その頃、別の場所にて 6
今日やろうと思っていた事をすっかり忘れていたが、それに夜遅く気づく。
またギリギリの提出になってしまうな。これは確実に何か言われる流れ。
あー異世界転移してー。
涼しげで奇麗な鈴の音が鳴った。
店内に冒険者の男性が二人、きょろきょろしながら入ってくる。
「いらっしゃいませー」
店員の少女は二人の客に笑顔で挨拶をした。
着ている物はいわゆるメイド服だ。
緑の髪に透き通るような翠の瞳をした少女。
頭にはカチューシャを付けている、が‥‥その両端には金属製のアンテナが、獣の耳が立つかのように生えていた。
そんな彼女を興味深そうに見つめる、冒険者の男二人。
まだ若い青年達で、革鎧と腰に下げた得物で武装し、背嚢を背負っている。
彼らは興味津々の視線で店内も見渡した。
複数のモニターが設置されている。
カウンターの向こうには、マジックアイテムの合成・調整に使う、釜や壺、ピンセットやドライバー等もある。
「へぇ‥‥こんな辺境にこんな店があるとはなぁ」
冒険者の一人が感心した。
ここは小国同士を結ぶ街道の、ほぼ真ん中。最寄りの宿場町からも離れた森の中なのである。
マジックアイテムを扱う店の看板を見て、疑い半分で入ったのが彼ら二人だ。
もう一人が店員の少女に訊ねた。
「お嬢さん、一人?」
「はい。一人で店をやっています」
笑顔で元気よく答える少女。
これに警戒心をもつ客はほとんどおるまい、そんな安心できる笑顔だった。
そんな少女を冒険者の一人がじっと見つめる。
「‥‥お嬢さん、ひょっとして【サボディオイド】ってやつ?」
「え! ご存じなんですか」
少女のその言葉と、僅かばかり驚いた顔は、相手の質問を肯定していた。
もう一人が興奮する。
「うわ、すげー、初めて見たよ」
※サボディオイド
この世界インタセクシルには生体を改造・製造する技術もある。
それによる人造生命体の一種がサボディオイドであり、ほとんど人間と同じ体に、僅かに金属部品も使われている。
作成されると調整水槽の中で機能を整えられ、主人が決まると水槽から出されて覚醒させられる。後は主人のために生涯奉仕するのだ。
器用で知覚力に優れた種族であり、教え込めば料理・掃除・洗濯・修繕、さらには戦闘の補助技能も身につける事ができる。
バイオ系の人造人間であり、エネルギーはご飯。
「そっかぁ。一人でお手伝い種族がねぇ‥‥」
冒険者が感心した。
そして、背嚢を床に置き、何やらごそごそと取り出す。
二人ともだ。
少女がにこにこしたまま「?」と状況を飲み込めないうちに、冒険者二人は装備を変えた。
頭はカツラを取り、代わりにモヒカン。
上半身は裸、意外と筋骨隆々、肩にはトゲパッド。
武器は斧とトゲ棍棒。
冒険者の全てが高潔の士ではない。
中にはチャンスとあらば強盗を働くようなならず者もいるのだ!
「ウェッヘッヘ‥‥お嬢ちゃん、俺らの夜のハッスルもお手伝いしてくれよ」
「ヒャッハー! 夜の店に営業変更だァー!」
斧を舐め、棍棒を振り上げ、野盗に変じた二人は歓声をあげた。
ドン!とでも表現すべき、強烈な銃声が轟く。
「ギャッ!」
野盗の一人が断末魔をあげ、店の壁に叩きつけられた。
店員少女の手には、黒光りするショットガンが!
「ゲーッ! まさかの魔道銃!?」
残る野盗が驚愕するが、次の瞬間、再び引き金がひかれ、「ギャッ!」と断末魔をあげて倒れた。
少女はショットガンを、ぎゅっと抱かかえる。
「ご主人様‥‥貴方が私を守ってくれました‥‥」
※魔道銃
多数の世界から聖勇士が召喚されているインタセクシルには、銃器類も存在はする。
だが魔法を用いて再現しており、他の武具や魔法に対して圧倒的な優位性があるわけではない。
非力で器用な者にとっては有用な武器だが、特殊な技能が必要で運用コストも高めなので、使う者は使う‥‥ぐらいの存在である。
少女は野盗どもから財布を抜き取り、背嚢から目ぼしい物を奪うと、デカい箒で二人を店の外へ掃き出した。
そして店のドアをパタンと閉じる。
すると店——生物の甲殻素材で造られた巨大な樽——が動き出した。
手足が生え、頭が飛び出し、のそのそと歩き出す。
運搬用人造クマムシ機を操縦しながら、少女は胸の内で主人を想っていた。
(いつかきっと‥‥また、会えますよね)
魔法銃ってたまに見るけど魔法弓ってあんま見ねーな。
魔法仕掛けにしなくても普通に矢が撃てるからか。
でも投げたら敵一列を薙ぎ払って手元に戻って来るブーメランは魔法仕掛けだと個人的に睨んでいるんだぜ。




