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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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水木のルーツ

「では何故私がこの組織を引き継ぐのですか。S群の中の優秀な人材から選ぶべきでだと思いますが」


「S群の中から後継者を出すことはない」

Xは当然のような顔で告げた。


「なぜですか?」

水木は尋ねた。


「理由を言う前に面白い話をしてやろう。

フローレンス・グロスの事だ。奴を殺した理由はもう一つある。それは私事で誰にも口外しなかった理由だが、この際だ。お前たちにだけ話しておこう。

グロスという男は、我々を顎でこき使うコソ泥野郎だ。我々は奴の前では奴隷だった。

だが、奴のおかげで、わずかばかりの金と物資のおさがりをもらい食いつないできたのだから文句は言えなかった。下手に歯向かえば、奴はいろいろな理由を付けて俺たちを刑務所にぶち込む。現に仲間の一人が、奴に口答えしただけで、共産圏のスパイに仕立て上げられ牢屋送りになった。

わしは、奴に歯向かわず忠実に命令されたことを実行した。

病弱な息子と家族を養うために我慢をした。

だが、あることを知り考えが変わった。

ある事とはグロスと妻の不倫だ。

話した通り、わしは中国の拷問で片方の睾丸を切り取られた。その後、治りきらない傷口から菌が侵入し

もう一つの物も切り取る羽目になった。破傷風だった。睾丸を失った。ところが、わしのあそこの末端までも腐り始めた。結局、男の器官すべてを取り除くことになった。

男として使い物にならなくなったわしを見限ぎり、妻はグロスの誘惑を受け入れたのだ。

それはかまわない。

前もって離婚を切り出してくれれば、自由の身にさせてやった。それから誰とでも付き合おうとわしは文句は言わない。

だが、わしを騙し、裏切り、こともあろうにあのグロスという最低な男と関係を結びこのわしを陰であざ笑っていたのには我慢ができなかった。

グロスは自殺に見せかけ、ロープで吊るしてやった。

息子の体を献体する事をスムーズに受け入れたのも、裏で妻の口利きがあったからだ。すでにその頃には、妻はわしよりグロスの事ばかりで頭がいっぱいのようだった。

グロスが死んだあと、妻も服毒自殺した。

もちろん仕組んだのはこのわしだが…。

妻である裏切り者の遺伝子を持ったS群の中から組織の後継者を選ぶわけにはいかない」


Xは三浦たちを見渡しながらこう付け加えた。

「決してお前達を憎んでいるわけじゃない。お前たちはこの組織の中でも優秀な一員だ。ただ、お前たちのボス、水木は特別なのだ」


「私が、どう特別なのですか?一体私はどういう部類に入る人間なのですか」

水木は少しイラついた調子でXに尋ねた。



「水木という苗字はわしの母方の姓だ。まずお前を育てあげるのにその姓を使おうと決めた」


「何をお話しされているのですか?」


「お前のルーツだ」

太陽がガラスドアに差し込み、Xの目がわずかに光を帯びた。


「わしと同じ人生をたどる様にすべてを設定して、シナリオを描いた。私と同じ思想、行動をするようにやったことだ」


「ミスターX。言ってる意味が分かりません」

水木の心が激しく動揺した。


「お前の父親も、母親も、祖父も、親戚も、そして今まで付き合ったお前の女もすべての者は我々が作り上げたシナリオの人間たちだ。全て物語だ。全ては、お前とわしが限りなく同じになるようにに仕組んだことなのだ」


「私の親は実際の親ではない?」


「そうだ。彼らは、我々の部下だ。厳格なお前の父親、水木次郎、クリスチャンであった母親の直美、武道家の祖父、正一。すべて我々が作り上げた役者で、忠実な部下だ」


「わしが育った家庭環境に似せて、物語は作られた。出会う友人、恋人も我々が送り出した者たちだ。わしが出会った人間たちを再現し、お前に体験させた。極めて自然な形でお前の人生を作り上げた」


「すべて嘘で固められた人生ですか。あなたの人生のコピーを体験しただけの…。私自身も…あなたのコピー」

水木は自分自身を知った。


「いや、お前は、わし以上だ。自信を持てばいい。この組織のトップにふさわしい人間に育った」


「私の右肩に青いあざがあります。よく見ると数字のような模様で六十六と書かれてあります。あれは六十六番目という事でしょうか?」


「そうだ、お前は六十六番目に初めて成功した人間だ。だが、なんら普通の人間と変わりはない。但し、遺伝子操作で子供はできないようにしてある。それ以外はお前は普通以上の人間だ」


「私はあなたのクローン」


水木の言葉にこたえるように、Xは満足そうに頷いた。

「もうすぐ、六十七番目の君が誕生する。いや、私が…実に楽しみだ」



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