奪い合い
ーー さて、ギアを上げるか…。
ロジンを触りながら気合いを入れていると、またも白石がマウンドにやってきた。
「平瀬、あの守備位置で大丈夫なのか?」
実際、内外野ともにかなり前進している。
「大丈夫に決まってんだろ。普通の守備位置だったら内野ゴロやフライでも点が入るケースだ。絶対に点は入れたくないからこれでいい。」
「でも、もし外野を越えたら…。」
「越させない。いや、絶対に越えない。
とにかく聞いてくれ。次の里中はノーサインで全球ストレート、そしてその次の史田は全部変化球で仕留める。いいな?」
「はぁ? なにをいっ… 」
「ごちゃごちゃうるせぇ。もしここで点を取られたら俺のこの指をバットでへし折ってくれ。とにかく、さっさと終わらせるぞ。いいな?」
分かったよ…と白石が渋々もとの場所へ戻りミットを構えるのを見届けてから、すぐにノーサインでストレートを投げる。
白球は唸りをあげてインコースへ。
《ストライク!》
里中は目を丸くしてこっちを見る。そして彼が構え直した瞬間、今度はアウトローを狙って投げる。
《ストライク!!》
里中は急に来るボールに反応できず見逃してしまい、追い込まれる。
追い込んだが、ここは敢えて急がず間をとって白石に対して頷く。そして大きく振りかぶり、全力でストレートを投げた。
ギアを2段階上がったような高めのストレート。里中は思わずバットを出してしまい、空振り三振。
《 ストライク!! バッターアウト!! 》
これで2アウトだ。
そして次の史田は俺の変化球に翻弄されて空振り三振。
宣言通りに2者連続三振で2回表のピンチを防いだ。
「いやぁ、すげぇ」
「よく抑えた!!」
「九州選抜の本領発揮だぁ!」
また色々と言われているが喜んでいる場合ではない。次の打順は俺からだ。
ーー「アイツ」から絶対に打ってやる…。
闘志剥き出しで右打席にたつも、際どいコースを突かれ、あっさり追い込まれてしまう。
だがこちらにも意地というものがある。
何度もスライダーや直球を織り混ぜられるも辛うじて食らいつく。
こうして粘り続けるうち、絶好球がきた。
ーー甘い、もらった!!
だけどー
消えた。
《空振り三振!!バッターアウト!!》
くっそ…。悔しさ丸出しでベンチに戻る。
俺がベンチでうなだれていると
「まぁまぁ、悔しいのは分かるけど、そうへこむなよ。どうしたのさ?」
渡邊が俺の肩をポンポンと叩きながら横に座る。
「…てきやがった。」
「え? なんて??」
「スプリットを…投げてきやがった…。」
「はぁ!? あいつ、スプリット持ってたのかよ!? 俺の打席では全く投げてこなかったぞ…」
「ああ、俺も知らなかった。粘ったから本気出させてしまった。」
「相当粘ってたしな。すげぇなぁって思いながら見てたよ。特にあのスライダーに当てれるのはすごいよ」
「まぁ、あいつとはチームメイトだったから球筋はだいたい分かるし、たとえスライダーでも当てることなら出来る」
だが、グラウンドに目をやるとちょうど白石が例のスライダーを空振って三振を喫したところだった。
2アウトになったので、渡邊を連れてベンチ前のキャッチボールに向かう。
そしてことの顛末を事細かに説明した。
「消えるのか、ホントに。」
「ああ。初見だからそう感じたのかもしれねぇが、とにかく俺はその落ちるスプリットを空振った。渡邊も次の打席、気をつけろよ」
俺が忠告を言い終えると同時に浦部も空振りして、3アウト。
結局、山縣は俺の2者連続三振を上回る3者連続三振で2回裏を終えた。
ここまで来れば俺と山縣の意地と意地のぶつかり合い、そして三振の奪い合いだ。
ーーせめて投手としては負けられない。
そう気合いを入れて臨んだ3回、8番の八木を不意打ちのカーブで見逃し三振。9番朝上はストレートで三球三振。
1番打者の上田には多少粘られたものの、最後は外角に落ちるスライダーで空振り三振。
俺も負けじと三者連続三振でこの回を終えた。
とはいえ日本代表に選ばれた山縣も負けていない。
8番の小林はボッテボテのピッチャーゴロだったが、7番 的山、9番 千々和からはあっさりと2つの三振を奪ってこの回を終わらせる。
ここまで、山縣は9つのアウトのうち7つが三振と圧倒的な投球をみせている。
試合は3回を終わり両者無得点。
そして俺はこの試合、最後のイニングを迎える…。




