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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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ミスターXの目的

「水木、お前だけに話がある。ここに残れ。あとの者は退出しろ」

ミスターXの有無を言わさぬ命令口調は健在だった。


三浦たちは、Xと、水木に深く頭を下げその場を去ろうとした。

「悪いが、一階のロビーで待っててくれないか」

水木は、部下たちに指示した。



部下たちが去った後、Xと水木だけが残ったその広い部屋は異様な静けさに包まれた。

外界の音は、壁に組み込まれた防音装置によって完全に遮断されている。


「コーヒーでも飲まないか?」

Xは、自分の震える指を眺めながら呟くように尋ねた。


「いえ、私は結構です。外の者に用意させましょう」


「いや、わしもいらん」

Xは少し機嫌を害したような口調だったが、表情に変化はなかった。

「水木、自分の出生の秘密を知ってどう思った?」

Xは相変わらず、自分の親指を見つめたままだ。


「少し驚きました。でも、私がどのようにして生まれたにせよ、これからの人生に何の影響もありません」


Xは顔をもたげ、水木の眼を見つめた。

そして、大きく頷きながら水木に言った。


「よく言ってくれた。それでこそお前だ」


「お話は、それだけでしょうか。よろしければ、すぐに今日の仕事にとりかかろうと思うのですが」

水木は、淡々とXに告げた。


「そう急かすな。じゃあ、本題に入るか」

Xは、震える親指を片方の手で握りしめながら水木を凝視した。


「これから我々が成し遂げねばならない目的を告げる。これから話すことは、我々組織の最終目標だ」


水木はXの眼窩が闇のようにどす黒く沈んでいくのを見た。


一階のロビーに集まってた三浦と、水木の部下たちは、思い思いにソファーに座り、ガラス越しの景色を眺めていた。

このビルのロビーは、一般客とは別に水木たちが利用するための特別な広間がある。厳密な仕切りはないが、

いつも、係員がガードし一般客が入らないように目を光らせている。

部下の一人、須同浩二が煙草を灰皿にもみ消しながら囁くように隣に座っている仲間に告げた。

「我々のトップが、クローン人間だとは…正直、寝耳に水だ。考えてもぞっとするぜ」


「しかし、彼はXが選んだのだ。しかも、X、その者だ。トップにふさわしい人間に間違いない」


「人間?あの男を人間だと思えるか。クローンだぞ。俺に言わせれば、化け物だ」


「めったなことを言うな。その言葉はミスターXへの反逆とみなされるゾ」


「俺たちは血縁関係で言えばXの孫にあたる存在だ。例え反逆とみなされても、孫は殺さんよ」

須同は、右膝を貧乏ゆすりで小刻みに揺らしながら大きなあくびをした。



「この組織のトップは、我々S群の中から選ばれるべきだと思わないか。我々こそがミスターXの血を引く後継者なのだ。あんな化け物が我々を指図するなんて…」

急に須同の顔が苦痛に歪んだ。


「どうした?」隣の男は心配そうに尋ねた。


「…端末が…何か体に入った…い、息ができ…ない」

そう呻きながら、須同は床に倒れた。

次第に呼吸が荒くなり、空気を思いっきり吸うように口を大きく開け、肩で喘ぎ始めた。


そのまま、爪で首をかきむしるようにしながら床の上をのたうち回り始めた。


「どうしたの?」

三浦は、床で痙攣を起こしている須同を見て男たちに尋ねた。


「わかりません。急に床に倒れ、この状態です」


三浦は須同の頸動脈に指を添えた。

脈が弱くなっている。

須同の左手首に目を移した。

ミスターXから贈られた分厚い腕時計型の端末が手首を締め付けていた。

須同のその指先は血の気が通わず白く変色していた。

明らかに、この端末が須股の体に異変を起こしたのだ。


三浦は須同のワイシャツーの袖をまくり腕を注視した。

腕全体が紫色に変色している。

何か、毒物が端末から注入されたらしい。


「一体何があったの?」


三浦は呆然と立ち尽くしている男に尋ねた。


「いえ、…何も…」

男は青ざめた唇を真一文字に噤んだ。


このビルの中では、いたるところに盗聴装置が仕掛けられ、会話が直にXの直属の特務機関に筒抜けになっている。と、いう事を、かつてミスターXから聞かされたことがある。


『決して、下手なことは話すな』と、Xが言った事を思い出した。


まさか、こういう事を言ってたのか?


「すぐ、救急車を!」

三浦は係りの男に告げた。



これはミスターXの仕業なのか?

三浦は信じられない気持ちになった。


突然、エレベーターのドアが開き、水木が現れた。



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