ネヴァーマインド その5
宙に浮かぶ七つの鏃。それに弾丸が当たり、また幾度となく反射され、ユノへと発射された三発の弾丸が全てイトスへと返された。
それは『セヴンズ・スター』の鏃。コリオとリアスは、無事生きていた。アレクを運ぶことに苦労はしたが、大体はリアスの反発で余裕だった。
「…ウガッ……!!!」
イトスは血を吐き、その三擊に悶える。
その場にイトスは倒れ、血を瀑布の如く噴出させる。
やっと倒したんだ。奴の動揺を誘う方法は、奴の英知の結晶を破壊することにあったのだ。数時間かけて立てた、まだ未完成のドミノが子供に倒されるように、イトスは精神は負けたのだ。
「大丈夫!?ユノ!」
コリオがユノの元へと駆け寄る。
コリオの服は土で汚れ、息を切らしている。複製は動かず、イトスも倒れ、時間に余裕が出来たため、全員安心しきっている。
「このくらい……なんてことないわ。リアス、応急用の薬があったでしょ、それちょうだい」
リアスは頷き、ポケットから瓶に入ったジェルのような物を渡す。ユノは脇腹の傷口から弾丸を吸引で抜き取り、そのジェルを入れる。
それは特殊なジェルで、傷口に注入すれば痛みは消え、無くなった部分もある程度修復され、生きてさえいれば自然治癒力も高まるという優れ物。しかし骨や脳などは修復できず、正しい処置をしなければ、筋肉や内臓も不完全な物となってしまう。
「…フフフハハハハハッ……アハハハハッ!!!」
血を流したままだというのに力の入った、気味の悪い笑い声。
やはりまだ生きていた。複製がまだ残っていることから、諦めて死んでくれと願ってはいたが、そんななまっちょろい男ではなかった。
眠るアレクを、嘆き悲しむ時間は無く、再びイトスが起き上がった。
「油断しないで!……奴は人間てあって人間じゃあない…!異常な執念深さを持つ「子供」なんだッ!早くその目玉を壊すんだ!ユノ!」
「ええ!」
ユノは手に持っていた目玉を軽々と握り潰した。
ニュルッと気持ち悪い感覚がし、手を開くと目玉はドロドロになっていた。
これに対してイトスが何も言わなかったのが不思議だったが、これが奴の大事にしていた特異能力の元となる粒子、オルドリクセンの固体。それを潰したとあらば、奴はもっと動揺するはずだ。
「騙されやがって……正真正銘のバカだな…『ネヴァーマインド』のルールその六……「複製元の人間を絶命している場合に限り、複製は特異能力を使用可能になる。」……詳しく言えば人間ではなく…オルドリクセンを所有しているモノのこと……つまり!オルドリクセンそのものであるその目玉にもこのルールは適応されるッ!!」
目を見開き手を広げ、イトスは狂ったような素振りをする。
その目玉、つまり固体のオルドリクセンはディアンの複製が、ルールその六に従い、能力によって個体に変えた物。
「何が言いたいッ!もう目玉は潰したぞ!」
「私が固体化した「オルドリクセン」の複製を創っていないとでも思っていたのかァッ!!」
イトスは憤怒に似た表情を浮かべる、
以前とは違う様子のイトス。元々頭のイカれた男だったが、やっと本心を現し始めた。
そしてイトスが白衣の中から取り出したのは、ユノが潰したのと同じ目玉だった。そう、それはオルドリクセンの固体である目玉の、複製だ。
「貴様がその複製元の固体オルドリクセンを破壊したことで!この私が持っている複製の固体オルドリクセンが複製元の力を得るッ!」
ユノが目玉を破壊したことが裏目に出た。
複製元の力を得るということは、複製が複製元と全く同じになるということ。今までその目玉の複製はオルドリクセンを持っていなかったが、複製元が破壊されたことにより複製はオルドリクセンを手に入れた。オルドリクセンは、イトスの物となったのだ。
「まさかお前達如きに使うことになるとはな……!そしてオルドリクセンを外部から摂取した生物はッ!新たなる特異能力の段階!「覚醒」へと進むことが許されるッ!!!」
「覚醒……!?」
コリオはなんとなく覚えている言葉だった。たしかセオドアと戦っている際、そのような言葉を耳にしたことがある。
「私は遂に…覚醒するッ!!!」
イトスは手に持っていた目玉の複製を高く掲げ、口に放り込もうとする。
なんとなくだが、嫌な感覚がした。とても恐ろしい事態になってしまうような気がした。
「こちらが不利になってしまうわ!」
ユノはその目玉を両手で引き寄せるも、イトスはそれに力づくで反抗する。ディアンの複製も加わり、二人がかりで子供のように目玉を離さない。
「決して渡さないッ!私は勝利するんだァッ!!」
「それを壊させてもらう!イトスッ!」
リアスとコリオも走り出し、その目玉を強奪しようと能力を使用する。
しかし近づこうとしたその時、イトスが懐から拳銃を取り出し、一心不乱に撃ち始めた。
的の定まらない銃弾は雨のように槍のように部屋中を暴れ、例の複製を永遠に使用できる方法をイトスは使ってずっと撃ち続けている。
「クソッ!……出鱈目なッ……!」
「神を蘇らせるには神を理解することが必要だッ!私は覚醒し……神を理解するッ!!!」
大型のほうの高速輸送機の扉を開けると、全力でイトスは目玉をそこへと放り込んだ。
イトスは持っていた拳銃を複製へと手渡す。弾丸の雨は止まず、弾丸に気をとられて迂闊に動けない。
「私は負けていない!逃げていない!屈しない!まだ勝負は進行中だァッ!」
そしてイトスも高速輸送機に乗り込もうとするが、それをユノは引き止める。イトスだけは行かせてはならない。この有利な状況を留めておきたい。
その瞬間、高速輸送機の扉が自動で閉まり、動き出した。横倒れになった円柱状の大型輸送機は地下鉄のようになっており、その名の通り高速で移動できる。目玉はどこかへと送られてしまったのだ。
「そして私も……そこへと向かう!輸送機の複製は既に創造済みだ……!」
動いたはずの輸送機か、なぜかそこにはあった。イトスはもう輸送機の複製を創っていた。
扉は既に開いており、四人ぐらいが乗れる席があり、中に目玉はない。
イトスは脚を引き釣りながらも二つ目の輸送機に乗り込み、複製も銃を何度も放ちつつ乗り込む。
「ダメだわ!弾丸を防ぐので精一杯であいつを引き寄せられないッ!」
「待てッ!!イトス!」
ボロボロのまま、イトスはとある場所へと向かった。輸送機の線路上に三人は立つも、とっくのとうに影は見えなくなっていた。




