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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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ミスター桜井

出入り口の扉が開き、黒いロングヘアの女がカウンター目指して颯爽と入ってきた。

カウンターの止まり木に座った女はバーテンダーの一人に尋ねた。

「ハニーチョコのサーティーンワンナイト、もらえるかしら?」

六十前後の白髪のバーテンダーは首を傾げ答えた。

「はあ?」


女はサングラスを下にずらし、上目遣いでバーテンダーを睨みながら言った。

「ハニーチョコのサーティンワンナイトよ」


「申しわけありません。サーティンワンナイトはただいま切らしておりまして。ブラックペッパーのレッドオールナイト日本ならお作りできますが」


「ハア?レッドオールナイトニッポン?聞いたことないわ」


バーテンダーは小声で女に言った。

「はい、私も初めてその名前を口にしました。いかがでしょうか?」



女は小さく舌打ちした後、笑みを浮かべながら答えた。

「わかったわ。そのオールナイトニッポンをいただくわ」


「かしこまりました。このカクテルは特別なお部屋でお作りしますので、ご足労ですが移動お願いできますでしょうか?」

そう言った後、バーテンダーは女を奥の通路に案内した。


ひときわ暗いその通路には足元に小さなライトが等間隔に灯っている。

「パスワードを会うたびにコロコロ変えるの、いい加減やめてくれない。いちいち覚えられないわよ」


「これも用心にこしたことはありません」


「用心と言っても、私の声や、雰囲気で、私の事はわかるでしょう。毎回毎回、訳の分からないカクテルの名前を言わされ、しかも今度はブラックペッパーのオールナイトニッポン?よくそんなでたらめなカクテルの名前を思いつくわね」


「いえ、でたらめじゃございません。チャンとそういうカクテルをこしらえました。あとでお持ちいたします」


「いらないわよ。ブラックペッパーなんて飲む気も起らないわ」


二人は階段を降り、少し広い空間にたどり着いた。

周りは円形の壁に取り囲まれその壁には、十三の扉がある。

個々の扉には、鍵の代わりにアルファベットと数字の端末が付いている。


「今日はナンバー七の扉です」

バーテンダーは女にそう告げ、一礼してその場を離れた。


「面倒っチイワネ」

そう呟きながら、女は七の数字の扉の前に立った。

アルファベットの端末に指を添え、「ブラックペッパーのオールナイトニッポン…」と、小声でパスワードを言いながらキーを押した。



分厚い扉がユックリ、スライドしながら開きはじめた。

扉の中は二メートル幅の通路が伸びている。その先にもう一つ扉がある。

女はその扉のノブを回し開けた。


中は体育館よりも広い空間が広がっている。

その空間の中心に何やら大きな通信機器が設置されている。その周りに十人程度の人が配置され、机に向かって機器を操作していた。前方には大きなマルチスクリーンがあり、四十程度の画像が映し出されている。


女は背筋を伸ばし、マルチスクリーンの画面全て一つ一つをじっくり観察し、前に進んだ。

女の気配に気づいたのは、四十前後の顔にやけどを負った男だった。


「レミ」

男は小さくつぶやいた。


「ミスター桜井 翔太。何の用かしら?」

女は男に尋ねた。


「君は何故、いつも勝手な行動をするんだ」


「勝手な行動?私はジョーカーの遺言通りに悪い奴らを殺したまでよ。あなた達のお手伝いをしてやってるのよ。文句を言われる筋合いはないわ」


桜井はレミが数日前に麻薬組織のボスとその幹部たちを、一網打尽にしたことを耳にした。

その麻薬組織は特広局の息のかかった人間が支配していると、情報を得ていた。


桜井たちはその麻薬組織に仲間を潜入させ特広局と麻薬組織の繋がりを解明しようとしていたのだ。その関係が白日の目に晒せば特広局の正体を世間に分からせることができる。特広局の組織を合法的に潰すことができるのだ。


それなのに、レミの行動は完ぺきに桜井の目的を葬ってしまった。しかも、潜入した仲間までも危うく命を落とすところだった。


「君の行動は我々の目的の邪魔をしているだけだ」

桜井は、右手を握り締めた。

その右手の甲には赤い星型の痣があった。



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