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第4話 トレーニング継続中

 床のせり上がりは大体腰のあたりで止まった。流石にこの高さは飛び降りるのはまだできるとしても、ジャンプで飛び乗るのは難しい。

「次はこれくらいですかね」

「ふーむ」

 それにしても、システムさんは本当にシステムメッセージなのだろうか。音声は機械の合成音声ではあるけれど、トレーニングコーチのように軽快に話しかけてくれる。

 まぁ、一人で黙々と練習するよりかははるかにマシだけど。システムさん、なんか面白い人だし。人かなぁ?

「ハル様は本来の鳥は飛び立つときにすごく羽ばたくことはご存じですか?」

「にわか知識ぐらいに。助走つけたり、地面を強く蹴ったりしてからすごく羽ばたいて飛んでいくんだよね」

「それをイメージしていきましょう」

「つまりすごく羽ばたけと」

 とりあえずまずは感覚を掴むため、その場でジャンプしてから両翼を数回羽ばたかせてみる。

 それだけだと着地がゆっくりになったという感じだ。それと、まだ力のバランスが悪いのか身体が少し斜めになった。

「これは……失敗しそうだなぁ」

「とりあえず挑戦してみましょう」

 そそのかされるままに次は力強く地面を蹴って飛び上がり、めいっぱい羽ばたいてみる。

「にょわっ!」

 するとすぐさま空中でバランスを崩し、再び全身で着地してしまう。

「先に空中での姿勢を維持する練習をしましょうか」

「こちらにどうぞ」

 システムさんの言葉が聞こえると部屋の一角にマーカーが現れた。そのマーカーところの床の色がクリーム色に変わっていて、近づいて踏んでみるとぶにっと柔らかくなっている。

「おっと?」

「そのあたり一帯の床をトランポリンにしてみました」

「なるほど?」

「トランポリンを使って高く飛び、それからホバリングする。というのはどうでしょう」

「ホバリングって空中に留まるように飛ぶことだっけ?」

 なるほど。確かにこれなら失敗してもべちゃっと全身で着地することがなくなりそうだ。

 早速私はトランポリンを使って空高く跳び上がり、それから羽ばたいてその場に留まろうとする。

 やはり身体が傾いていく。右が上がるということはやはり右のほうが力強いのか。ならば左に力を入れて……

「よっ、ほっ……ふんっ!」

 右側に傾いたり、左側に傾いたり。それに合わせて右にふらふら、左にふらふら。とてもホバリングとは言えない状態だ。

「腕疲れたぁ……」

 しかも必死に羽ばたいているので、腕がだるくなる。私は羽ばたくのを止めて翼を広げた状態でゆっくり滑空していく。

「滑空は慣れてますね」

「グライダーとかは別のゲームで経験してるからね」

 ゆっくり旋回しながら降りていってトランポリンとなっている床へダイブ。

「難しいですか?」

「鳥さんの偉大さが理解できたよ」

 身体を起こし、肩をぐるぐる回す。少し休憩したらトランポリンを使って再び宙に舞った。

「ほっ!」

 そして羽ばたく。しかしホバリングするのでなく、前へ進む。鳥のように滑空して、高度を保つために、あとは壁にぶつからないように部屋の中を旋回する。

「飛び回っちゃうんです?」

「まずは力加減を覚えようと思ってね。上手く羽ばたけていれば体勢がぶれないだろうから」

「そうなると、広くしましょうか」

 システムさんの一言で部屋に一瞬ノイズが走ったかと思うと、視界が一気に開けた。無機質な部屋が大草原に変わったのだ。

「わぁお」

「先のほうに大きな木があるのが見えますか?」

「あるね。ぽつんと一本立ってるのが」

「反対側にも同じ木がありますので、まっすぐ飛べるように往復してみましょうか」

「なんとも大掛かりなシャトルランだ」

 私は言われたとおりにまずは前方に見える木へと飛んでいく。滑空しているときは風が心地よく全身を包んでくれる。

 しかし、羽ばたくときに身体がぐらつく。どっちの力が強いのか分析して次に繋げる。

 やがて大きな木に辿り着いたので旋回して反対側へ向く。確かに離れたところにもう一本大きな木が立っていた。

 次はそのもう一本の木を目指して進む。何度か羽ばたいていくうちにようやくコツがわかってきて、身体のぐらつきも少なくなってきた。

「おー……いい眺めだー!」

 余裕が出てきたので周囲の景色を見渡す。地平線の先にまで広がるだだっ広い草原に、たった二本の木が立っているだけという簡素な景色だが、それでも空から見下ろす壮大な景色に感動する。

 景色を堪能しながら二本目の木の上空へ到着した。するとシステムさんが声をかける。

「大分よくなりましたね」

「そうだった? 景気見てたから覚えてないや」

「その余裕こそが成功の証拠ですね。それでは、一度着地してください」

 ゆっくりと羽ばたきながら降りていく。確かに身体のぶれは……ちょっとあるけど、体勢を崩すほどではなくなっていた。

 着地すると周囲にノイズが走ってあの無機質な部屋へと変わる。目の前には腰あたりまでせり上がった床があった。

「さて、再挑戦しましょう」

 システムさんの言葉に私は頷くとジャンプしてから数度羽ばたき、危なげなく段差の上に乗っかった。

「おぉ、余裕だ」

「がっつり飛びましたからね。それでは次で最後の仕上げといきましょう」

 私が飛び降りると床が一気にせり上がる。四、五メートルぐらいだろうか。

「おー、これは絶対にジャンプだけじゃ届かないねー」

「今回はトランポリンなしで飛んでみてください」

「りょーかい」

 私はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねてから、まずは駆け出す。柱のようになったせり上がった床の周りをぐるりと回る。

 ある程度スピードが乗ったところで大きく踏み込み跳び上がる。すぐさま羽ばたき周囲を回りながら高度を上げていく。

 あっという間にせり上がった床の高さを超えた。位置を確認してから中央にゆっくりと降り立つ。

「完璧ですね」

 システムさんの祝福の声が聞こえ、床が私を乗せたままゆっくりと下がっていく。

「本日の練習はこれくらいにしましょう。お疲れ様でした」

「お疲れ様、システムさん。色々とありがと」

 私は大きく伸びをしながらシステムさんにお礼を言った。

「こちらこそ。折角作った施設や機能を最大限に使ってくれて嬉しい限りです」

「まぁ、まだまだ練習することは多いからね。また来るよ」

 私はメニューを開き、本来の『アセリア・オンライン』と戻る。

 しかし、予定以上にがっつり練習してしまった。どれくらい時間経っているだろ。

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