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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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不思議な力

「博史さんは、いつからその…脳腫瘍と言う病気になったの」

順子は尋ねた。


「中学二年の頃だった。弟は学校内で急に発作を起こして倒れ、直ぐ病院に直行した。

担当医は晩期性のテンカンだと言った。

ろくに検査もせずにね。

確かに処方された薬は博の頭痛を和らいだが、発作は日増しにひどくなっていき、

結局大学病院で精密検査してもらうことにしたんだ。

悪性の腫瘍があることが分った。

しかも、相当進んでいるとのことだった。

悪い事に手術の難しい場所で、外科的に取り除くのは危険すぎると言われた」


順子は視線を落としていた。


俺は話を続けた。

「かろうじて、高校には進学できたが、時が経つにつれ薬の効果が薄れはじめた。

博史は発作と頭痛に苛まされた。

結局、高校は二年で中退し、治療に専念することになった。

薬物療法や免疫療法、放射線治療、

来る日も来る日も治療は繰り返された。

病状は一進一退。

博史の体も心もすでに限界に達していた。

ある日を境に、博は治療を一切止める事に決めたんだ。

それ以後、博は家に閉じこもり外に出なくなった。

要するに引きこもりをはじめた」


「引きこもりって、一度も外にでなかったという事?」


「ああ、一度も」


順子は少し考えるような素振りで尋ねた。


「一度も外に出ていない博史さんがどうやって私を捜しだしたの?それにどのようにして私の家の電話番号を調べたの?」

順子のその疑問に俺は答えるのを渋った。


寡黙になった俺に順子は勝手に自分で結論を出した。


「電話をかけたのは、本当は桜井君、あなたじゃないの。私を弟の博史さんに合わせるために」


なるほど、確かにそう考えるのは当然だな。


「違う、弟は君を見たんだ。博史は君を見つけたんだ」


「でも、一度も外に出ていない博さんがどうやって私を見つけることができるの」



「なぜ弟が君を見つけたのか。それには理由があるんだ」


「理由って」


「その理由を言えば君はきっと笑うだろう。

言えば、あの鈴木と一緒に俺達兄弟の事を物笑いにするのが目に見える。

だから理由は言わない。君の想像に任せるよ。

僕の今日の目的は弟に君を合わせる事だ。とにかく、それが今日達成したんだ。

君には感謝している」


「話してくれないの」


「話す必要がない。僕達兄弟の事だ」

俺は少しきつく言った。

もうその質問は繰り返さないでくれと言わんばかりに。


「話せばいいじゃないか」

あいつの声が聞こえた。


俺はその声に対して答えた。

話しても信用されない。

話せば、また大学内で物笑いになるだけだ。


「大丈夫だよ。順子さんはあの鈴木と別れたらしい。この人はきっと、信用してくれるはずだ」


俺は考えた。

こんな事を話せば、変人扱いにされるに決まっている。


「それはどうかな。僕はそうは思わない」


俺たちの秘密を明かすのもう少し後でもいいじゃないか。

俺はそう思った。


「そうだね。兄さんの言う通りだ」



その声を聞いて俺は、本来の俺に戻った。

そう、天邪鬼の心が目覚めたんだ。


「順子さん、…話すよ。弟が君を何故見つけ出したかを」


順子は大きな目を俺に向けた。


「これから言うことを信じようが信じまいが君の胸だけに治めてくれ。決して他人には言わないように」


順子は頷いた。


「俺と弟は一卵性双生児、だから考え方はよく似ていた。

好きなものや嫌いなものも同じだった。ただ、違っている

点もあった。勉強嫌いの俺に対し弟は勉強の虫だった。ひ弱な弟に比べ俺は不死身の体を持つことができた。

いや、不死身は少しオーバーだった。腕力や体力に掛けては俺の右に出る者はいないぐらいの体と置き換えておく。

だから、ひ弱な弟をいじめる奴は俺は容赦しなかった。腕力に物を言わせた。

それが、嵩じてワルのグループのリーダーになったこともある。

まあ、そんな話はどうでもいい。ちょっと話が逸れてしまった。

実を言うと

博史は不思議な力を持っているのだ」


順子は食い入るように俺の話を聴いていた。


「つまり、弟は僕の眼を介して僕が見たものと同じものを見ることができるのだ」


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