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ラインストーン公国国王視点です。
過去編
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「姫様っ!! 危のうございますっ! お願いですから、降りてきて下さい!!」
「大丈夫よ。もう少しで、届くの。ほらっ、こっちへおいで。私が、無事に降ろしてあげるからね」
そうっと、子猫の方へ手を伸ばす。
しかし、警戒心が強いのか、子猫はジッとして動かなかった。それに焦れたのか、姫の方が、子猫へ近付く。ミシッと音がした時には、木の下へ駆けつけていた。
「大丈夫だから……ねっ?」
姫が子猫に笑顔で話しかけた次の瞬間には、ボキッという音と共に、木から落ちる。
しかし、その下で、男が姫と呼ばれる女を抱き留めていた。
「やあ、君が落ちていては、子猫が助かっても、周りの者はどう思うかな?」
諭すつもりで声をかけるが、どこか甘い響きも残っていた。
「あっ、ありがとうございます。貴方は……?」
これが、初めての出会い……?
だが、それは、サーシャではなく、ミーシャだった。
よく見なければ、分からないかもしれないが、確かにミーシャだ!
髪と瞳の色を変えてあったが……。
あの時……あれは、サーシャだと思っていたのは、実はミーシャだったと……?
今ならばわかる。
姫様と呼んでいた女は、神殿の巫女付きの侍女だった。
ミーシャが髪と瞳の色を変えていた理由……。
巫女姫の特徴とする色――ストロベリーブロンドの髪と銀色の瞳――を纏って、神殿以外の場所を歩けるはずがないのだから。
この時の余は、まだ王になっておらず、国の視察と称して、よく一人で城を抜け出していた。
勿論、離れた場所で護衛がついていたが……。
強烈な出会いだった……。
木の上から美女が落ちてくるなど、そうそうないことだ。
一目惚れだった。
どうしても、この女が欲しいと思った。
この容姿だ。
しかも、『姫』と呼ばれるからには、どこかの貴族の娘だという事は容易く調べがつき……2度目に出会った時には、結婚を申し込んでいた。
場面が急に変わった。
金髪琥珀色の瞳の女(サーシャだ! )へストロベリーブロンドの髪の女が言い募っていた。
「どういうこと? 彼に初めて出会ったのは私よ?」
「だから何? その時、貴女は私として彼に出会ったのでしょう? なら、私が彼とデートしても何も問題ないでしょう?」
「そんな……! 私が好きで、あんな格好をしたのではないわ! 結婚を申し込んできた時、貴女が私のフリをしたのでしょう! まさか貴女も……彼のことが好きなの?」
「ええ、好きよ。一目惚れだったわ! 私は彼と結婚する! 私なら、彼と結婚して支えることができる。貴女は、この国の巫女なのだから、結婚なんて出来ない」
サーシャに言われて、ミーシャが項垂れていた。
愛しい、サーシャ……。久し振りに見るサーシャ。
だが、私が知っているサーシャとは違う。
サーシャへ触れようとするが、余の手はそのまますり抜ける。
余の声も届かぬ。
やはり、過去は過去でしかないのか……。
またもや、場面が変わる。
ベッドが見えた。
ベッドで睦みあう男と女。
男は、勿論、過去の余である。
そして、女は……金色の髪をしているが、あれはミーシャの方だ。
この後の出来事は、わざわざ、見なくとも覚えている。
男は、女の胎内で果てた後、冷たく言い放つ。
「お前は誰だ?」
女の擬態が解かれる。
現れたのは、真実のミーシャの姿。
男へ、始めて会った瞬間から慕っていたのだと言う。
そして、初めて会ったのは、サーシャよりも自分が先だった。
サーシャのフリをした自分だったのだと……。
あの時、惹かれ合ったのは、自分だったのではないか……と。
しかし、男は、女へ冷たく応対する。
お前だと分かっていれば、抱かなかったと。
男になら誰にでも脚を開く売女だ! と罵っていた。
女……ミーシャは、傷ついた顔をしている。
男に顔を背け、涙を流す。
男は、女に構わず、恨みの言葉を吐き続けている。
それを、黙って耐える女……。
ああ、本当は、腕に抱いた瞬間に分かっていたのだ。
あの時、サーシャとは、すでにベッドを共にしていたのだから、分からない筈がない。
だが、己がミーシャを抱きたいという欲望に負けた罪悪感から彼女を責めてしまったのだった。
彼女が巫女であることを考えると、決して結ばれることがないと思うと居ても立っても居られなかった。
だから……抱いた。
なのに、サーシャに対してと、己の弱さに対し、責めることでしか、罪悪感を拭えなかった。
その矛先がミーシャだったのだ。
……場面が変わる……。
次の場面の予想はついていた。
……やはり……。
神殿の中だった。
ストロベリーブロンドの色を纏った女が、巨大な魔法陣を描いていた。
そして、透き通った声で詠唱する。
この国の守護魔法を……。
女の持てる魔力全てを注ぎ込んでいた。
余は、見ていることしかできない。
魔力のない余が魔法の流れを見ることができるのは、ルナが細工をしているのであろう。
いや……銀狼か?
程なくして、魔法陣の消失と共に女が倒れる。
それを見計らったかのように、神官が部屋の中へ入ってきた。
「巫女姫様っ! 何てことをっ! 大丈夫ですか? 貴女様は、御身が大事ではないのですか!」
神官が大事そうに、女の背に手を当てて起こす。
女は、微笑んでいた。
「大事にしていますよ? だから、無事に産むための魔力は残しました。
それ以外の私の魔力全てをかけて、この国へ守護の魔法をかけたのです。
私の命は、そう長くはありません。お腹の子は……愛する人との娘です。
この子を安全な世界の中で暮らさせたいのです。そして、愛する人の国を守りたい。
だから、私に悔いはない。
それには、代償が必要なのです……」
「……っ! まさか、予見したのですか?」
女は、微笑んでみせた。
「私の命をかけた魔法です。絶対に守ってみせます!
私の死と共に、術は完成します。
私は、この子を腕に抱くことは叶わないでしょう。
どうか、この子をお願いします……」
ミーシャを抱いたことを、何故かサーシャは知っていた。
何も言われなかったが……。
双子の神秘性か?
ミーシャを最後に見たのは、あの初めて抱いたときだった。
それから、ミーシャとサーシャも会っていない筈。
連絡すら取りあっている様子はなかった。
それもそうか。
神殿に入れば、家族ですら容易に連絡することなどできない。
そう、親兄弟が死んでも、葬式にすら出ることができないのだから。
ましてや、国一番の魔力の持ち主である、巫女が神殿の外へ出ることなど叶うわけがないのだ。
国の防御を魔力で補う巫女がまさか抜け出していたとは……。
とんだ、やんちゃな姫だったわけか……。
己が隠していた心を気づかされる。
ミーシャの魂に惹かれていた事実を……。
当時、神殿の力は強かった。
だから、即位した後、神殿の取り潰しにかかったのだった。
表向きは、王妃サーシャの心を煩わせた報いと……。
神殿の代表たる巫女ミーシャが王妃の姿で王を誑かした。
売女を囲う神殿ごと潰して何が悪い?
余に魔力がなくとも、国くらい、武力で勝てる!
そう、重鎮どもを黙らせた。
真相は、ミーシャと添い遂げることができない恨みだったのかもしれない……。
はっ! とんだ、笑い種だ!
神殿を完全に取り潰すことは、信心深い一部の有力貴族によりできなかった。
だが、それで良かったのだ……。
余は、ミーシャを殺すつもりはなかった。
サーシャの手前、ミーシャを側に置くことはできないのだから。
だから、神殿には、ミーシャを守ってもらう必要があったのだ。
それなのに、子どもの命と引き換えに死んだ。
実は、国の防御魔法を作るための贄だったというのか?
国くらい、余が守ったものを!
憤りが隠せない。
どうしてっ……!
私用&仕事のため、暫く、お休み致します。
できるだけ早く、再会できるように、頑張ります。
あと、もう少しで完結する予定です。




