0 異世界漂流の巻 10
第二の仲間が追加だ。
吉良達は異世界のロボット、ケイオス・ウォリアーに乗りこみ、異世界の山間部を進んでいた。
サイシュウの言った通り、誰も彼もが操縦する事ができた。だが動かせる状態だった数の都合で、全機が相乗りしている。中には三人で鮨詰めの機体もある。
吉良と一緒にいるのは旭日ソフィアだ。
吉良には友達と呼べる者などいなかったが、塔の中でソフィアと話していたので、彼女とは仲が良いのだろうと周囲が思ったのである。
一応「そうでもないけど」とは言っておいたが、どうせ誰かは乗せねばならなかった。ソフィア本人が拒まなかった事もあり、結局は彼女を座席の後ろに乗せている。
ソフィアは座席の後ろから吉良を覗き込んだ。
「揺れるわね、これ。で‥‥町へ行くのはいいけど、それからどうするの?」
「それはわからない。けど、あの塔にいても悪者に襲われるだけだからね」
逃げた敵兵士の報告を聞けば、次の部隊が様子を探りに来る筈だ。だから急いで離れたのだが、人里に着いてもその後の計画は無い。
(やっぱり、冒険者をやる事になるのかな)
異世界転移物作品を思い出しつつ、吉良はなんとなくそう考えていた。魔法やモンスターが実在する世界なら、それがパターンではある筈だ。
だが隠しアイテムで何らかのパワーを得ても、チートと言えるほどの強さは無い。他の同級生達はただの高校生のままだ。こんな状態でどうすればいいのか‥‥。
悩んでいると、サイシュウの機体Sサンライザーが立ち止った。
『ちょっと休憩だ』
(こんな所で?)
吉良は周囲を覗う。
舗装もされていない道の、両側を山林が挟んでいる。特に広いわけでも施設があるわけでもない。
だがサンライザーのハッチが開き、サイシュウは縄橋子を降りて外へ降りてしまった。
ソフィアと一度顔を見合わせ、ちょっと悩んで‥‥吉良もハッチを開けて外へ出る。
サイシュウは‥‥と見ると、周囲をきょろきょろし、山林を警戒しているようだった。
「どうしたんです?」
近づいて訊くと、サイシュウが逆に訊いてくる。
「お前さん、何か感じないか?」
言われて周囲を見渡す吉良。何もいない。
だがサイシュウは疑っているようだ。
「どうもな。何かがここらで、俺らを覗っている気がするんだが‥‥」
二人で山林を覗き込んでいるうちに――吉良はふと、何かひっかかる物を感じた。
見るというより、空気の流れだか淀みだかのような物が、ある気がしたとでも言うのか。
一歩そちらに踏み出し、凝視し‥‥吉良は側の木を指さした。
「‥‥あ! あれですか?」
その声に反応したのだろうか?
梢にへばりついていた物が姿を現す。
その体色を変えて、緑色の、本来の姿を。
見つけた吉良自身が驚いた。
「カメレオン?」
それが地球の物と同じかどうかはわからないが、姿は確かにカメレオンだ。
サイシュウが吉良を横目で見る。
「ふむ‥‥俺でも見破れなかったのによく見つけたな。お前が得た冒険者クラスは探索系のスキルがあるようだぜ」
(盗賊系って事か? 確かに身軽に動けるし、感覚も研ぎ澄まされてる気がする。けれどカラテを使う盗賊系の、「忍」がつく職業って‥‥一体何なんだ?)
吉良が考えていると、サイシュウは機体を見上げた。
「ケイオス・ウォリアー操縦者としてのレベルと能力なら、モニターのステータス画面でわかるんだが。冒険者としての‥‥となると、やはり街まで行ってからだな」
二人が話している間に、カメレオンは動いていた。
とはいえ逃げるわけではなく、木の枝を渡って、なんと吉良の肩に乗り込んで来たのだ。
「え? なんだ?」
ぎょろぎょろ動く目玉を顔の側に見てびっくりする吉良。
サイシュウは「ふむ」と呟く。
「こいつからは妙な気配を感じる。敵意は無さそうだな。懐かれてるお前さんとしちゃ、どうだ?」
「どうと言われても‥‥害は無さそうですが」
「なら連れて行くか? 案外なんかのモンスターで、成長させれば戦力になるのかもしれないぜ」
(拾ったモンスターが力になってくれるパターンか。そう都合よくいくのかな?)
少し悩みはした。
だが結局、吉良はこう答えた。
「今の俺達は何のアテも無い状態ですし、役立つ可能性があるならそうします」
――再び機体へ戻り、人里へと向かう一同――
吉良の肩に乗ったままのカメレオンをしげしげと見つめるソフィア。
「で、名前はどうするの?」
「特に考えてないけど」
それを聞いて「ふーん」と呟き、舌を伸ばしたり引っ込めたりするカメレオンを前に、しばし考えて――
「じゃあ『ストライク』で」
「な、なんで!?」
提案に目を丸くする吉良。
彼の名前の元ネタになったアニメに縁の深い単語だ。
だがソフィアはそこまで驚かれると思っていなかったらしく、逆にびっくりしていた。
「え? ホームランの方が良かった?」
アニメではなく野球だったらしい。ならなぜ野球なのか、という疑問はあるが‥‥。
「いや、そうじゃないけど‥‥」
「ならいいじゃない」
いまいち納得できない吉良だったが、ソフィアはOKだと捉えたようだった。
カメレオンの名前について悶々としていると、サイシュウから通信が来た。
『お、見えてきたぞ。日が暮れる前に入るか』
吉良は前方を「機体の目」で見る。
夕焼けに染まる山を背に、壁で囲まれた街があり、その向こうには――
「お城‥‥?」
櫓のついた塔と厚い壁の、武骨な城だった。
ここでやっとチュートリアル編が終わるんだ。
ちょっとスタートダッシュがモタモタし過ぎている気はするな。
あとここまで書いてから気づいたが、女が脱ぐシーン入れるの忘れてたわ。
まー近いうちになんとかしよう。