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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
共感の子供
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ザ・マン・フー・ソウルド・ザ・ワールド その2



背後には崩壊した壁の代役になるかのような大量の複製達。窓ももれなく封鎖され、出入り口の扉は全て外側から押さえつけられている。


「……君たちは天敵だ……時間稼ぎに意味は無いぞッ!!」


血塗られた白衣をなびかせて、イトスは飛び出す。

このまま逃げ回っていてもいつか負けてしまう。ドアが無い出入り口が一つあるが、それよりもやるべきことはいくらでもある。

厳密に言えばそこにあるはずのドアは、イトスが『フー・ソウルド・ザ・ワールド』で抹消したものなのだが、それをリアス達が理解することはない。


「まずはイトスの能力の秘密を暴かないといけない」


手を後ろに回し、リアスは適当に掴んだ複製を前に押し出す。

奴は新しい能力で自分達を殺すと宣言していた。奴の性格から考えて、こういう時は前言撤回をしないはずだ。

狙いは的中、スーツ姿の複製は一切動かない。


「一個消失しようが問題じゃあ無いさ!死ぬまで能力を拝ませてやる!」


イトスの手先が複製に触れた直後、ボロボロと複製が崩れ去っていく。大鋸屑のようになってやがて一ミリ残らず消滅する様は、リアスの記憶にとっては初めて見る光景だった。


「これが奴の能力……?」


消滅は手先の触れた部分から広がり、イトスの憎きご尊顔が現れる。

触れると消滅させる能力。シンプルなほど強いとは言うが、本当にそれだけの能力なのかと疑問符を浮かべる。


「忘却まで3秒といったところだな……」


複製が完全に消えた瞬間、リアスの頭に再びあの不思議な感覚が蘇る。その感覚に違和感しか覚えないリアスに、イトスは再び足を踏み込み、手を伸ばしてきた。


まだ能力の片鱗さえ見られていない。ここは変わり身が間に合わないから、避ける他ない。

再び、反発でイトスの上を通って後ろへと回る。


「いたちごっこはあまり好まないが……好きなだけ逃げればいい……有終の美を飾りたいなら、飾ればいい。どうせリアス、君は忘れられるのだからな」


イトスの言葉には耳を貸さないことにしている。出入り口の前間で来たリアスとコリオはそのまま背部を用心しつつ、マップルームを脱出する。

二人は案外楽にマップルームを抜け出せたことに不審の念を持った。奴の策に既にハマったのではと、恐くなってくる。


「奴の新能力は拳で触れることが発動条件……まだ情報はそれだけか…」


「変に厄介な能力じゃあなきゃいいんだけどね…」


神々しい雰囲気を放つランプやそれを損なわないような淡い色の絨毯、それに相反するように薙ぎ倒されたパーティションや白い壁をペンキの如く彩色する血痕。誰もいない官邸内を走り駆ける二人を監視する、そこら中に散りばめられた複製の眼球。

二人はとりあえず、イトスも言っていた、医務室を捜索する。もしかしたら、ユノを救える何かがあるかもしれない。ホワイトハウスの内部構造は一つも知らないため、勘で進む。片っ端から調べるために、まず隣の部屋の扉を開ける。


「あ、これ絶対医務室!」


語彙力の欠片も無い言葉を聞いて、希望が湧いてくる。モダンな基調は損なわず、棚に入れられた無数の薬品。マップルームよりは狭めのその部屋を介して、左にまた違う部屋が繋がっており、そこにも薬品棚や診察室らしき部屋が見える。

二人は胸をなで下ろし、その部屋に入る。


正直に言ってしまえば、ユノはとっくのとうに意識を失い、死んでいる可能性はとてつもなく大きい。人を蘇生することは犯罪に当たるが、まだユノが生きているということと現代医療の超絶的な進化に賭けるしかない。


「……さっきの部屋が見える…でも……壁って無かったっけ……」


リアスが眉をひそめる視線の先、マップルームと医務室の間にある全ての壁が無くなっている。そして、その場に似合う、見慣れた白衣を着た男が椅子に座っていた。


「!」


「なんで先回りしている。とか、思ってるだろ」


イトスは能力で壁を消して、この医務室へと来ていた。だが壁が無くなっているということを、イトス以外の人間が理解することは出来ない。


「アハハハハッ、どうせ医務室だろうと思っていたよ。探し物は……例えば、これかな?」


イトスが提示してきたのは、ケースに仕舞われた一つだけの錠剤。さぞ大切そうに円いケースに入った錠剤は、どこから見ても白く円いただの薬。見たことの無いそれは、医学薬学に全く興味の無い二人が知るよしも無かった。


「……私も…実験の関係で、複製含めて二回だけ使ったことがあるんだがね……これは恐ろしい薬品だ。死ぬ寸前の人間の心臓と呼吸器を強制的に動かし……脳に酸素を無理矢理送り込む。これ一つでロールスロイスが買えるくらいの値段だが、それに見合う効能はあるってもんだ」


ただの白い錠剤にそれほどの価値があるとも思えないが、奴の言っている言葉が真実ならば、咽から手が出るほど欲しい。


「そんなものを所有できるのが大統領の特権だな」


椅子から立ち上がり、イトスはその錠剤をポケットに入れる。


「リアス。奴があれを破壊する前に……」


「うん、援護よろしく」


怖じ気づく気配は一切無く、リアスはゆっくりと前進し始める。思い出したくもないが、母は亡くなった。今は、ユノのためなら全てを投げ捨てられる覚悟がある。


だがしかしそのコリオの目には、光が無かった。背後からの暗雲は、煌めく漆黒の銃口。冷たく擦れるは、不意という名の戦慄。


「…さっき投げられたときに、触っていたからな……私に抜け目は無いぞ、リアス・ペルフ」


本物のコリオは、まだ診察室にすら入っていなかった。先程リアスに話し掛けていたのは、イトスの複製。コリオが巴投げを炸裂させた時に、触れる機会はいくらでもあったのだ。


「まさかッ!」


リアスの後頭部に触れた銃口。何もかも時既に遅く、火薬の爆発音が官邸中に響き渡る。


「危ないなぁ……自分の複製を見るって、変な感覚」


複製のコリオの持っている銃の銃口に、ピタリと(やじり)が張り付いていた。これにより銃弾が内部で跳ね返され、腔発に似た現象が起きたのだ。

リアスは背筋が凍る思いだったが、ギリギリのところでコリオが現れたことで難を逃れることが出来た。


「ここまで生き残ってれば、抜け目がないのは当然か…」


イトスは鋭い眼で、コリオの周りに浮遊する鏃を見てにやつく。


「私の『セヴンズ・スター』はその性質上砕けないから、ある意味最強かもね。「鏃が五つしか無い」ってのが少し不便だけど……あなたを倒すには十分」


その勝ち誇ったような態度に、イトスは笑いを必死に堪える。コリオの能力『セヴンズ・スター』の鏃の数は、その名の通り、本来は七つである。これこそが『フー・ソウルド・ザ・ワールド』の醍醐味とでも言おうか。自分しか知らない情報があると人にも教えたくなるものだが、この場合は別だ。

何が消えようとも、いつ共に戦ってきた仲間がいなくなろうとも、それに気づくことは決してないのだ。


「誰が消えようと………その者へ抱いていた感情は残っていたりもするのかな」



だらけてきました

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