5 タイガー抹殺拳の巻 5
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
サイシュウ:ダンジョンで出会い、仲間になった異世界の上級冒険者。
ソフィア:共に召喚された吉良の同級生。日米ハーフの少女。
ティア姫:吉良が身を寄せるハイマウンテン王国の姫君。
アリン:コリーン国の女騎士。クマ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
マンドリオ:ニスケー国の将軍。ゴリラ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
セファラス女王:カパード国の女王。ハダカデバネズミ獣人。キラー達に敗れて軍門に降る。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
両チームメンバーがリングに上がる。流石に専用の審査員は用意されていないので、両チーム同士で食べ比べあうのだ。
この時、食べる順番は重要である。
後に食べた料理は印象が強く残るものの、先に食べた料理の満腹感により満足を与えるのは難しくなるからだ。
先を取るか後を取るか、だが——
「先ずはそちらからにしてくれ」
キラーがそう申し出る。
「俺が先か。いいだろう、存分に味わえ」
メガンテレオンはリング中央に設置されたテーブルに皿を持ってきた。
大きな丸皿に、花開くかのように並べられた刺身。
河豚刺しである。
「フッ‥‥この完成度に達した皿を出せるのは大陸全土でも五人とおらん。半端な職人は食わんほうがいい。完璧な味の前に挫折し、暖簾を畳む羽目になるだろう」
そう言いながらメガンテレオンは醤油と山葵と小皿も用意した。
ソフィアは首を傾げる。
「なんで毒入りの魚を、難しい技術を編み出してまで食べるのかしら。他に食材なんてあるでしょうに」
サイシュウが「チッ」と舌打ちした。
「肉ばっか食ってるガイジンはこれだからな」
彼にムスッとした視線を一瞬向けて、それでもソフィアは刺身を一切れとる。
他の者達も続いて食し——
ハイマウンテン勢の表情が一変した。
「え? え? なにこの美味しさ、どう言えばいいの‥‥」
感嘆するソフィア。
「鶏に近い感じはするが、遥かに繊細で、弾力のある食感と新鮮な旨味を高次元で併せ持っておる‥‥」
震えるセファラス女王。
「包丁の技術も非の打ちどころがありません。皿の柄が見える身の薄さ、歪み無い切り口‥‥」
感激さえするスフィル王子。
「これほどの美味は初めてです。どうもありがとうございます」
ティア姫は料理人にお辞儀さえした。
メガンテレオンも深々と礼をしてそれに応える。
「いえ、こちらこそ。自分の仕事をわかっていただける方々で嬉しく思います」
その評価に一人歯軋りするのがアリンだ。
「クソッ、敵をベタ褒めするなんて薄情な連中だ。クソッ、クソッ、なんだこんな物‥‥うめえー!」
怒りながら刺身を山葵大量盛りで口に入れ、思わず咆哮したが。
メガンテレオンは腕組みしつつ余裕で笑う。
「フッ‥‥これに比肩できる物を食した事は何度ある?」
「う、うるさい! 刺身の起源はコリーンだ、この文化泥棒め! 次は我が国の誇るチメーク鍋を食べろ!」
起源主張はまぁ別に、アリンが出したのは蓋をされた土鍋だった。
蓋をあけると、中身は――真っ赤な粉が浮いた真っ赤な汁が煮える、鶏肉と山菜の鍋である。
近くにいるだけではっきりとわかる刺激臭。
「‥‥いらん」
サイシュウが顔を背けた。
「限度があるだろう」
取り皿を持とうともしないマンドリオ。
「ああ、だから後回しにさせたのね」
ソフィアはアリンの調理台を見て、キラーの提案に納得した。
廃棄した食材の籠さえも、使った唐辛子で真っ赤っかだ。
ハエが廃棄籠に停まったが、そのまま落ちて動かなくなった。
「このレイシストどもめー!」
怒りにアリンが吠える!
溜息混じりのメガンテレオン。
「大口を叩いて、造るのはこのトウガラシ鍋か?」
「料理を食べずにエラソウにするな!」
怒りにアリンが吠える!
だが吠えるだけではない。取り皿に汁と具を入れ、勢い良くがっつきだしたのだ。
「ハフッ、ハフッ、うま、うままっ!」
真っ赤な顔で大量の発汗、しかし常に口は止まらない!
彼女は心底本気でこの料理が好物なのだ。
そしてメガンテレオンは——
「まぁ食って評価しろというのも一理ある」
取り皿を手にしたではないか!
「やめとけよ。アカンだろこれは」
サイシュウが止めようとするが、メガンテレオンは取り皿に汁と具を入れた。
「辛い料理など世界中にいくらでもあるし、食してきた。私の舌は動じん」
「そうですね‥‥では私も」
ティア姫もそれに倣った。それを見てスフィル王子も。
仲間が一生懸命作ったのだ、二人はそれに報いたかった。
他のメンバーは別に報いる気も無かったのでただ見ていた。
姫と王子が具を口に入れて
ブーーーーーッッッ!!!
盛大に吹いた。
取り皿を落とし、真っ赤な顔で悶絶する二人。
しばらく舌は死んだだろう。
「ほらな」
呆れるサイシュウ。
キャシャロットがテーブルに零れた汁を指先につけ、嘗め、毒見する。
「む‥‥これでもかという量のトウガラシですね」
ここまでは皆がわかっていた事だ。しかし‥‥
「大蒜も阿呆みたいに入れましたね」
下味も見抜いた。
「あとホットソースの激辛系の奴も入れてますね。正気ですか」
調味料も見抜いた。
「コリーン秘伝のキルジャンソースだ! 全ての醤油とソースの起源だぞ!」
自慢げに胸をはるアリン。
そして再び鍋を頬張る。
「ハフッ、ハフッ、うま、ガツンと来る、マジクル、汗が止まらん、濡れる、おほぉぉん、逝くッー!」
「きめえ」
滝の汗と剥いた白目で仰け反り紅潮しきった顔で悶絶をキメるアリンを見て、キラーが小さく呟いた。
対戦相手へと振り向くサイシュウ。
「おいメガンテレオン、お前の勝ちでいいぞ」
メガンテレオンは倒れていた。
テーブルには空になった取り皿が‥‥。
「え‥‥一人前完食したの?」
信じられずに慄くソフィアに、ネコ少女は笑いかける。
「口をつけたら残すなっていうのがこの国の礼儀だかんにゃー。料理人だからそっちにもウルサいんだよ、彼は」
「トウガラシだけなら耐えたであろうが‥‥まさか下味や調味料まであんなだとは思わなかったんじゃのう」
セファラス女王は勇者に黙祷を捧げた。
1-7での敗北に激怒し泣き喚くアリンは係員に引きずられて退場。
勝者のメガンテレオンは担架に乗せられて退場。
二人を見送り、キラーは静かに呟く。
「星取り戦だったら危なかった」
だが戦いはまだ始まったばかりなのだ‥‥!
設定解説
・刺身の起源はコリーン
コリーン国の大王城壁画には、半裸の男達が組み合っている姿が描かれている。
コリーンの学者が唱える説によれば、これは生の魚を食っているので刺身の起源の証拠である。
・全ての醤油とソースの起源
コリーン国の大王城壁画には、半裸の男達が組み合っている姿が描かれている。
コリーンの学者が唱える説によれば、これはデスソースでチキンを食っている証拠である。




