?
仮にも?異世界に来たというのに、この状況はあんまりじゃないか。
俺が今まで読んでいた本では、異世界にきた奴らは境遇がいい奴らばっかだったぞ。
おかしい、あまりにもおかしい。
この差はなんなんだ。
「なんで俺は異世界に来て、労働をしているんだ……?」
そう、今俺は労働をしている。
スラムで生きていくには、二択しかない。
国のために働くか、窃盗、言わば犯罪に手を染めるか。
その二択を迫られた結果、俺は労働を選んだ。
窃盗やら犯罪はリスクが高いしな。
一応、この世界にも法律があるっぽいし、スラムでも法を犯しても犯罪者扱い。
異世界に来てまで、犯罪者になるなんてごめんだ。
「前世でも労働、今世でも労働。労働、労働、労働……」
アラタは魂が抜けたような表情で、労働と連呼している。
前世でも、ほとんど労働の人生を過ごし、異世界に来ても労働。
俺は、労働するために生まれてきたのか?この世界に来たのか?
労働、労働、労働――。
「元気がねぇな、ガキ」
元気?そんなのあるわけねぇだろ。
働きすぎて頭がおかしくなりそうだ。
こんなに働いて、正気でいる方がおかしいだろ。
間違いなく、人間の欠陥だ。
「こんなに労働してて、元気である方がおかしいだろ」
労働していて、疲れていたのといきなり知らない人間にガキとか言われて、少しイラついた口調になる。
前世を含んだら、ガキじゃねぇよとか思いつつ。
朝から労働が始まって、夕方頃に終わる?なげぇよ。普通に考えて。
それが週五ある。元気なんてなくして当然だ。
労働の体制は、前世から変わらないんだな。
それは異世界なのだから、融通を利かせたっていいだろ。
「ガキの癖にしけた面しやがって、もっとシャキッとしやがれ」
しけた面?労働中にどんな面しろっていうんだこいつは。
もしかして、労働を楽しめるタイプか?だとしたら絶対仲良くなれないな。
「お前は逆に元気すぎだろ」
「お前じゃねぇ、ジャンさんと呼べガキ」
顔に傷の入った、茶髪の目つきが悪い兄ちゃんがそう指図してくる。
事を荒立てたくはないので、一旦素直に聞いておこう
「ジャンさんは何でそんな元気なんだ?」
周りは死んだような面をして労働に励んでいる。
大人も子供も含め、目に生気を感じない。
この現状を足掻くのは諦めて日常として受け入れているように見える。
だがこいつは違う。
目に生気が溢れている。
「そりゃあ、おめぇ夢があるからよ」
「夢?」
「ああ、夢だ。それがあれば人間、どんな状況だろうと諦めることなんてしないさ」
夢ねぇ。
こんな現状でよく夢なんて見れたもんだ。
生活するのに精いっぱいだというのに、どうやって夢を持つなんて思考になれるのか。
ここいる奴らの大半は夢のゆ文字も知らずにこの生活を送っているに違いない。
俺も含めてな。
「夢か、それは大層なもんだな。まぁ頑張れ」
これ以上ジャンとやらと会話をしても意味はないと思い、会話を止めようとするが――。
「俺の夢は、世界一の盗賊になることだぜ」
「聞いてねぇよ」
ここにいる奴は勝手に話しをしてくる奴らばっかだな。
人の話を聞かないし。
「貴族や地位に甘んじて生きている奴らから根こそぎ持っているものを奪う。そしてあいつらは知ることになるのさ。何も持っていないものの辛さをな」
「くだらねぇな。結局、嫉妬で犯罪行為に手を染めるだけじゃねぇか。そこら辺のチンピラと何も変わらねぇ。何が夢だ。」
ジャンが言っていることは、ただの犯罪を宣言に過ぎない。
何が世界一の盗賊になるだ。
仮になれたとしても、ただの世界一の犯罪者だ。
それになんの意味がある。
「おめぇはよ。貴族っていう奴らを知っているか?」
「知ってはいるが、見たことがない」
知識としては、知っている。
この世界には、貴族という存在がいる。
過去に何か成してきた人間が、王から地位を貰ったのが貴族だ。
戦争に貢献した、ある地域を豊かにした、偉大な人間を育て上げた。
国に貢献した人間が報酬としてもらったのが、貴族という地位だ。
貴族の中にも地位の差だったり、違いがあったりするが細かいところまでは分からん。
「俺は見たことがあるぜ。あいつら、自分では何も成していないというのにでかい顔をするんだぜ?過去の人間が成した功績に群がっているだけだというのによ」
「へぇ、そうなんだ」
無視しても、面倒になることは想像できるので適当に相槌を打っておく。
せっかくだ。情報は情報だし、聞いておくか。
まだ、俺はこの世界のことは知らなすぎる。
大した情報ではなさそうだけどな。
「おかしいと思わねぇか?あいつらも、俺らも、何も成していないというのは同じというのに、貴族というだけで偉そうにできるんだぜ?生活さえも保障されている。貴族というだけでな」
「それは仕方ねぇだろ。生まれは選べねぇ、そんなこと言ったってどうにもならないだろ」
「そうさ。言ったってどうにもならない、だから俺は行動に移す」
「そういうことじゃねぇだろ」
「そういうことなんだよ、ガキ」
こいつの言っていることは、めちゃくちゃすぎるな。
「お前が言っているのは、夢でもなんでもない。ただ貴族に対して嫉妬を抱いて、八つ当たりしようとしているだけだろ?」
「……生まれに嫉妬を抱いているのは認めるさ。でもそれだけじゃない、貴族っているのは昔に努力して何か成した人間がいたからこそ、いる存在なんだろ?だったらそれに胡坐をかいている人間が俺は許せない。それとジャンさんと呼べ、ガキが」
胡坐をかいているねぇ。
貴族を見たことないから、まだ想像がつかないな。
今まで読んだ本の知識では、お堅いイメージや高貴な存在、中には悪役が多いものもあった。
先入観は捨てないとな。
この世界が俺の知っている貴族とは限らない。
だが、高貴な存在であることは間違いなさそうだ。
「貴族が全員が全員、胡坐をかいているとは思えないけどな。それとなんで世界一の盗賊なんだ?てか世界一の定義ってなんだ?」
「そりゃあおめぇ、有名になるためよ。盗賊っていう奴は、すぐ国に捕まったり、こそこそしている奴らが多いからな。貴族どもの耳に入らないことが多い。だが、貴族からものを盗んで、有名になればどうよ?嫌でも耳に入るだろ?」
「それはそうだが、それになんの意味がある?」
「貴族から物を盗み、俺を捕まえられないと世界が知ったらどうなるよ?今の貴族は無能だと世界に知らしめることができるってわけだ。それには、世界一の盗賊になる必要があるのさ」
「仮になれたとして、その先に何がある?」
「何もないさ。俺はただ証明したいだけだ。この世界には地位だけに甘んじている貴族は不要だってことをな」
……夢物語だな。こんなものは。
盗賊になったとしても、世界から受けるのはバッシングだけ。
貴族が不要という証明にはならない。
「夢物語だ」
「そう。夢物語、それを実現するのが夢ってやつだ」
こんな夢物語をジャンは、自分は成せると信じているような表情で語っていた。
これが夢の効果ってやつか?だとしたら自分に酔っているだけだろ。
「そっか、まぁ頑張れよ。それとなんで突然、俺に話しかけたんだ?」
どうせ、叶いもしないと思いつつ労っておく。
「おめぇがそこらへんにいる人間と違って、この現状を受け入れていないように見えたからだ」
「受け入れていない?それはどういう――」
「あっ!わりぃ、この後、用事があるからよ。最後に名前だけ聞かせてくれや」
ジャンは俺の言葉を遮って、この後、用事があることを伝えてくる。
なんて勝手な奴だ。こいつから話しかけてきたというのに。
「俺はアラタだ」
「アラタか、覚えたぜ」
咄嗟に聞かれたから、本名を言ってしまった。
これから犯罪者になる予定の人間に、本名を教えてよかったのか?考えすぎか。
犯罪者になるといっても、どうせそこらへんで盗みを働いて、国に捕まるのがオチだろう。




