8 夢幻の双刃の巻 8
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
ディナル:キラーとその邸宅を世話する専属メイド。外見年齢は十代。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
——ハイマウンテン城・中庭の隅、キラー邸があった場所——
かつてキラーに与えられたコテージは倒壊したが、それもほとんど片付けられていた。
ドワーフの業者達が大きなリヤカーへ精力的に残骸を積んでいく。複数のリヤカーがどんどん埋まり、片っ端から場外へ牽かれて行った。
それを傍らで見ているのは‥‥メイドのディナルだ。
(無くなったなぁ‥‥)
寂しい感慨に耽るディナルへ、ドワーフの一人が声をかけてくる。
「メイドさん、修理すればまだ使える家具もあるぜ。残しとくかい?」
その声にハッと我に返り、ディナルは慌てて考えた。
「あ、ええっと‥‥修理もお願いできるんですか?」
「別料金になりますがね」
ニカッと笑い、肯定と商売をドワーフが切り出す。
(国に出させればいいか。請求書を一まとめにしておけば問題ない筈だし、修理した物を叩き売って着服できるかもだし)
考えをまとめて頷くディナル。
「お願いしまーす」
「はいよ!」
ドワーフは陽気な笑顔と声で応え、親指を立てた。
こうして、城の一画は綺麗な更地となった。
(無くなったなぁ‥‥)
寂しい感慨に耽るディナルは、自分でも気づかぬうちにぽつりと呟いていた。
「残念‥‥」
「俺もだ」
「!?」
後ろからの声に大慌てで振り向くディナル。
そこにはキラーが立っていた。
いつからそこにキラーが居たのは、ディナルは全く気付かなかった。
やましい事を考えていた焦りからしどろもどろになり、それでもなんとか訊く。
「きき、き、キラー様も、やっぱあの家に愛着ありました?」
キラーは更地へ視線を向けた。
「どうかな。だが俺が勝利する度に少しずつ豪華になっていく、俺の成功と評価の、目に見える成果だった。だから潰れたのは残念でしかない。この空き地が、今の俺なんだ」
いつも通り、静かで落ち着いた声。
そこから感情を読み取るのは難しい。
だが少なくとも、上向いた気持ちはそこに無い。
キラーの肩で、ストライクが体色を青く変化させていた。
ディナルの頭の中で思考が渦巻く。まともな考えがまとまらない。
けれどそれでも一生懸命、彼女は言葉を紡いだ。
「あ、えと、うんと‥‥だ、大丈夫です! キラー様なら! 人生七転び八起き、なんなら転んだまま無理矢理前進もできますって!」
励ましのつもりの必死なその言葉が出たのは‥‥強い英傑と見込み、短期間ではあったが次々と手柄を立てた青年から、思いがけず脆さを垣間見た。そう思ったからかもしれない。
なんだかんだで自分の願望をかなりのペースで満たしてくれたキラーに感じた頼もしさを、ディナルの中で失いたくなかったのかもしれない。
将来設計が上手くいかず苛々していた彼女にとって、人生が上向いた高揚と歓喜をくれたキラーは、沈んではいけない船だったのかもしれない。
と、ディナルへキラーは目を向ける。
そして微笑んだ。
自信ありげに。誇らしそうに。
「前進したよ。一歩な」
「え!?」
急に見えたキラーの、心の中の光明。
励ましておきながら、予想外の物を見てディナルは何も反応できない。
立ち尽くす彼女へ、キラーは背を向けた。
「風呂に入ってくる。それからもう一度出発だ。俺はまだ終わってはいない」
キラーは歩き出す。
静かに、しかし堂々と。
「過去の栄光にはさよならだ。これからがあるからな。それが未来の俺なんだ」
その背を、ディナルは黙って見送った。
(これからがあるから‥‥かぁ)
もう一度、更地へ振り返った。
もう何も残っていなかった。
けれど、よく見ないとわからない程度だけど——家屋の建っていた痕跡は、まだ消えてはいなかった。
ディナルの中に芽生え始めていた、不可解だけど頼もしい主人への感情も、また。
ファンタジー世界最便利種族はドワーフ説。
昔はライバルだったエルフを今や抜いた感あると思う。




