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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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二人の会話

加賀一郎は今年の四月で二十八才になった。

つい昨日、三日遅れの誕生祝を恋人とホテルで過ごしていた。

久しぶりの休日を二人でユックリ過ごそうとした矢先、緊急連絡が入った。


有無を言わせぬけたたましいド級の呼び出し音。

「至急!本部に集合せよ」

仕事用の携帯はどんな時も肌身離さぬのが鉄則だ。




加賀は特殊急襲部隊に属するSATの一員だ。


今日は、非番だったが突然の指令で駆り出された。

任務は道路封鎖だった。全く拍子抜けだ。


急襲部隊はテロや、ハイジャック、人質事件に対応する任務に特化した部隊だ。

それが、交通規制や道路封鎖で叩き起こされる。

道路にバリケードを築き、アスファルト上にスパイクストリップを仕掛ける任務だ。

こんな事のために今まで血の滲むような訓練を受けてきたのかと思うと情けなくなってきた。



「いやあ、ご苦労様です」そう声をかけてきたのは交通課の五十前後の警官だった。

「私、稲本といいます。東元町警察署に勤務している者です」


「はい。僕は…」


「SATの加賀さんでしょ?」


「どうして、僕の名前を?」


「SATの制服にその胸の名札を見ればわかりますよ」


「ああ」


「SATの皆さんも道路封鎖に参加ですか?」


「はい。ところでこの大掛かりな道路封鎖の目的はなんですか?」


「大捕り物が始まるらしいですよ。殺人鬼ジョーカーが現れたんです」


「ジョーカーが?場所はどこですか?」


「但馬庄之助という特広局の幹部の自宅のようです。本人とその家族を人質にたてこもっていると言う話です」


「人質事件?だったら我々SATの任務のはずなのに…一体現場を仕切っているのはどこの部署ですか?」


「もちろん、あの胸糞悪い特広局が仕切ってるんですよ。確か付属機関のエヌ特別攻撃隊という武力集団がジョーカー捕獲のため但馬家の自宅を取り囲んでいるらしいです」


「エヌ特別攻撃部隊といえば、特別養護施設出身の人間たちだけでつくられた武装組織でしたよね」


「ええ、特広局の肝入りでつくられた…養護施設。色々問題があった、あの施設です。そこで教育された子供達が今はエヌ特別攻撃隊に変身ですよ」


「今までのほとんどの事件は特広局が仕切ってる。結局、警察は特広局の言いなりじゃないですか」加賀は稲本に不満を漏らした。


「警察の幹部連は、ほとんどが特広局の息のかかった連中で牛耳られているという噂ですよ」稲本は声のトーンを落とし、加賀に告げた。


「知ってます。警察組織の中で二つの勢力ができているという事は。我々のSATの内部でも特広局よりのグループができていますから」加賀はそう言って唇をかんだ。


「今では既存の警察組織は特広局の小間使いの仕事ばかりですよ。近い将来、警察組織は特広局に飲み込まれ、まともな警察官は切り捨てられるんでしょうな」稲本はため息を漏らした。


「そんなことはさせませんよ」加賀は含めるように言った。


「え?どういうことです?」稲本は尋ねた。


「あまり詳しい話はできませんが…」

加賀の含みを持たせた言葉に稲本は首を傾げた。


「僕は、密かに特広局の組織自体に探りを入れてきたんです。もちろん内密にですけど」


「はあ、それで何か分かりましたか?」


「はい、特広局組織の背後にいる人物が浮かんできたんです」


「…」


「ミスターXという人物です。この人物がキーパーソンという事が分かったのです」


「そのミスターXとは、どういう人物ですか?」稲本は尋ねた。


「詳しいことは言えませんが、ハッキリしているのは特広局をつくった男、エヌ特別攻撃隊をつくった男、そして今の政権を裏で指図している男という事は、分かっています」加賀はキッパリと言った。


「その情報をどこで仕入れたのですか?」そう尋ねる稲本の眉間に皺が寄った。


「ある組織からです。我々と同じ考えを持つ組織、同士と言った方がいいですね」


「なるほど。そんな組織があるのですか。わたしも仲間に入れてもらいたいですね。とにかく特広局の連中をギャフンと言わしたい」稲本は快活に言った。


二人の会話中、パトカーが赤色灯を灯してやってきた。

稲本はそれに気づき慌ててそのパトカーに走り寄った。

二、三分パトカーの警官と話し、加賀の元に戻ってきた。

「加賀さん、陣中見舞いですよ」そう言いながら稲本は加賀に缶コーヒーを渡した。

加賀はキョトンとした顔で缶コーヒーを見つめると、

「パトカーが拠点毎を見回りながら、コーヒーを手渡してるんですって。上司の計らいという事です」稲本は答えた。


加賀は缶コーヒーを受け取った。

「めづらしいですね。勤務中に缶コーヒーが配られるなんて」

そう言いながら加賀は缶コーヒーを一口含んだ。


「少し、冷えてきましたね。今頃現場はどうなっているのやら」稲本は加賀の顔色を窺うように見つめた。


「連続殺人のジョーカーも、僕は疑ってるんです」


「疑ってる?加賀さんはジョーカーの事も探ったのですか」


「これも詳しくは言えないんですけど、あの連続殺人事件はヒョットすると特広局が少し絡んでいるんではないかと…」


「ほう、良く調べたもんですなあ。加賀さん。我々もあんたの事をじっくりと調べたんですよ。いずれユックリとお話を伺います。あんたの知っている全てをね」

稲本は缶コーヒーを持ったまま倒れている加賀を見下ろしていた。



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