ラヴ・ザ・ウェイ・ユー・ライ その4
「…もういいや」
エリナのため息混じりの落胆の声。
勝てると思っていても、勝ち方は一つでは無いのかもしれない。ルールの上で勝っていても、精神面や肉体面で負けるという、屁理屈のような勝ち方。エリナは息を吸う。
「君の手札は1から5の全スート各四枚ずつ君は孤独仲間なんていない君はユノじゃない僕もエリナじゃない僕がカードを置く度に君はダウトと言わなければならないあらゆる物事において僕が上であり君は最底辺僕の手札は残り一枚全て信実で全て虚偽君は命がけ惜しい君は負けるそして必ず、僕が勝つ」
早口で理解し難い言葉。しかし出鱈目で狂った意図の無い発言では決してない。
『ダーティ・ループス』と合わさり、常識が覆されることでユノの頭の中がグルグルと掻き回され、大量の情報に処理が追いつかず何を考えているのかすら忘れ、瀑布の如く汗が出てくる。何を聞かされたのか、心底では覚えているのか。
人間の知能は地球最強。毒を毒で制す、人間には人間を、能力には能力を。
「プラシーボ効果…だったっかな。まあよく分かんないけど、言葉は時に肉体や精神にあるはずのない効果を与える。僕を殴り飛ばせば勝てるけど、それはイカサマ判定が出ちゃうかな。さぁ、続けようよ、次は君が6を出す番だよ。フフフッ」
テーブル肘をつき、楽しそうな顔でユノを見つめる。
ユノのちっぽけに成り下がった知能にも分かる言葉でエリナは言った。「僕を殴り飛ばせば勝てる」と。さっきユノは勝てないと言っていたが、エリナは自ら一つの道を提示してくれた。
「…………」
「?」
ユノは俯いたまま手をエリナの顔の前にかざす。
今まではエリナばかり能力を使っていたが、ここで野生動物並の思考が巡ってきた。
「オオオオオオオオオオオ!!!!!」
エリナの顔面がユノの能力によって掌に吸引され、顔が掌に触れる前に能力を寸止めし、立ち上がったユノが全身全霊のアッパーで殴り抜けた。
「ウグェッ!!!」
他の客の視線など気にせず、渾身の一発でエリナは3メートル程吹っ飛ぶ。トランプは散らばり、滅茶苦茶になる。
ユノの頭の中は真っ白。一度覚えた記憶を消す事なんて出来ないため、何もかもに絶望する。
殴り抜けた事で、支配人はイカサマと判定する。イカサマが発覚もしくはイカサマ判定が出た場合、『ゲット・ア・グリップ』により支配人はイカサマをした者の「何か」を奪う。
茫然自失のユノの頭に手を伸ばし、支配人であるコリオは強奪する。
「…あははっ………やっ…たぁ…………うふふふっ………」
ユノは不気味な笑いをする。
抜き取る物は脳。しかし支配人は延々とユノの頭に手を翳している。抜き取れていないのだ、奪えていないのだ、ユノが残った知能で吸引を使い、脳が抜き取られるのを辛うじて防いでいるのだ。
言葉で勝てない相手への暴力はどうやら最も最悪な行為と判断されるらしい。脳を不安定な状態にすることで機能を鈍らせることで、死ぬまでは比較的まともに戦える。
「続…けよ……う。…6………」
「無茶苦茶すぎ…げほっ!ごほっ…!………はぁっ……7…」
千鳥足で戦場に復活したエリナは顔を摩りながらカードを散らばったカードから一枚取って置いた。
いつ意識が飛ぶかもわからない。そんな状況の中、ダウトは続く。
8…9…10…11……と、エリナも喋っても意味が無いと考えているので、ただ数字だけが飛び交う。
今のユノは所謂認知症のような状態でもあるが、あらゆる機能が鈍っている状態。体中は震え、声も届かず、力も上手く入らない。
「……は……ち…」
「……9…」
ユノ2枚 エリナ20枚 山札30枚
意識が薄れゆく中、ぼやけた視界にあるカードを重ねる。死魚目の凶相。エリナはダウトをかけてこず、今のユノの手札には11と5が残っている。
「……………じゅ……う…………」
「ダウトッ!!!ダウトダウト!!」
無邪気なエリナのダウト宣言がされた瞬間、支配人が動く。ユノの頭から手を離し、トップのカードを表にしようとする。
近づいてくる運命の刻。終止符を打たれるのはどちらか。言葉では決して勝つことはできないエリナか、全ての機能が鈍ったユノか。全ての点が紡がれる瞬間を目にするために、全てを賭ける。
「フッ……アハハハハハハハハハハハハーーッ!!!やったやった!5ッ!勝ち目なんて最初っから無かった!これでイトス様が褒めてくれるッ!!キャハハーーッ!!!」
トップカードは5であった。




