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ドSな俺と、ドMなアイツ  作者: 下弦 鴉
第四章 メインディッシュは体育大会
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106、いじる者といじられる者!?

 「いや~、やっぱ瀬川は速いなぁ」

 肩をバシバシ叩くな、痛ぇだろうが。

 「なんだかんだで首位守ったくせに」

 「ギリギリだったし、結構ヤバいと思って久しぶりに頑張ってみたからな」

 わははと狩燐らしくなく豪快に笑うと、俺の時より力強く小橋の背中を叩いた。

 「いって、痛ぇよバカ!」

 反撃と言わんばかりに小橋は狩燐の背中を叩こうとしたが、まあ見事にかわされまくる訳で。

 ちなみに今は下校中。小橋がどうしても練習して欲しいと言い、土下座もさせて、一発ギャグもさせて、今好きな子に告白させて、仕方なく練習して帰ってるところだ。……ん? さっきの一行だけに悪意が詰まってるだと? 気のせいだよ気のせい、気にすんな。

 「ダァァーーーリィィィーーーーーン!」

 は! 久々に嫌な予感!

 「お、出たなストーカー」

 面白そうに狩燐がそう言ったと同時に、俺はしゃがんだ。その上を何かが通り過ぎていく。そして痛々しい衝撃音。よし、もういいだろう。

 「相変わらず容赦ないな」

 「俺は何もしてねぇし。あのバカが勝手にバカやってるだけだろ」

 「そうよ、そうよ! 私はバカよ。恋に行き、愛に死ぬバカよ!」

 「意味分かんねぇよ」

 頭から出てる赤い汁は気にしなくていいのか。なぁ、どうでもいいのか。

 「あぁ、あぁ。最近ダーリンが足りなくて、美咲は乾いてました!」

 いや、乾くまで放っておくのはさすがにまずいと思うぞ。まだ出てるぞ、赤い汁。

 「だからねぇ、今日は潤うためにぃ、ダーリンとイチャイチャのラッブラブしようと思ってたのぉ」

 「語尾伸ばすな気色悪い」

 「私は気持ちいいわ、貴方の罵声で潤うのよ!」

 もう十分頭は潤ってんだろ、赤い汁で。

 「帰ろうぜ」

 「お、おう」

 「てか血はスルーなのか」

 何言ってんだ狩燐、あれは赤い汁だ。きっとトマトジュース的な何かだ。

 「ちょっと待って! おいていかないで! あぁ、もうこんなにもダーリンが霞んで見える!」

 そりゃそうだろうがよ。頭から血ぃ流して平気な奴なんていねぇよ。

 「足元がふらつくの! きっと、きっとダーリンが支えてくれないからよ!」

 いや、原因は明らかに俺じゃねぇだろ。てか、流れてる赤い汁どうにかしろよ。

 「ダーリン、どこなのダーリン。目の前が真っ赤で分からないの。ココは誰、私はドコ。日本はアメリカ。アフリカはフランス」

 全っ然意味分かんねぇんだけど。何が言いたいの? 何が伝えたいわけ?

 「なぁなぁ、久しぶりに絡んでんだから、もっと優しくしてやったら?」

 「お前はバカか。俺が優しくなったらこの作品終わりなんだよ。それがいつまでたっても分からねぇから影薄なんて言われんだぞ」

 「それとこれとは関係ないだろ!?」

 「関係大有りだよ。分からないからお前は影薄なんてあだ名が付いちまったんだぞ」

 「狩燐も酷くね!?」

 「はぁ……。成長しねぇな、影薄は」

 「お前の辞書に進歩なんて字はないだろ」

 「貴方だけそんなになじられるなんて、なんだか悔しいわ」

 一人バカが会話に混ざってきてんだけど。赤い汁は止まったみたいだけどさ、それが流れた後は消さないのか? 軽くホラー入ってるぞ。

 「いい? この世界でダーリンになじられていいのは私だけなの。ドSは全てこの私のものなのよ? それを影薄に奪う権利があると思って?」

 なあ、論点がかなりずれてると思うんだが。

 「俺だって好き好んでこいつらにいじられてる訳じゃねぇぞ!」

 「ダーリンの愛を受け止められないから貴方はバカなのよ!」

 俺だって好き好んでお前含むバカをいじってる訳じゃねぇぞ。愛の欠片すらねぇぞ。

 「バカでも影薄でもねぇよ!」

 「じゃあ何よ」

 「薄影だな」

 「結果影薄じゃねぇか! てか、狩燐っ。俺のセリフ奪うな!」

 とりあえずうるさい。俺は疲れてるんだよ、察しろよ。

 「ともかく、貴方はダーリンの罵声を浴びていい存在ではないの。ダーリンは私のもの! 私のものも私ものも!」

 軽く噛むな。私ものもってなんだよ。つーか俺はお前のものじゃねぇから。ダーリンですらねぇから。

 「だぁかぁらぁ、俺だって罵声なんて浴びたくねぇから!」

 俺はお前に罵声を浴びせた覚えはない。

 「私が罵声だと思ったら全て罵声になるのよ!」

 どんな俺様ルールだよ。

 「俺のは罵声って言うか、なんとなく瀬川の真似してるだけだから関係ないな」

 いや、なんだかんだでお前の方が俺より酷い時があるぞ。

 「森野さーん、忘れ物ー」

 「え? はいはーい」

 ふらりふらりと千鳥足でバカその1が声の主の元へ走っていく。同級生と思しき人物が、森野にノートを渡していた。会話はさすがに離れているので聞こえないが、走ってきた彼女は、森野の顔面をみて驚愕の表情をしていた。そしてハンカチでそれを拭こうとすると、やっと赤い汁の存在に気づいた奴は笑っていた。……笑いどころじゃねぇだろ、どう考えても。

 「なんだよ瀬川、その顔は」

 「どの顔だ」

 「森野とられてすねてるのか?」

 「何バカな事言ってんだよ」

 すねるだと、この俺が。どうしてすねなきゃなんねぇんだよ。

 「不服そうな顔してるな。口がへの字に曲がってるぞ」

 「うるせぇ影薄」

 「狩燐にはちゃんと答えるのに俺には冷たく返すのか!」

 「ちゃんと返してるだろ、うるせぇって」

 「もっとこう、柔らかく返せないのか?」

 「うるさいです影薄君。黙って消えてください」

 「言い方だけ柔らかくしても意味ねぇから!」

 チッ、めんどくせぇ奴だな。

 「じゃあ、うるさいので黙っててくれますか影薄君でいい訳?」

 「よくねぇよ! 影薄を小橋に直すつもりはないのか!?」

 「だってお前影薄だし。なぁ、狩燐」

 「あぁ、こいつは影薄だな」

 「揃いも揃ってSどもめ! いつか絶対仕返ししてやるんだからな!」

 「やれるもんならやってみろ、影薄太郎」

 「できるもんならやってみろ、影薄右衛門」

 「お前らなんか……お前らなんか……」

 拳を握ってぶるぶると震わせる小橋は、突然走り出した。

 「大っ嫌いだぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 うわーんと典型的な弱虫方式の泣き方をして、奴の背中はどんどん小さくなっていった。大嫌いなら明日声かけるなよ。そうすれば俺は静かに家に帰る事ができる。

 「やつも足速いなぁ。今から追いかけて追いつくかな?」

 ワクワク、キラキラ。そんな目で狩燐は小橋が去っていった方角を見ている。随分頼りない背中は遠いが、狩燐なら追いついてまた小橋をいじめ始めるだろう。

 「さすがに無理じゃね」

 「そうかなぁ」

 「あそこ信号あるし。赤になったら絶対追いつけねぇって」

 「そっかぁ。じゃあまたいじめるのは明日にしよう」

 いじめる気だったのか。

 「俺らも帰るか」

 「言われなくても帰るよ」

 「待たなくていいのか?」

 「誰をだよ」

 「赤い汁垂れ流して喜んでた変態的女子」

 「誰が待つか、あんな奴」

 まだクラスメイトと話している奴の背中が見える。それを見ているとなんだか胸がすっきりしないというか、イライラするというか。よく分からない気分になる。だからさっさとかって休みたい。そうすればきっと、この変な気持ちも治まるはずなんだ。変な気持ちなんてなかった事になるんだ。

 「狩燐、帰ろうぜ」

 「ん、あぁ」

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