4 虜囚解放の巻 5
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
スフィル王子:アーマルベン国の王子。キラー達に加勢した縁で仲間に加わる。
――大灯台——
港からも見える、アーマルベン屈指の巨大建造物。国民が城よりも親しんでいるランドマーク。
その灯台に、明け方、異変があった。
「バカな! どこから入った?」
驚愕の声をあげるゴブリン兵の喉元に刃が突きつけられた。
その足元には、先に倒されたオーク兵がいた。それを屠ったのは物陰から奇襲したキラー。
ゴブリン兵が縮みあがって黙ったのを確認すると、廊下の曲がり角の向こうからスフィル王子が顔を出した。
真魔怪大隊の者達は知らなかったのだ。この塔の抜け穴を。
それは海中からの通路で、隠し扉さえ塔内の排水路の中にあり、水棲種族でなければ発見は困難を極める。
見つけた所で十五分以上の潜水ができなければ使う事さえできないのだ(水中呼吸の魔法を使えば誰でも使う事はできるので良心的、とは建設した者の談)。
なおキラーにはニンジャツールの一つ・酸素ボンベ(革袋製)があるので問題は無かった。
ゴブリンに刀を突きつけながらキラーは尋問する。
「女王はどこにいる?」
「上から二番目の階の一室です」
焦りながら上を指さすゴブリン兵。いとも容易く白状する。
「無事だろうな?」
「いや、それが‥‥オレ達にも何がなんだか?」
心配しながら訊く王子に、ゴブリンは首を傾げた。
——牢屋代わりの部屋——
鍵を開けたキラー達が部屋に入る。本来は宿直用の一室なのだが、その中央にそれはあった。
白に近い橙色の肉塊。だが上部から半透明の短い触手が何本も生え、時折ゆらゆらと波うつように揺れていた。
「なんだこれは?」
戸惑うキラー。その側で王子が胸を撫でおろす。
「大丈夫。母の筈です。無事で良かった‥‥」
「あ、やっぱそうなんスか。奇麗な上流階級の熟女さん相手に夜の乱戦バトルしようと思ったらこんなになっちまってて、オレら全員どうしたもんか困ってたんスわ。一応、餌は日に三回、近くに置いときましたぜ。さ、どうぞ持って帰ってくだせぇ」
ゴブリンはそう勧めるが、肉塊は小さな人なら入れそうな程の大きさだ。
どうすればいいのか、肉塊の事を知っていそうな王子にキラーは訊こうとした。
が——
「帰るって言うがな。タダじゃすまねーぞ」
そう言いながら、魔物兵どもを引き連れて入ってくる真魔怪大隊の戦士が一人。
胸当てをつけて剣を持ってはいるが、パーカーを羽織ってフードを被り、マスクをつけている。
そしてキラーに感じさせる、この世界の住民よりも強力な異界流の圧力‥‥!
「‥‥地球からの転移者か」
おそらく同級生の一人だろう、と思いながら訊くキラー。
相手はあっさり頷いた。
「まーな。お前も異界流があるみたいだが‥‥ドーブツどものヒーローごっこしてんのか。くだらねー」
そう言って剣の刃を撫でる。
すると刃にバチバチと電撃が纏わりついた! 付与魔法の一種である。
「明日の朝刊載ったぞテメー」
転移者の魔法戦士は剣を構えた。
しかしその時。
巨大な肉塊がぶるぶると震えた。
そして大量の水を吐きながらぐにゃりと崩れ落ちる!
「なんだ!?」
動揺する魔物兵達。
肉塊は大きく裂け‥‥中から小さな人影が、生まれるように出て来たではないか。
人影は幼い少女——見た目、十かそれを超えたのかというあたり。
透き通るかのような肌の華奢な見た目だが、短い髪と、大きな瞳は、どこか透明感のある紅の色。
少女は全裸だったが、どこからか半透明の触手が生じてその身に纏わりつき、胸と腰を覆って隠した。
少女はすっと立ち上がる。
彼女を見て大声をあげる王子。
「母上!」
「スフィルかい! こんな所にいるなんて!?」
驚く少女のその声は、間違いなく幼い子供の物だが、王子の言葉を肯定してもいた。
少女は魔物兵達にも目を向けた。
可愛らしい大きな瞳に、剣呑な光が宿る。
「どやどやと集まってるようだね、魔王軍の下っ端どもが。今度は歳とった体の時みたいにはいかないよ!」
言って両手を振りかざすと、そこにも長い触手が。それは肉でできた鞭!
「破ァッ!」
威勢よく叫ぶや、少女は二本の鞭を振り回した。
それは竜巻のごとく、魔物兵どもに打ちかかった。
打撃の暴風がしなって唸る!
巨大なオーガー兵を床に叩き伏せ、盾に身を隠すホブゴブリンを壁に叩きつけ、切り払おうとするリザードマン兵の剣を潜って腹を打ち、オークの首をヘシ折って絶命させた。
「海月流鞭打術・極殺奥義海蜂鬼櫓禰苦数!」
あどけない声で悪鬼のごとく叫ぶ少女。
必死でそれに打ちかかろうとする魔物兵の群れが、逆に叩きのめされて吹き飛ばされる!
「この国で100年以上女王やってんだ! 舐めとったら死ぬよ! ダボがァー!」
かつてアーマルベン軍最強の女戦士であり、魔物に殺される寸前だった王を助けた事で見染められて王妃となったエウリュア=タリシズ女王。この地方に古来から伝わる殺人拳の継承者が、怒りに任せて魔物兵を蹂躙していた。
転がるように逃げ回りながら、転移者の魔法戦士は必死に避ける。
鞭の嵐を際どくも回避し続けるその技量。それは決して並の水準ではない。
その腕で稲妻の剣を構え直し、体勢を立て直した。
「こ、このガキ‥‥いやババァ? どっちだ? とにかく俺の必殺魔法剣を見せてやるぜ」
「別にいらん」
冷たい声とともに、魔法戦士の後ろから全身に鋼線が絡みついた。
ぎょっ、とする魔法戦士。とはいえ戸惑ったのは不意を打たれた一瞬である。
だがこの状況での一瞬は不味かった。
鞭の殴打は魔法戦士を容赦なく叩き、吹き飛ばしたのである。
魔法戦士が吹き飛んだ瞬間、キラーは鋼線から手を離した。
相手は窓から外へ吹き飛んでいく。外は——海面まで百メートルはくだらない。
「邪道訃報投棄(き・き・き)‥‥」
忍術の名をエコーつきで、落ち着いて仕方なく呟くキラー。
※忍びの技で身を隠し、敵の死角から放つ攻撃。網や鋼線を使う事で敵の行動を封じる。
邪道傀儡掌握という技であり、次の攻撃に繋ぐ物だったのだが、勝手に繋がれて敵が葬られたので別の技という事にしておいた。
戦場は千変万化。常に変化する生死の場に対応する忍者は、一つの技に一つの名などいう無意味な拘りを持たない。
ニンジャの世界では常識など一切通用しない——常識は通用しないのだ!
設定解説
・この国で100年以上女王やってんだ!
エウリュア=タリシズ女王はベニクラゲ獣人であり、数十年ごとに巨大ポリープになって肉体を再構成し、若返る。
殺されない限り不死という長寿種族であり、この国の王妃になってから100年以上生きているのだ。
なお王妃になる前、どこで何をしていたのかは不明。よって正確な年齢は誰も知らない。




