102、暑い日には人と会う!?
……くそう、なんでこんなじめじめ蒸し暑い時に買い物なんてしなきゃならねぇんだよ。俺はクーラーの効いた、明らかにエコじゃない部屋でのんびり本でも読みながら過ごしたかったのに。なんで、こういう日に限って母さんはいつも……。
ん?なんだ?話がつかめない?じゃああれだ、うん、あれいっておこう。
*
それは、昼食前の穏やかな時間を過ごしていた時の事。
「慎ちゃ〜ん?」
「……何?」
キッチンからニコニコしながら母さんが、手を拭きながらやってくる。そして、俺が座って麦茶を啜っている目の前の席についた。まだニコニコしていることからして、いい事はなさそうだな。
「あのね、」
「あー、ごめん。小橋と遊ぶ約束してるから」
「あら、小橋君は今日、叔母さんの家なんじゃない?」
「あぁ、そうだったね」
「でね、慎ちゃん。今日ね」
「ごめん、今日なんか熱っぽいから」
「あら、大丈夫?……って、熱があるのにアイスなんて食べちゃダメよ」
「あぁ、ごめんね。そういう事だから」
「ダメよ、母さんには嘘はお見通しなんだから!」
……ちっ。逃げ切れなかったか。
「で、何?」
「えっとね……なんだったかしら」
なんて言って、困った顔をする。やめて、ちょっとベタな行為やめて。続きが、内容が気になっちまうじゃねぇかよ。
「そうそう。今日母さん、同窓会に行ってくるから」
「……それで?」
聞かなくても、何となく分かってしまう微妙な辛さ。
「夕飯は自分で買ってくれると嬉しいの。あとね、えっとね……」
そう言って、可愛らしい花柄のエプロンのポケットをあさり始め、何かを見つけたのか手を止めた。
「これもついでに買ってきてくれると嬉しいんだ」
よし、正解だぞ、俺。……嬉しくないけど。
「……分かったよ」
「わーい、有難う慎ちゃん!さすがだわ♪」
そんなに喜ぶとは思わなかったよ。そんなに若い子みたいに喜ぶとも思わなかった。
「じゃ、これその分のお金と夕食代。頼んだわよ」
*
と、言う訳だ。あぁ、やっぱ便利だわ、回想ってやつ。口でしゃべらなくてもいいってのは最高だ。
つー訳だから、じめじめ蒸し暑い中買い物に出た俺な訳で、できれば今すぐにでも家にかいりたい。でも、きちんと商店街に来ている俺がいるんだよな。
「……さて、何買うんだっけな」
メモは……っと。
あれ、……。お、あったあった。えーっと、豆腐(絹ごし)1丁。長ネギ1本に、玉ねぎ5個入り。牛乳2本にコーヒーの粉1袋。紙のゴミ袋……ねぇ。
「……少なくとも、徒歩で持ち帰りたくなかったな」
自転車に乗って来るべきだったな。近いからって徒歩で来るなよ、俺の馬鹿野郎!
「あれ、瀬川君?」
「あ?」
っと、無意識に怒りが言葉に……。
「何で怒ってるのか知らないけど、こんにちは」
「……こんちは」
えっと、私服だから自信はないが、学級委員長か?
「こんなに暑いのに、おつかい?偉いところもあるんだね」
「失礼だな。俺だってこれぐらいやるよ」
「え、あぁ……ごめん」
しゅんとして、小さくなった阪下は焦って視線を泳がしまくる。
「で、阪下は?」
「え?」
「え?じゃねぇよ。お前も買い物か?」
「あ、うん。お母さん達は今日帰って来られないみたいだから」
そいえば、コイツの両親は医者だったっけかな……。忙しくて家に帰れないことも多いんだろう。
「大変なんだな」
「え?そうでもないよ。1人でいると、料理とかできるようになるし」
「へぇ、意外だな」
「い、意外だなって……」
「ま、お互い様って事で」
「……そうだね」
なんでがっくりしてんの?まあ、どうでもいい。とりあえず、早く店の中に入りたい。
「じゃな」
「え、あ、ば、バイバイ!」
あー暑い暑い。
で、紙のゴミ袋はどこだ。後は全部見つけたのに……。
「……お、瀬川だ」
「ん?おぉ、神郷か」
なんだ、今日は学級委員長デーか。
「瀬川……」
俺の持っているかごの中を覗いて、神郷は呟いた。
「なんだよ」
「牛乳飲んでも、背は伸びな」
「身長のためじゃねぇから!頼まれただけだから!」
「あ、そうなのか。こりゃ失敬」
「……まったくだ」
そこまで気にしてねぇから。背が低くて何が悪い。背が低いからって高い奴を羨ましいとか思ってねぇからな。そこらへん、勘違いしないでくれたまえ。
「神郷は何しに?」
「ん、妹の付き添い」
「で、その妹は?」
「ん、見失った」
「……」
「黙らないでくれると嬉しいな」
いや、俺の周りにホントにまともな奴っていないなぁとしみじみ思わせてくれよ。
「お、いた!じゃあな、瀬川。また明日なぁ」
なんて言いながら、手を振って去っていく。
「お、おぅ。また明日な」
……今度は見失わないようにしてやれよ。いい例が家の近くにいるからさ。
「ありがとぉございましたぁ」
妙に間延びした声に見送られて、地獄に戻る。暑い。暑すぎるぞ、夏。どうにかならんのか、夏!
「キャハ☆ 慎吾ぽんだぁ」
ぽん!?ぽんって何よ!?
「キャハ☆ お久しぶりぃ、覚えてるぅ?」
「……笑先輩ですよね」
「キャハハ☆ 覚えててくれたんだぁ、嬉しい!」
そんな特徴的な笑いするのは1人しかいませんから。はい。
「じゃ、俺はこれで……」
「キャッハ☆ ここはフツーなにしに来てるんですか的なこと聞こうよ!」
いや、聞き飽きた。2人同じ事聞いたから、もういいでしょう。ねぇ、読者様?
「じゃ、何しにきたんですか」
「キャハ☆ 聞くきないねぇ」
「まあ、そうですね」
暑いから早く帰りたいんだ、分かってくれ。そして、鬱陶しいのも嫌いなんだ、分かってくれ。
「キャハ☆ 犬のエサ買いに来たんだけどね、お財布忘れちゃったから戻るところなんだ!」
先輩、威張るところじゃないと思う。そんな自慢げに言っちゃいけないことだよ、それ。
「キャッハハ☆ 慎吾ぽんに会えたからいいんだけどね!じゃあ、またねぇ!」
なんて走り去って言った……。あの人の元気、どこから来るんだろう。そして、なんで『ぽん』なんだろう……。
あぢぃ……。で、でも、家はもうすぐだ……。が、頑張れ俺……。
「あっれ、瀬川だ」
「……んだ影薄。最後の最後に出てくんじゃねぇ。消えとけ、というか消えろ」
「え、それ友達に言う言葉!?」
「……そうか、じゃあな」
「え、ちょっと待て!え、ホントに去ってくの?え、俺、本当にこれだけ!?ちょっと、ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
うるさい影薄。その辺でのたれ死んどけ。
よっしゃぁ!家にとうちゃ……。む、殺気!!
「慎吾ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ひらりとよけて、焼けたアスファルトにキスをする馬鹿事、森野を見下す。
「おい、何で人ん家にいんだよ。というか、何で待ち伏せしてんだ」
「……愛しすぎて」
意味分からん。そういう時は、スルーしておく。
「とりあえず、さりげなく邪魔なんだが」
「邪魔なんかしてないよ。ただ、もう少し話して痛い!!」
「あー聞こえない聞こえなーい」
「いた、いだだっ!で、でも、嬉しい自分がいだ!!」
ん?俺はただ道を歩いているだけだが何か?足元がふらつくのはあれだ、熱中症だ。
「よし、突破」
「あ、貴方の愛が、あるか……ぎり。わ、私、森野は、……ふめ、つ……」
後ろで遺言のような変な言葉を聞いたが、空耳だということにしておこう。そうしておけば、何事もなかった事にできる気がしたから。




