6 神と英雄の巻 9
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
ディナル:キラーとその邸宅を世話する専属メイド。外見年齢は十代。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
——ハイマウンテン城・中庭の隅にあるキラー邸——
メイドのディナルは悩んでいた。
自室のクローゼットを前に、中に吊るした二着の服を見つめながら。
「ぐぬー、どっちの方がええんやろか?」
一つはフリルのいっぱいついたエプロンと長くゆったりしたスカートの服。
コンセプトは若いお母さんである。
もう一つはヘソ出し・ミニスカの今までよりもさらに布の面積を減らし、背中をもさらけ出した服。
着脱は楽そうだが、下着と大差ないかもしれない。
やはり若い男にアピールするなら直球で肌を出すか——そう考えてスカートがあるだけの下着もどきに手を伸ばしかける。
だがその手は途中で止まった。
「しかしあまり煽情的なのはいかんな。キラー様の夜の相手は命がけかもしれん‥‥」
キツイ目で彼女は服を睨む。
しかしその視線は服ではなく、過去を見ていたのだ。
——数日前、キラー達がカッサン国へ向かう前夜——
理解できぬと投げていては前進できない‥‥そう考え、ディナルはその日、さりげなくキラーの嗜好を探る事にした。
夕食をテーブルに並べ、彼女とキラー、キャシャロットの三人で食事をとりながら、それとなくキラーに訊いてみる。
「キラー様は男女の営みの方はお強いんですか?」
「メシの時にいきなりする話がソレですか」
キャシャロットがゲソを食いちぎりながら呻いた。
彼女からの評価は芳しくないらしい。
しかしキラーは特に動じた様子は無く、平然と答える。
「強弱というのがどういう意味かわからん。技術力という意味なら自信は無い」
まさに何気ない世間話をするような態度。
そこにも成功を感じつつ、ディナルは得られた回答に心の中で喝采をあげた。
(よし! もし相手をさせられる事があっても細かい注文は無さそうや。好き勝手させた後で「すごーい、こんなの初めてですぅ」とでも言っとけば誑かせるやろ)
躰を使うのは最後の手段だ。しかし切り札をきる時の使い方は先に考えておかねばならない。
そして今、ディナルは勝ち筋を見極めたのだ。
心からの笑顔でディナルはカワイイ自分を演じる。
「えへ、大丈夫ですよ。好きな人同士で気持ち良くなるのが大切ですしね?」
「メシの時に続ける話がソレですか」
キャシャロットがイカを噛みちぎりながら呻いた。
彼女からの評価は喜ばしくないらしい。
「気持ち良くしろ、というなら大概なんとかできるだろう」
しかしキラーはディナルの予想しなかった事を言いだした。
「忍者は薬品も扱う。この世界の忍者は錬金術魔法を習得するしな。脳神経に作用して性感を強引に高める物も、技術を培う修行の一環で作っておいた。これをうてばいかな女とて臀部を触られているだけで絶頂するだろう」
「それアカンやつや!」
ディナル絶叫!
手にした酒瓶を思わず叩きつけるかのようにテーブルへ置く。酒飲んでる場合じゃねぇ。
しかしキラーはディナルの予想しなかった事を言い続けた。
「まぁこういう物は生命力や耐性にも左右されるがな。俺自身でいえば、三千倍程度の強制感度上昇に対しても、鍛えた耐性で三十倍まで落とし、感覚の自己操作で0.3倍まで落とし、脳内分泌物でゼロにできる」
「何の修業やねん!?」
ディナル絶叫!
手にしたジョッキになみなみと酒をついで一気飲みする。シラフで笑ってる場合じゃねぇ。
なお何の修業かというなら拷問対策の一種である。真のニンジャは敵に情報を吐かせる事も、敵に情報を吐かない事も徹底して鍛える。
ニンジャの世界では常識など一切通用しない——常識は通用しないのだ!
——時間は再び「現在」へ——
「やっぱりカラダで取り入るのはアカンな。となるとやはり胃袋‥‥」
自分の身の安全を重点的に考え、ディナルは優しいママを醸し出すための服を手にした。
しかしその時。
彼女は服が震えている事に気づいた。
服だけではない。
タンスも。床も。部屋全体も‥‥!
「なんや?」
そこでやっと、地震という単語が頭に浮かぶ。
だがそうではなかった。
爆音と激震が部屋中をひっくり返すかのように揺さぶったのだ!
「ぎゃー! 何が一体!?」
ディナルは床の上を転げまわった。
彼女の戦いはまだ続く——。
設定解説
・メシの時にいきなりする話がソレですか
ディナルはキラーに仕える前、城仕えのメイド達の一人であった。
当然、他のメイド達と食事をとる事になるわけだが、同性だけで固まっているので割と遠慮の無い話題が平気で出る。
しかもディナルは若手ではなく、自然と同席するのも同年代。既婚者も珍しくない。
旦那の愚痴やガキの嘆きや近所のよくない噂とともに、夜の生活の話も当然のように出る。
一方、異性と食事をとる事は、かつては無い事もなかったがここ数年めっきりご無沙汰になってしまった。
よって認識のズレが出るとしても仕方が無いのだ。




