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「貴方には、私を斬ることなどできないわよ」
「できるかどうか、試してみるか?」
父王が剣を振りかざす。
私はそれを見て、微笑んでみせる。
「私の血が流れれば、この国の守護の力が無くなるわよ? それとも、私自身の力で、その防御魔法を切ってしまいましょうか?」
「何を言っているのかわからんな」
「しらばっくれなくてもいいじゃない? このことは、王と神官だけは知っている筈でしょう?」
父王の眉間に皺が寄る。
「それも、ハッタリかもしれん!」
「確かに……試してみる?」
切迫した空気が流れる。
父王と私は、互いを睨みあっている。
そして、その周りは新たな事実に固唾を呑んでいる。
「やめとけ!」
銀狼が割って入ってきた。
「なっ! 貴様どうやって縄を?」
フィリップスが慌てたように言葉を発する。
縛られていた縄は、床の上に落ちていた。
しかも当の銀狼は、私の目の前に、父王から遮る様にして立っていた。
フィリップスが銀狼を捕まえようとしたが、私は大丈夫だと、合図を送る。
「どうして、邪魔をするの?」
私は、縄抜けのことよりも、父王との間に入ってきたことが許せず、銀狼に向かって剣のある言い方をする。
「意味がないからだ」
「……?」
銀郎が何を言っているのか分からない……。
私が無言で、そのことを伝えると、面倒くさそうに補足説明をする。
「この王には、魔力がない。だから、守護魔法のことを解いて聞かせても意味がないと言っている」
「……っ!」
私は、暫く考えたのち、やっと、銀狼が何を言いたかったのか、わかった。
「つまり、私の母が死を決してしたことは、無駄だったって、こと?」
「何を言っている? あの売女が死んだのは、お前のせいだ! 出産を機に死んだのだから」
父王は、私の言葉に被せるように、言い放った。
またもや、母の悪口に腸が煮えくり返りそうになる。
だが、ここは我慢して、言葉を紡ぐ。
「かわいそうな男……。でも、私は、同情なんてしないわよ? 貴方は真実を知って、後悔するといいわ! 銀狼っ!」
たちまち、銀狼が嫌な顔をする。
「人使いが荒い、姫さんだな!」
「貴方が、主人をあの男から、私に乗り換えたんでしょ? 私は、強制していない。だから、協力なさい!」
周囲の人が全員、驚いた顔で、私を見る。
「あらっ? 一人も気付いていなかったの? 私の演技も満更悪くないのかも……」
「阿呆抜かしてないで、やるならさっさとするぞ!」
「もう……わかったわよ! じゃあ、お父様、過去の旅へご案内致します。ただ、その旅には、触れることも、話しかけることもできませんので、悪しからずご了承下さいませ!」
銀狼の放った魔法を増幅魔法を掛け合わせる。
見るべき時代を、父王が思い浮かべやすいよう、わざと言葉をかける。
「最愛の女との最初の出会いから、やり直しできるとしたら、どうする?」
「出会い……?」
引っかかった!
「じゃあ、その時に、いってらっしゃいませ!」
私の言葉と共に、父王がその場に崩れ落ちた。




