ラヴ・ザ・ウェイ・ユー・ライ その2
穏やかな雰囲気に入り込んできた敵、エリナ。
原色を主とした服。大胆にも露出している胸の谷間からおもむろにトランプの束を取り出した。
「殴り合いするつもりは全然無いから、ホントホント。僕は平和的解決を望んでるよ」
楽天的なエリナはトランプをシャッフルし始める。
戦いは既に始まっている。白河夜船のリアスを気にしつつも、そのトランプが何かの能力ではないかと睨む。
「そうだね……支配人は、そこの濃い赤髪の君を指名する。『ゲット・ア・グリップ』には決して争えない。ここからはユノ、君との1on1」
「支配人…?何を言って…」
濃い赤髪の君とはコリオの事だろう。ユノはそのコリオに視線を向ける。
虚ろな眼差し。下を俯き感情の無い表情をしている。まるで魂を抜かれたみたいに1ミリも動こうとすらしない。
「コリオ…?」
「『ゲット・ア・グリップ』は賭け事の時だけ発動できる。支配人を設定し、負けたらその支配人が賭けた物を強奪して、イカサマが発覚したら手足とか、内蔵とか、最悪脳とかを貰う。ディーラーって言ったほうが分かりやすい?ちなみに支配人は中立の立場で、機械みたいなものだよ」
エリナは席に腰を下ろすと、シャッフルしたトランプを支配人に渡した。本当にただのディーラーになったのだろうか。それともただの噓で、本当はユノの敵ではないのか。
しかし何故か、信じてしまう自分がいる。
「僕はギャンブルが好きなの。負けたことなんて無い……っていうのは噓だ。僕の賭ける物は…僕の命」
「………そう…じゃあ私も私の命を賭けるわ」
「話が早くて助かるよ。……僕が負ければ『ゲット・ア・グリップ』で僕は死んで、ついでにリアスもコリオも元通り。お得さには誰にも勝てないね。支配人、今回は「ダウト」でお願い」
何をマイペースに進めているのか。
それよりもふと気になったのは。『ゲット・ア・グリップ』には眠らせる能力も付属しているのか?と。そう、思えばアーリーは二つの能力を保有していた。もしやこの女も……
「ダウト……そんなものでいいのかしら?ポーカーとかのほうが、イカサマしやすいんじゃあないの?」
絶対的自信の真実はイカサマと睨んだ。イカサマは発覚しなければ何も奪われないはず。ダウトなんて子供染みたものに何か裏があるのだろうか。
「ゲームを決める権限だけは僕にある。さあ、早いとこ始めよう。ゲームスタート」
すると支配人、つまりはコリオは機械的な動作でカードを配り始める。
カードはジョーカー抜きで一人26枚。ダウトで1on1はマズい。もし一枚も無いカードがあれば、相手が四枚とも持っているということ。つまりはその一枚も無いカードを出す順番が自分に来た場合は相手がダウトを宣言するのは免れない。
全ての数字のカードが揃っていることが重要。
沈黙の中、淡々とカードは配られる。
「配り終わったみたい。じゃあ確認しようか」
二人は同時に目の前に置かれた26枚のカードを取り上げ、じっくりと数字を見る。
A(1)……2…3…4…5…6…7…8…9…10…J…Q…
なんてこった。13(K)のカードだけが無い。
ポーカーフェイスもクソもない。偶然かイカサマか、エリナ側にはKが4枚あるということ。つまりはユノがKを出す時にでダウトをかけられる。一方ユノが4枚持っているカードは0。3枚持っているのは5と8とJ。
一対一のダウト程おかしなものはない。
「あ、先行と後攻決めるの忘れてたね。支配人、コイントスを。僕は表」
「裏」
エリナがコインを差し出すと、それを受け取った支配人がテキパキとした動きですぐにコインを投げた。
宣言した面の出た方が先行後攻を決定する。
エリナは表。ユノは裏。
コインは転がることなくテーブルに叩きつけらる。
「アハハッ!表だ、じゃあ僕が後攻ねー」
意外だった。先行なら26枚目で、エリナがダウトを宣言でき、圧倒的有利にたてるはずだというのに。
ユノはもう一度手札を確認し、Aを取り、息を吸う。
「1」
まずは1を先行であるユノが出す。
「2」
次に続く数をエリナが出す。まだ序盤、ダウトを言うのは後半が定石だ。
「3」 ユノ
「4」 エリナ
「5」 ユノ
「6」 エリナ
「7」 ユノ
「8」 エリナ
「9」 ユノ
「10」 エリナ
「11」 ユノ
「12」 エリナ
エリナが12(Q)を静かに置く。
次はユノが13(K)を出す番。カマをかけて13以外を出すか、裏を掻いてバカ正直に13を出すか。
これこそダウトの醍醐味。そもそもエリナが対応したカードを正直に出しているとも分からない。緊張と疑心。相手を読み、カードを把握することが大切になってくる。
「13以外を出せばいいんじゃあないの?僕はダウトって言わないよ。本当に」
エリナがカードで鼻と口を隠し、妖しい瞳を覗かせる。
そんなバカな話があるか。倒置法で強調したって意味は無い。ここは挑発にのって13以外を出してもいいが、26枚目の時に13を出すのはエリナだ。13をここで使ってたとしても、39枚目でユノが13を出す時までにダウトを行って札の山を消しておけば勝てる。
ユノは13を取り、重なったカードの上に置く。
「ダウト」
エリナが自信たっぷりにダウト宣言をする。
引っ掛かった。何を緊張していたのか、ここからは悠々と勝ち戦に挑める。ユノはエリナがカードの山を手札に加えるのを待ちつつ自分の手札を再確認する。
すると無情の支配人が札の山に手を伸ばし、一番上の札。ユノの置いた13のカードを表に戻した。
「2……ダウト成功だね」
「なッ!?」
視線をカードの山の一番上の、13であるはずのカードに移す。何を間違えたのか、カードの見間違い?そんなはずはない。
「なんで…2が置いてあるの…?そんはずは……ありえない……!…はっ…!まさかイカサマを…!」
一番上にあったのは2のカード。支配人に目を移す。
支配人は動こうとはしない。おそらくまだ支配人もユノもイカサマを見つけられていないからだろう。こんなに早くも仕掛けてくるとは、スリリングな女だ。
焦ってそこら中を見る。テーブルの裏やエリナの衣服。13はどこにいったのか。思わず我を失う程に不思議でならなかった。
「………やったやった。自分の手札を見てみたら?一枚だけ13のカードがあるはずだよ」
不穏な雰囲気。鼓動が高鳴り、空想が現実となる。
神のイタズラか、手札の中には無いはずのカードがあった。
「……あ……!…………」
ある。13のカードが手札にある!その言葉を飲み込み、頭を「?」で埋め尽くす。
まだ習ってもいない問題がテストに出てきたときのように、まさに脳がこんがらがる。
なぜ、なぜ13のカードが手札にあるのか。二枚有ったのに気づかなかった?現カード数は19枚。合っている。そこにないはずの物がそこにある。未確認生物を目の前に見つけたらこんな感情になるのだろうか。きっと初めて習った時から書いていた英単語のスペルミスを数十年越しに指摘されたらこんな感情になるのだろう。
ユノは、13枚のカードを自分の手札に加えなければならなくなった。手札を先に無くした者が勝利するこのゲームにおいて、13枚もの差は絶望的。
「私の本来の能力は「ダーティ・ループス」。名前だけは教えてあげるよ。この世は絶対、全員を信じてなんかいけない。私はイトス様以外は信じてない。ユノ・エクトス、あなたは障壁。障壁は打ち砕いてこそ障壁。その先にあるのが何であろうと、私はイトス様に立ちはだかる障壁をぶち壊す」
現カード数
ユノ 32枚
エリナ20枚




