8 夢幻の双刃の巻 2
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
シャンマウ:ウェスパレス国の女グラップラー。ネコ獣人。
シンディ:旅の途中で拾った、人造人間種族のメイド少女。
シソウ国からの発表があった夜。
ハイマウンテン城は上を下への騒ぎとなり、今後の対応を巡っておおわらわだった。
——城の塔にある地下牢——
捕らえられた元同級生は牢に入れられていた。
そこを訪れたキラー達を見るや「ケッ!」と悪態をつく。
「オレを尋問にでも来たのか?」
「そうだ。スターゲイザーの今後の作戦と本拠地を吐いてもらおう」
格子ごしにキラーが言うと、元同級生の不良は牢の中の寝台に寝転んだ。
「嫌なこった」
呆れて溜息をつくキャシャロット。
「立場わかってるんですかね」
すると不良は寝込んだまま小馬鹿にしたようにせせら笑う。
「お前らこそわかってんのか? スターゲイザーがわけわかんねー変な超能力を持ってて、何しても勝てねーって事が。さっさと動物の国なんぞくれてやってアイツの下につけよ」
「人の国によくそんな酷い事を言えるわね!」
ソフィアが憤慨しても、不良は何がおかしいのかケラケラと笑うばかりだ。
「人じゃねーんだろ? 頭になんか生えてるし。どうせ帰れねーんだから割り切れよ」
「この‥‥!」
怒り心頭のソフィアだが、彼女の後ろでハイマウンテン側の同級生達が顔を見合わせる。
「やっぱ帰れないのか」
呟く正一。
彼とて整備員として働きながらこの世界の人々に聞いてはみたが、元の世界に帰還する手段は誰も知らなかった。
そんな同級生達を見て、不良の笑みがニヤついた物になる。
「帰る気もねーだろ? スターゲイザーが言ってたぜ。故郷から出て行きたい奴しかひっかからないように召喚したってな」
「え? マジかよ?」
驚きと困惑。キラーの同級生達は互いに顔を見合わせた。
「まぁ俺はそうだけど‥‥」
「俺も、どっちかと言えば」
木戸と秀は周りの様子を窺いながらも、やや躊躇いがちながらも、自分の気持ちを正直に告白する。
それを聞きながらキラーも自分の気持ちを振り返っていた。
(異世界転移ものに憧れてはいたが、そこをつかれたというのか‥‥)
「ソフィアさんも?」
正一が訊くと、ソフィアは慌てて取り乱す。
「わ、私は‥‥! いや、そんな、そこまでは‥‥」
焦ってはいる。
しかし否定はしなかった。
そんな同級生達を見ながら、不良は小馬鹿にしたように嗤う。
「隠す必要なんてねーだろ。ここで何やったって日本の誰にも迷惑かからねーんだ。侵略者、支配者で上等じゃねーか。“正義の味方”したってボコられて“負け犬”よ!」
と、格子が「ガン!」と激しく叩かれた。
不良が一瞬、驚いてしまうぐらいに。
格子を怒りに任せて叩いたのは——
「ソフィアさん‥‥」
拳骨を格子に叩きつけた彼女の背に、ティア姫が目を丸くして名を呼ぶ。
自分を抑えられないぐらいに怒っているのは、この世界の住民ではなく、ソフィアだったのだ。
とはいえ、それはこの世界の住人が腹を立てていないという事ではない。
セファラス女王が蔑みの視線で牢の中の不良を見つめる。
「こやつ‥‥どうやら拷問されねばわからんらしいな」
「おう、ここが“陥落”たら倍にしてやり返すぜ。それでいいならやれや!」
不良はまだ威勢よく吠えていた。
——城の防壁にある見張り塔の一つ——
塔の窓からは外が一望できる。闇の塊となった森と、その上に輝く月夜が。
その窓にいたのはただ一人‥‥ソフィアだけだった。
窓の外から静かな夜景を眺めている。城の反対側にある塔からなら、夜の街が見えるのだが‥‥彼女は風で揺れる枝葉しかない暗い森を見つめていた。
と、後ろに人の気配が生じている事に彼女は気づく。
驚いてふりむけば、部屋の入口にもたれているキラーがいつの間にかいた。
「種岩君?」
「ソフィアさんか。先客がいたとはな」
キラーは足音もなく側に来て、共に夜景を眺める。
さほど広い窓ではないが、二人なら並んで外を見る事もできた。
外に視線を戻し‥‥ソフィアがまるで独り言かのように呟く。
「‥‥種岩君は、どこか遠くに行ってやりたい事があったの?」
特に無かった。
ただ毎日をつまらなく思い、見知らぬどこかへ行きたくはあった。
しかし正直にそう言うのも、なぜか躊躇われて——キラーはこう返した。
「どうかな。そう言うソフィアさんには、目標があったのかな?」
「あった、か。そうね、過去形」
それがソフィアの答え。
力の無い、小さな声だ。
「やめたのか」
キラーのその言葉には、微かに頷くが。
「外国に行ってさ、困ってる人達を助ける仕事とかあるじゃない。難民とか途上国とか、そういう所の人達と一緒に、力を合わせて。そういうの、子供の頃に憧れてたんだよね」
「悪くないな」
ソフィアの過去の夢に、キラーは相槌をうつ。
それはソフィアの微笑みを誘った。
諦めと悲しさの入り混じった微笑みを。
「中学になってね、わかったんだ。多分ムリ」
「なぜ?」
この流れでキラーがそう問うのは不自然ではないだろう。
ソフィアが教えるのも不自然ではないだろう。
「語学、メチャ苦手なんだ。私」
ソフィアにとっての理由。
「英語、三回に二回は赤点。いつも追試だった。なんかそこだけ、ピンポイントでダメダメなんだ」
他の教科の成績が特に悪いわけではないのだ。
だがなぜか生来、そこだけが苦手だったのである。
「‥‥本屋で他の外国語の入門書とか、手を出してみた事あるんだけど。まぁ、言うまでもないっていうか‥‥」
他人は努力が足りないと言うだろう。甘えではないかと言うだろう。言い訳だと言うかもしれない。
他人事に口だけでなら、何とでも言えるのだ。
そこでソフィアはキラーを見上げて、悪戯っぽく笑う。
「半分ガイジンなのにね。変なの」
「そこ、関係なくないか?」
急に飛び出した冗談に面食らうキラー。
ソフィアは‥‥やっぱり笑っていた。
悪戯っぽく。
ちょっとだけ辛そうに。
「うん。でも私の苦手を知った人はよく言うの。だから自分から笑い取りに行くの。ちょっとはダメージ少ないし」
再び夜の森を眺める。
「で、まぁ無理だなって思ってたんだけど。やっぱ未練、あったのかなぁ」
そう言うと、再び微笑んだ。
今度はさっきより、少しマシな笑顔である。
「というわけで、愚痴と告白。ちょっとはスッキリするわね」
少し、マシな。
そして窓から離れ、キラーに背を向けた。
「おやすみ」
「ああ」
そう言って部屋から出ていくソフィアを見送りながら、キラーは地球での自分を思い出していた。
(コンプレックス‥‥彼女も、持っている人だったのか)
ソフィアが立ち去ってから、キラーは再び窓の外を見る。
彼女がいたのは、実の所は予想外。
ここに来た、本来の目的は——
設定解説
・なぜか生来、そこだけが苦手だったのである。
どうしてだか全く頭に入ってこない分野という物もあるだろう。
しかし周囲は一番マシな教科を基準に「これぐらいはできるんだろ」と言いよった。
どうせ一番マシな所も大した事ないんだからそこを基準にせんでもよかろうに。




