ラヴ・ザ・ウェイ・ユー・ライ その1
近づく真冬の寒さから逃げるように来たメリーランド州ボルティモア中心部のホテル。リルは何故かスイートルームを予約しており、最上階の景色が三人を迎える。必要以上に多い部屋やジャグジーは全てにおいて妥協がなく、反射する光が眩しい。
「「「おぉ~」」」
リアス・ペルフ、ユノ・エクトス、コリオ・バトラーの三人はワシントンD.C.に向かうための準備をしていた。
荷物を放り投げ、外の景色を眺める。
「無駄に高いわね。ホント無駄な経費が…」
「ひっ……わ、私他の部屋見てくるね」
大人びたユノと子供っぽさが抜けないコリオ。
リアスは何かを求めて室内を眺める。イギリス王室に入ったような気分に浸れる白を基調としたリビングルーム。いくつもの清潔なソファと巨大なテレビ。華美なシャンデリアと絵画が自分たちには恐れ多い。
「(気まずい…!アレクはどこだよォー!)」
アレクはなんで来ないんだと、心底恨む。リル、フィオリ、ルクセル達は先にワシントンD.C.を視察中と云っていたが、おそらくリルはからかってこの状況にしたのだろう。
要らぬお節介。遂に母に会えるというのに、鼓動で体力がすり減っていく。
「ちょ、ちょっと外に出てくるよ。ほら、水族館とかあるらしいし」
リアスはゆっくり後ずさりをする。終身刑が決まった囚人みたいな顔をしているリアスは気づかれないように扉に向かう。
一人で水族館に行く気なんてさらさら無いが、この二対一の状況から逃げるためだけに嘘をついた。
「あ、私も行くよ」
「私も私も」
意外ッ!状況は変わらずッ!
どうしたものか。カジノでも行こうか。
ホテルを出て少し歩いた場所にあるカフェ「ラナウェイ・ベイビー」。モダンな雰囲気の中に流行に適応したインテリアやメニューが有るが、真っ昼間だというのに客は少ない。店内ではカミラ・カベロの「Bad Things」が流れ、時の流れを感じる。
「私ね最近スイーツ作り始めてね、先週マフィン作ってみたの。そしたら爆発したの」
「私、料理しないから詳しく分からないけどそれはおかしいと思うわ」
コリオはカフェオレを飲み、ユノはコーヒーを啜る。
乙女トークに花を咲かせるんじゃあないよ。男を呼んで来いよと、心で毒を吐きつつリアスはコーヒーを一気に飲み込む。
「あちッ…!」
リアスはアイスコーヒーだと思い込んでいたホットコーヒーに舌を攻撃され、コーヒーをこぼしてしまった。
ジーンズが濡れ、なんだか怠い気分になる。
「…ったくリアスは猫舌なんだから。てかそれ私のコーヒーだし」
ユノが立ち上がり、ハンカチでこぼしたコーヒーを拭こうとしたその時。
「………眠い?眠いでしょ。寝てもいいよ。疲れてるはずだよ」
ピンク色の長髪をなびかせて、不思議な悪魔の囁きがリアスの耳に入る。突然現れたその少女は妖艶な眼差しでリアスの目を見つめ、顔を近づけた。短い間で起きた出来事だが、とてもとても長く感じられた。
「!」
ユノの方向からは上手く見えなかったが、一瞬だけ触れ合った。唇なのか頬なのか、分からないし根本的に見なければよかったと、後悔と嫉妬がこみ上げてくる。
「フフフッ、君はもうしたのかな?それとも僕がファーストキスかな?」
動揺してはならない。この女の妙な色気のせいなのか、悔しい。
「……うぅ…………」
キスで動揺しているワケではない、リアスは急に意識が朦朧とし、睡魔が襲ってくる。いきなりすぎてワケが分からず、抗う気力さえ消えて、リアスは眠りについた。
「リアスッ!?」
「私達のことは知ってるみたいね…名前は言える?……」
「僕はエリナ・キングセッシング。年齢は多分君と同じ。目的は…分かるよね?」
机に突っ伏すリアス。女子三人は睨み合う。
早くも現れた敵。少しは休暇が続くと思っていたが、浅はかだった。
少女は眠るリアスの耳に再び私語いた。
「…君はもう永遠に起きることが出来ない。僕が負けるまで……ずっとね。………じゃあ、おやすみ」




