その頃、別の場所にて 7
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
スターゲイザー:主人公達を地球から集団転移させた魔術師。
荒野を征く、巨大で奇怪な物がある。
荒れた大地の上を、無数の触手をのたうたせながら前進する、巨大な目玉が。
この目玉は人工物である。
近くで見れば、生体装甲板と合成強化ガラスでできている事がわかる。
それは軍艦、真魔怪大隊の運用するCビホールドアイなのだ。
艦内ブリッジでは、艦長席に仮面の魔術師スターゲイザーが座っていた。
副艦長の甲虫戦士が、着座したままスターゲイザーへ振り向く。
「先鋒隊は既にハイマウンテン軍と交戦中との事です」
「私達が着くまでに勝利していれば良いが」
そういうスターゲイザーの口調は、あまり感情の籠っていない、どことなく適当な物だった。
「できますかね?」
「五分よりはこちらが上、と見ている」
甲虫戦士の問いに答えるその口調も、やはり真剣みが無い。
「スターゲイザー様が着けば一瞬で終わるはず。先鋒隊に、防御主体で戦うよう指示しますか?」
甲虫戦士のその提案は、組織の幹部の一人として、味方の損害を減らすよう考えての物だ。
本格的な攻撃は、合流を待ってからにしろ、と。
しかしスターゲイザーは、そこで数秒だけ考えた。そして――
「いや‥‥奴らの好きにやらせる。手柄を立てる機会を奪っては悪いからな」
首領のその決定に、甲虫戦士は「はっ!」と一礼し、くるりと前方へ姿勢を戻す。
スターゲイザーは前方、広がる荒野が映るメインモニターを眺めた。
(それで敗れるなら、まぁそれでいい。機会だけはやろう)
そして胸中で考える。
(僕は甘いのだろうな)
それは自嘲だった。
スターゲイザーは思いを馳せる。
今まで幾度も行ってきた、異世界人の召喚へ。
(召喚の場に隠しアイテムを用意する。それを見つける者には、知力や運があるという事‥‥僕直属の幹部に相応しいという事。そういう人材がいる事を期待し、召喚の度にクラスチェンジアイテムを仕込んできた)
キラー達が召喚された塔の、宝箱に隠されたクラスチェンジアイテム。
それを入れたのは誰であろう、このスターゲイザー本人だったのだ‥‥!
キラー達の時はニンジャへ転職するコインだった。
他の召喚場では、魔法戦士や修行僧、サムライだった事もある。
だが召喚されてすぐの混乱した状況で、隠されたアイテムを発見できた者は今までいなかった。
それでも繰り返せばいつかは見つける者も現れる。そう考えて続け、やっと一人目が出たが‥‥それが他ならぬキラーだったのである。
だがしかし。
スターゲイザーの思い通りには行かなかった。
(初めて隠しアイテムを見つけた者が、まさか現地の腕利きに拾われ、こちらの強敵として成長してしまうとは。どれだけ運が悪い話なんだ)
せっかくの仕込みが裏目に出た事に、彼は大きな、大きな、落胆と苛立ちを覚えていたのだ。
それを表に出した事は、一度も無かったが。
そしてこうも考える。
(‥‥ある意味、僕らしいのか?)
何もかもが思い通りに行った事など無い。
故郷で見ていた創作物なら、運はほぼ常に主人公の追い風だったというのに。
最初に大きな能力を得て、それまでの逆境や不遇を覆して上り調子一本の主人公も珍しくなかったのに。
やはり自分は、そうではないらしい。
それは知っていた事ではあるが。
魔王軍に召喚され、この世界に来た時に、異界流という時空のパワーが己にある事を知らされた。
その時、彼は思ったのだ。
(僕はここで真の力に覚醒した。それが本来、在るべき自分。ここで本当の自分の快進撃が始まる‥‥と)
だが過去を思い出しながら、仮面の裏で目を瞑る。
(まぁ間違いではなかった。僕以上の力を持つ奴らが何人もいたから、タカの知れた快進撃でしかなかった‥‥それだけで、な)
魔王軍における幹部、親衛隊の地位に就く事はできた。
だがその上の大幹部——四大隊長には、到底及ぶ物ではなかった。
(ああ、これが僕の上限か。まぁ元の世界よりは高いじゃないか。そう思って、とりあえず目の前の仕事をやってはいたが‥‥)
だが――彼はそれだけでは終わらなかった。
魔王軍が壊滅してなお、彼は残党をまとめて活動を続けている。
なぜなら――
(過去はしょせん過去。今や、僕には天運を覆す力がある。僕自身の意思と行動で得た力が。これを手に入れたという事、つまり運命を切り開いたという事!)
スターゲイザーは己の傍らにある杖を握っていた。
魔術師なのだから魔法の杖を持っていても不思議ではない。
だがその杖はこの世に二本と無い、スターゲイザーの得た力なのだ。
彼は確信している。
もはや己は無敵だ、と。
オペレーターのダークエルフが声をあげる。
「前方に‥‥別の敵部隊! ハイマウンテンの友軍だと思われます」
「いいだろう。相手をしてやる」
スターゲイザーは杖を握る手に力を籠めた。
設定解説
・その上の大幹部——四大隊長には、到底及ぶ物ではなかった
元の世界で既に魔法使いだったとか、神々の戦いに身を投じた戦士だとか、そういう連中が最高幹部として君臨していた。
この世界に来た時点での土台がケタ違いなので、覆すのはちょっとしんどかった。
この話の時点では、スターゲイザーは「覆した! 俺は奴らの上を行ける!」と確信している‥‥が、そこに到達した時は既に魔王軍が壊滅していたので、彼は残党を率いて組織を新生している真っ最中なのだ。




