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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
共感の子供
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ザ・マン・フー・ソウルド・ザ・ワールド その4




鯉の餌やり。餌はコリオ、鯉は複製達。

最悪な想像が胸を突く。


「無闇矢鱈に餌を救い出そうと池に飛び込まないのは適切な判断だ。それを許さないのが私の仕事だということを、よく理解している」


「………」


その場に留まり上っ面だけでも平静を保とうとするも、芯からの震えには勝てない。仲間も守る、イトスも倒す、両方やらねばいけないというプレッシャーが体を震わせ、遂行できない罪悪感が心を押し潰していく。


「遠い宇宙にたった一人で放り出されたことがあるか?生物の存在しない地球で独りぼっちになったことがあるか?安心しろ、その必要は無い。似た感情なら、今からたっぷりと味あわせてやる。自分を悔いろ、戒めろ、リアス・ペルフ。悪いのは貴様だ、零から百まで、全部をマイナスへと導いているのは、貴様なのだ!」


言葉の力は重い。イトスの言葉は重りとなって、リアスの心に鈍い一撃を与える。


「………ハァーッ…ハアッ!……ハァハアッ…!……」


自分のメンタルに活を入れる気力も薄れ、全てを壊している自分に気づき、舌を噛み切ろうかと考える。

そんな時、イトスが左手を差し伸べてきた。


「痛みは無い、認識する時間も無い。私は君達を高く評価しているんだ。最期に、有終の美を飾らせてやろう。そして、記憶の片隅に留めておいてやる」


その手に触れれば、自分は奴の能力に殺されるだろう。イトス以外には決して分からない能力に殺される。

皆死んだ。姉ちゃんもフィオリもルクセルもアレクもユノもコリオも母さんも父さんも、全員いなくなった。自分の生きる価値とはなんであろうか。



リアスがまだ10歳の頃。家で黙々とゲームをするリアスと、楽しそうに夕食を作るディアンがいつもそこにはいた。


「ねえリアス、お姉ちゃんから手紙きてるけど、読む?」


「読まない」


「そう…?一年も経ってるのに、リアスは我慢強い子だね」


「姉なんていらない。お母さんと二人だけがいい」


ディアンが夕食をテーブルに運んでくると、腹を空にしてくる香りがする。ゲームを中断すると、隣に母が座る。母の芳香はもう思い出せなくなり、思い出そうとすると母の死体が脳裏を過ぎる。穏やかな食卓には、いつも笑顔があった。


「…………リアス、突然だけどねあなたには妹がいるの。多分覚えてないでしょうけど、半年だけ一緒に暮らしてた、ユノっていう妹がいたの」


「………」


「裁判すら行わせてもらえなかった。でも、感覚だけど、今もどこかでユノは生きてるわ。もしかしたら、電車で横に座ってる女の子がユノかもしれないの」


「それがどうかしたの?」


「あの子はきっと苦労しているわ。だからね、リアス。人を助けることをリアスには覚えてほしいの。本当の失敗は、立ち向かわないことを言うのよ。この世に100も0も無い、だから、ほんの僅かな希望で立ち向かう覚悟を、出来るようにしてほしい…」



これが走馬灯だろうか。当時の自分はどうでもいいと思っていたのだろう、覚えていない記憶。現実に戻ると、その走馬灯すらも記憶の海に深く沈んでいく。


「どうした、気絶でもしたのか?」


「………」


リアスはゆっくり、左手を伸ばす。

下を向いたまま、顔を陰を作る姿はイトスから見れば諦めの表情にしか見えなかった。


二人の間で硬く握手が交わされた。

その直後、リアスが手を引いてイトスの体勢を崩した。


「!?」


イトスにはワケが分からなかった。もう既に、『フー・ソウルド・ザ・ワールド』は発動させているというのに、何をしているんだ、と。

体勢を崩したイトスの顎に、すかさずリアスは右手を振り上げた。


「アグァッ!!!」


捨て身の一発の威力は凄まじく。イトスは熊にでも投げ飛ばされたように大きく吹っ飛んだ。そして吹っ飛んだ先には窓があり、分厚いはずの窓が容易く割れた。

イトスは頭がズキズキと痛み、顎もうまく動かせない。反発込みのアッパーだったのだろう、脳が揺らされたような感覚がする。


「ッ…!?」


そして窓をぶち破って外に放り出されたイトスを、追撃をするかと思いきや、リアスは割れた窓ガラス片を左手に強く握った。既に右腕は三分の一程が消えているし、左手も大きなガラス片を握っているせいで出血している。

リアスはそのガラス片を高く振りかざす。複製のセオドアを操作しているときにもアレクに見た、気高い意志がそこにはあった。


「ォオオオオオオオオオ!!!!!!」


一発だった。一発で、リアスの右前腕は切り飛ばされた。

『フー・ソウルド・ザ・ワールド』の抹消の浸食がまだ右腕の途中だったため、切り取られた右前腕だけが抹消され、肝心のリアス本人には何も起こっていない。

強いて言えば、奴は大量の出血に叫び狂い、悶え苦しんでいるということだけ。


「バカなのか……?君達はバカなのか!?抹消を食い止めやがった!なぜ腕を切れる!?そんなに血が出てるというのに!なぜ意識を保てる!?脳が腐っているのか!!?」


体中にガラスで切った傷がある中、イトスは立ち上がる。それ以上の重傷をしているバカとしか思えない男が、目の前にいるからだ。


「今………確信した!……お前の能力は…「触れた物体を抹消した後に、そのものがあったという事実さえも抹消する」能力だ!!!これが僕の……覚悟だ!!!」


血の海を床に作り、跪いたままのリアスの叫びはただの無様な断末魔にしか聞こえなかった。


「そんなものか……つまらん」


鼻で笑いとばし、トドメをさそうとリアスに近づこうとしたその時、部屋の奥に一人の影がたどたどしい足音と共に現れた。

紺色の長髪は乱れ、鮮やかな瞳は疲れ果て、死んだような顔色は灰色のようにも見える。銃弾をこれでもかと背中に浴びせたあの女が目の前にいた。


「……どんな強敵にも立ち向かう覚悟を………リアスは持っている。…あなたには分からないでしょうけど……!アレクだって…コリオだって…私だって……全員……持っている…!」


血まみれで、目を開けることさえままならない状態のユノが、そこには立っていた。背中に穴を開けられ、組織もまだ十分に修復されておらず立つことも難しいというのに、他の部屋に安静にさせておいたユノが、自力でここまで辿り着いたのだ。


「……リアス…こ…これ……地下の倉庫にいくらでもあったわよ…」


やはり意識が保てなかったのか、ユノは壁にもたれながら倒れた。やがてすぐに眠ったように動かなくなった。


「……ユノ…!!」


痛みの中、ユノを心配する声は届かない。そして、ユノの手に握られていたのは、一つのチューブと、一つの目玉だった。


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