脱出
子供はベッドの上に立ちあがり弘基の方に両手を差し伸べた。
弘基は子供を抱き上げ、子供の耳元で呟いた。
「生きるってことは試練の連続さ。兄弟」
『兄さん、奴らが部屋に向かってくる』
エヌマルイチは部下を二手に分け部屋を捜索し始めた。
いつの間にか子供の泣き声は消えていた。
右手の部屋に向かった捜索隊がドアを開けた。
そこは広い書斎だった。
机と本棚、窓際に小さなバースタンド。部屋の中央に応接セットが置かれ
百インチもありそうなでっかい壁掛けテレビがある。
その隣に作りつけのクローゼットが目に入った。
人が入るだけのスペースはある。
部下の一人は機銃をそのクローゼットに向け銃弾を放った。
ドドドドドッ。
口径三十ミリの弾はアッという間にクローゼットを破壊した。
たった数秒の出来事だった。
「クリア」部下の一人が叫んだ。
続いて隣の部屋に向かった。
子供は弘基の首に手を回し顔を肩に押し付けた。子供の体は冷たく震えている。
寒さで震えているのでない事は弘基には分かっていた。
恐怖だ。死の恐怖。
弘基はベランダに目を向けた。カーテンを開けガラスドアを開いた。
ベランダには誰もいないが屋敷の周りは無数の兵士がいた。
ここから抜け出すのは無理か。
弘基は部屋に戻り、周りを見渡した。ベッドの奥に収納部屋がある。身を隠すにはその場所しかない。
『兄さん!ドアに兵士が四人集まっている。今にも部屋に入ろうとしている!』
元基の叫びが、弘基の頭に響いた。




