111、影薄はスルーの方向で!?
「おー、瀬川おはよ」
今日は良い天気だなぁ。空が高い。昨日の雨雲はどこにいったんだろうなぁ。
「おーい、瀬川?」
しかし、来週の金曜日が体育大会本番だったとは、うっかり忘れてた。でもまあ、動きは大体覚えたし、あとは各種目だよなぁ。やる気でねぇなぁ。
「せーがわ、おはろー」
「おぅ、狩燐。おはろー」
「え、俺はスルーなのに!?」
「今日は天気いいなぁ」
「そーだなー」
あぁ、これだよこれ。この作品に足りないもの。のほほんとした空気。穏やかに流れる日常。それこそ学園もので大切なものだろう。事件は時々起こるけど、それを乗り越えて友情を育んでいく的な感じでさぁ、非日常なものは排除しておくこの安心感だよ。これがあってこその学園だよ。うんうん。
「おーい、俺の声は聞こえてないのか?」
「あ、ヤッベ。三角定規忘れたかも」
「んー、瀬川は数学何時間目?」
「確か4時間目」
「お、じゃあなかったら貸せるぜ」
「まじか! じゃあ頼むわ」
「聞こえてないんですかそうですか」
算数は嫌いじゃないが、数学は認めん。何だよ連立方程式とか一次関数とか。どこでどう生活に役立てればいいんだよ。そんなの覚えるくらいなら、ひたすら100マス計算してる方が楽しくていいや。
「フフ、瀬川ちゃんじゃない?」
「なぁ、斎賀。お前は本当に中学生なのか?」
「フフ、失礼ね。列記とした中学一年生よ」
「お前が言うと全て嘘に聞こえる」
「俺も瀬川にどーかん」
「フフ、それはあなた達がまだ坊やだからよ」
「俺は? 俺はそれに含まれているのか? てかなんでみんなしてスルーなんだ!」
ああいう発言するから、年増さに思われるんだ。普通の中学生はそんな発言なんかしねぇんだよ。してたら怪しい事この上ねぇわ。
「なんか全員集合って感じね」
「なんだ、葛野木か」
「なんだとは何よ、腹黒主人公」
「それが俺のキャラ風だからな」
「おぅ、異論はない」
「フフ、そうね」
「まー、そうねぇ」
「俺は影薄い設定だけど、ここまで無視しなくてもいいんじゃないか!?」
しかし珍しいほど人が今日は集まるな。あれか、小橋がいないおかげか。そのおかげでこんなに出会いが生まれるというのか!
「やぁ、お姫様」
「みんなおはよう。揃って登校なんて珍しいわね」
さすが学級委員長。普段はだらけまくって俺に迷惑をかける奴らもちゃんと挨拶を返す。
しかしだな、聞き捨てならない台詞がその前にあるんだよ。
「おはよ。まあ、とりあえず神郷、一発殴らせてもらっていいか?」
「朝から痛い思いをする気はないなぁ」
「それなら『お嬢様』って呼ぶのやめような」
不服そうに神郷はえーっと言う。というか、周りの奴らまで言うとは何事だ。
「フフ、でも可愛かったじゃない」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「いやいや、そういう問題よ瀬川」
「んな事知るか!」
「知っておこうぜ、おじょーさま」
「黙れ狩燐」
「け、喧嘩はよくないよ!」
うん、バカ達と一緒になってた人にそんな事言われても困ります。てか、説得力の欠片もねぇよ。
「瀬川は女顔だもんなぁ」
「あれ、そいえば小橋は?」
ふっと思い出したかのように神郷が言う。問われた俺らは、知らないと首を横に振った。
「え、俺ずっといるんですけど。てか、俺にもつっこんでくれ瀬川!」
「どうしたのかなぁ」
どうでもよさそうに葛野木が言う。
「フフ、ついに小橋消失?」
他人事だと思って楽しそうだな、おい。
「しょ、消失!?」
学級委員は何でも真に受けないようにしようか。
「影の薄さが飽和して、存在そのものが消えたみたいな?」
影の薄さが飽和するってどういうことだか、A4の紙にまとめて俺に教えてくれ。
「うっは、それ面白そうだな!」
人の不幸は蜜の味なんだな。
「揃いも揃ってみんなひでぇな」
「おぉ、さすが親友! 俺のフォローを」
「奴がいてもいなくても、いつもこんな感じだろうが」
「してくれないのな!」
あぁ、そうだったねぇーなんて言って、みんな頷いた。やっぱりあんたら学級委員は失格だよ。一応クラスメイトなんだからかばってやろうぜ。俺も人の事言えないけどさ。
「なぁなぁ、そろそろ独り言みたいなのも嫌なんだけど」
一応この中では真面目な方に入る小橋が、学校を遅刻してくるなんて考えがたいし、風邪でも引いたか。いっそのこと事故ってくれてると面白い。
「あー、そうそう」
狩燐は何か思い出したようで、左手の平を拳で打った。そんな古いひらめき方するなよ……。
「なんか『宇宙一の折鶴職人になるために旅支度なう』とか言って、修行の旅に出たらしいぜ」
なんだそりゃ。間抜け以外の何者でもないな。
「そんな事言ってねぇんだけど!?」
「フフ、小橋如きが『なう』だなんて生意気ね」
「いや、ツッコムところ違うだろ!」
そうだなぁ。確かに小橋がなうを使うなんて生意気だ。アイツは「ナウいギャルとクラブでダンシング」とか言ってればいいんだと思う。古臭くていいんだよ、名前も存在も。
「宇宙一の折鶴職人ってなんだろう?」
「宇宙一綺麗な折鶴作る職人だよ」
「そう聞くとなんかすごそうね」
「良く聞くんだみんな、おかしいから絶対!」
てか、そもそも折鶴職人なんぞいないだろうけどな。
「み、みんなひどいよ!」
「おぉ、いつもより学級委員が輝いて見える!」
「小橋君だって頑張って特訓してるんだよ! 笑っちゃいけないよ!」
「結局そうなるのかよ!」
この学級委員、実はかなりの腹黒だと思っているのは、俺だけなんだろうか。
「まあ、小橋の事だし、気にしなくていいんじゃね?」
「お前が一番ひどいな!」
小橋が小橋である限り、奴は永遠に薄いんだろうなぁ。哀れだなぁ、はっはっは!
「つかいい加減に俺の存在に気付いてくれよ!」
しかし、そろそろ小橋がうるさくなってきたな。そろそろ反応してやろうか。
「星になれば目立てるぞ、小橋」
「星になんかなりたかねぇよ! 人として目立ちてぇよ! てかやっとかよ!」
「耳障りだったから」
「何がどう耳障り!?」
「フフ、全てね」
俺の台詞、斎賀にとられた……。
「全てとかどうしようもなくね!?」
「あぁ、どうしようもねぇ」
「直しようがないもんね」
狩燐と葛野木は相変わらず毒舌だ。
「まあ、それが小橋もとい影薄の味って事じゃない?」
神郷、それフォローじゃない。元からフォローなんてする気がないんだろうけどな。
「大丈夫だよ小橋君、いつか直るって!」
学級委員長、さすがにとどめはよくない。神郷より酷いってか、救いようがないじゃないか。
「揃いも揃って毒舌どもめ!」
「それが普通だからな」
それを言っちゃ終わりだとか言うんじゃねぇよ!
「薄情者!」
「何とでも呼べ」
「じゃあおじょ」
「神郷、それ以上言ったら道路に突き出す」
「あはは、じょーだんだよ」
冗談らしく聞こえないから困ったものだ。まあ、周りがこんなんばっかりだから、それ以外も冗談にしか聞こえなくなるんだけどな。
まあ、これが日常なんだ。これからなんだし、昨日の事も何もかも忘れてしまおう。森野のように、とまではいかないが、せめて真面目に練習ぐらい参加するかな。




