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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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シンデレラ

無音の地下では老人の呼吸でさえ、かすれたパイプオルガンのように響き渡る。この地下では蚊の鳴く声量があれば十分に聞き取れる。

老人は双眼鏡を覗き込みながら呟くように語った。


「二十年ほど前、地下で屯していた我々の組織は表舞台に出た。つまり、政治の世界に入り込んだのだ。長い時間をかけ政権の中枢に潜り込み、重要なポストを次々と牛耳った。長年のミスターXの夢が実ろうとしていた。

政権を取った我々が最初にやったのは親から虐待されている子供を守る事だった。

信じられないだろうが、ほんの二十年前までは親の子殺しがそこら中で起きていた。

当時、子供を保護する機関や法律があったが手ぬるかった。子供の虐待死が後を絶たなかった。

我々は法律にメスを入れ、子供を完ぺきに保護する機関をつくった。それが、特別広域捜査局だ。後に警察を統括する組織になっていく。

この特広局の目的は弱いものを助ける機関としてつくられた。だから国民受けが良かった。

最初の仕事は、虐待されている子供の保護だった。児童相談所は特広局の支配下に置かれた。

虐待されている児童を容赦なく親から引き離し保護した。親が喚こうが、子供が泣こうが関係ない。

抵抗する親は児童監禁暴行罪で懲役と、罰金刑を科した。

驚いたことに、ゼロ歳児から高校生までの子供で保護された人数が一万人以上に達したのだ。たった一週間で」


ライフルスコープを覗き込んでいるエヌマルイチの眼には椅子に縛られた男の顔の輪郭がおぼろげに見えている。

男の視線は真っすぐライフルスコープを覗き込んでいるようにもみえる。

距離は、三キロ。

ライフルの射程距離は四キロだから頭を狙えば即死だ。

男の視力がどんなに良くてもエヌマルイチの姿は見えないだろう。

天井からのライトは椅子に座った男に集中して当たっている。周りは薄暗い。


東 五郎という椅子に縛られた男は自分とどういう関係があるのだろうか?と、エヌマルイチは考えた。


「保護された子供がどのような環境下にいたのかが私の耳にも入ってきた。あざだらけの子供、食事も与えられず骨と皮だけの子供、生活のために身を売る小学生、薬物中毒になった子供、そして、シンデレラの子供」


「シンデレラ?」エヌマルイチは呟いた。


「特広局がその子供を見つけた時全身を灰で覆われていたそうだ。煙草の灰でね。子供は灰皿代わりにされていたんだ。父親は子供の体を灰皿がわりにしていたんだ」


「灰皿…」


「特広局の隊員がその家に乗り込んだ時、見たのはまるで化け物屋敷だったそうだ。家の中は散らかりゴミだらけ、数人の男女が半裸状態で寝そべり薬物に浸りラリっていた。真ん中に一歳にも満たない子供が裸で転がり、煙草まみれになっていた。

山の中の一軒家だから発見されるのが遅れてしまった。

最悪なのはその子供の体だった。

子供の皮膚はやけどで瘢痕化し堅くなっていた。一歳の子供にはその堅い皮膚は成長の妨げになる。我々はその子供を医療機関に託した。

皮膚を一枚一枚切り取り、人口の皮膚や、培養した皮膚の自家移植を行い成長を見守った。

我慢強い子供だった。

一年に数回の皮膚移植に耐え、順調に育った。

体には無数の手術痕が残ったが、今は立派な青年に育った。

その子供の親があの男だ」

老人は双眼鏡から目を離しエヌマルイチの横顔を見つめた。

人差し指はライフルのトリガーに触れているが未だ、ピクリとも動かない。


老人は肩を落とし、時間を確認するため左腕を覗いた。


「あと、三分か」老人はため息を吐いた。


「隊員がその家に乗り込んだ時、他に虐待されている子供はいないか家をくまなく捜した。屋根裏部屋や鍵のかかっている部屋、すべてを見て回った。最後に床下をめくった時だった。

そこに子供の死体があった。死体はミイラ化していた。

詳しく調べるとその子供は女の子で六歳の子供だった。だが、その子の体の大きさは三歳程度の体つきだった。つまりその子供も灰皿代わりにされていたのだ。皮膚がやけどで瘢痕化し堅くなり成長が歪にはじまり体が歪んだ結果だった。そして、そのミイラ化した子供のおやがDNA検査でわかった。

ライフルスコープの中の

椅子に座っている男だ。

ミイラ化した女の子は、エヌマルイチ、君の姉さんだ」


突然ライフルの発射音が地下に木霊した。


老人は慌てて双眼鏡に食い入った。


椅子に縛られていた男の顔は、鼻から上をライフル弾がきれいにそぎ落とすように破壊していた。


「よくやった!エヌマルイチ。君は我々の仲間だ」老人は涙ぐむように呟いた。




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