確認作業
ピッチングマシンの速度を140キロに上げる。中学時代、見たこと無いであろう速さの直球をただひたすらに打つ、打ちまくる。
この練習はもちろん山縣の直球対策だ。まずはストレートをしっかり捉えること。それをまず徹底する。守備は午前中みっちりやったので、今度は打撃だ。
「いやー、速ぇよ。これ…」
「全然前に飛ばんし…」
「あーー!手が痛てぇ!! 」
とみんな最初は苦戦していたものの、
カキーン!! カキーン!!
だんだんとヒット性の当たりが飛び出してきた。とりわけ有田は早い段階から速球に適応し、ヒット性の当たりを連発。吉永、渡邊も彼程ではないが、充分に適応してきている。俺もだいぶ慣れてきた。
が、問題は白石だ。全然バットに当たっていない。稀に芯に当たった時は打球は轟音をたてて飛ぶのだが、いかんせん数が少なすぎる。打てないせいか、白石はどこか気落ちしているようにみえる。
俺のバッティングがひと段落着いたので、気晴らしのために白石をブルペンに誘うことにした。
「なぁ、白石。ちょっと俺のボール捕って欲しいんだ、サインも決まってないし」
「いいけど…後でまた、打てるんだよな?」
やはり打撃に不安を抱えている。
「もちろん。グラウンドでマシン打撃が出来るよ」
おそらくブルペンでの投球練習が終わればAチームと入れ替わりでグラウンドに入れるはずだ。
「なら良かったぁ、んじゃ行こう」
室内練習場のブルペンに着くと、1人既にブルペンに入っていた。その投手とは完全試合男こと、山野 樹だ。
が、敢えて彼のことは気にせず、白石とサインを決めてフォームと球の軌道の確認作業を淡々と行う。試合前なので球数は少なめに。
数十球を投げ終えたが、自分の中ではほぼパーフェクト。これなら明日はマシな戦いができる。充分な手応えだ。
軽い試運転が終わり白石が俺の元に来る。
「なぁ、平瀬。お前、球はそんなに速くないけどさ。ホントにノビはすごいよなぁ…」
「白石、それ佐々木にも言われた」
「しかも、変化球のリリース変わらないうえに、球の出どころ判りづらいし」
それも言われたんだよなぁ…と言いかけたが
「それに、あまりに凄いから最後の方は山野君がずっとこっちの練習を見てたよ」
と山野がいる方を指す。
「あ、バレた?」
ひょっこりとブルペンの陰から山野が現れる。
「いやぁあまりにもいい球投げてたからみとれてたわ、さすが平瀬さん」
ああ、ありがとよ、と軽く受け流すと同時に完全試合男のピッチングをじっくり見てみたいなと思った。
「あ、そうだ。白石は山野とサイン決めないと。明日リリーフで投げるだろ?」
「それはそうだけど…平瀬はどうすんのさ?」
「俺は完全試合男の投球をストレッチでもしながら見守っとくよ。移動までそんなに時間もないし」
「まじか! 九州選抜の平瀬さんに見てもらえるとかマジで光栄。頑張ろっ!!」
俺が彼のピッチングを見ると聞いて山野に妙な気合いが入る。そして意気揚々とマウンドへ向かい、投球練習を始めた。
正直「完全試合をした投手」と聞いてさぞかし凄い体をしているんだろうなぁと思っていたが、山野は案外そうでもない。
彼は背もそこまで高くないし、決してガタイも良いとは言えない。
が、彼はヒョロッとした風体から、カーブやスライダーに始まりサークルチェンジ、シンカー、フォークと様々な変化球を散らしていく。
しかも彼はストレートはほぼ投げず少し動くツーシームを速球として扱っている。投げる球全部が変化球だ。
「うん、いいねぇ。2番手がこれならうちの継投は完璧かもな」
キャッチャーの白石も唸る程の投球だ。
「そういや山野はさ、軟式出身だけど硬式球の投げ心地はどうなの?」
股関節のストレッチをしながら素朴な疑問を彼にぶつける。
「悪くはないけどねぇ。軟式球のほうがやっぱり投げやすいな。ま、そのうち慣れると思うよ」
と本人はあまり気にしてない様子だ。
そんな話をしていたら部長から移動の合図がかかる。 さぁ、今度はグラウンドでの最終確認だ…
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