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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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S群のルーツ

Xが怒りの表情を見せたのはこれが初めてではない。

蛇のような冷たい目とメリハリの利いた高い声、十分それだけで周りの部下は震えあがる。

しかし、今回のような荒々しく今にも襲いかかる気迫と、威嚇に満ちた怒号は初めてだ。


三浦は恐怖のあまりに、思わず水の入ったコップを床に落としてしまった。

それを見た水木は三浦に言った。

「すぐ、片づけろ」その口調は決してきついものではなく、むしろ穏やかなものだった。

「申し訳ありません。床を汚してしまって」

水木はXに詫びた。


Xの怒りを自分が受け止め、沈めようと水木は考えていた。

三浦は自分の制服を脱ぎ、それをぞうきん代わりに震えながら床を拭き始めた。


水木は言った。

「三浦の言いたいことは痛いほど、私にはわかります。Sグループの中で私以外は全て父親も母親も分からないまま孤児として育てられてきました。

さきほど、ミスターXは、我々の事を同じ遺伝子を持った仲間だと言われました。

私を含めて同じ遺伝子とはどういう事でしょうか?私とSグループはどのように繋がっているのですか。

今、ここではっきりと我々のルーツを説明してください」


「もちろん教えてやる」


急に空が曇り、ドガラスからの日差しが陰って部屋の中が暗くなった。


時計は昼の十二時を回っている。


奥まった眼窩の奥に光っていたXの目は闇の中に溶け、真っ暗な空洞と化したたように見える。


「お前たちも知っているように、B群のグループは孤児達だ。日本のいたるところで親に見捨てられたり、虐待された子供たちを我々組織が引き取り、教育し優秀な人材に育て上げた。

彼らはお前たちの手足となり動く兵士となった。

次に、A群はわしの仲間たち、つまり戦時中にスパイや、特殊工作員として働いた同志の子供や、その孫たちだ。共通の理念と目的を持った同志の子孫たちで、どちらかと言えばお前たちに一番近いグループだ。彼らも我々が徹底的に教育した。いわば、この組織の中間管理職に位置するグループだ。このグループのほとんどが日本の中枢の政治経済界に潜り込み、お前たちに情報を送り続けている。

最後に、この組織の中枢部にいるお前たちS群だが…」


床を磨いていた三浦は手を止めXの言葉を注意深く聞き取ろうとした。水木の部下達もXの口元に神経を集中している。


「前にも話したように、わしにはたった一人の病弱な息子がいた。いろいろ手を尽くしたが結局二十歳になる前に亡くなった。親バカだと思うかもしれないが、優秀で才能のある息子だった。しかし、わしは助けることができなかった。

話は違うが、

敗戦前、日本軍の特殊医療チームがある研究をしていた。当時としては画期的な研究だった。テーマは優性遺伝子の特殊保存法および体外受精術というものだ。

これは、もともとアドルフの思想の一つ、純潔アーリア人種の保存という考えから生まれた研究だった。日本がドイツと同盟を結んだとき、日本もその考えを導入し軍部が密かに科学者を集めて研究させていた。

優秀な男女の精子、卵子を集め冷凍保存しその中からピックアップして人工授精させる研究だ。

敗戦後、その研究はアメリカが受け継いだ。

わしは、フローレンス・グロスに頼んで息子の体をその研究に役立たせてくれと献体したのだ。

その研究は日本の軍医療機関が秘密裡に行っていたものを、アメリカの民間企業が買い取った。

その仲介を行ったのがフローレンスだ。

奴は、軍部にいながら民間企業の口利きもやっていたのだ。それに奴は密かにアメリカ軍の物資を日本の闇市に横流しもしていた。

そして、もっとあくどい商売も始めた。


アメリカ軍は日本中に散らばった我々諜報員や特殊工作員をかき集めた。目的は、当時日本中に蔓延していた麻薬の密売組織を壊滅することだった。要するにアメリカ兵まで薬物に手を出し始め、軍の士気が乱れ始めたからだ。

武器の使用を我々は許された。地下に潜んでいる密売組織を探り当てるのはわけもないことだった。我々の得意な分野だからな。

その時に集められた仲間がお前たちの組織の土台を作った。

集められた数十人の仲間をわしが指揮することになり、約半年かけて麻薬組織を壊滅した。

そして、数トンにも及ぶ麻薬が回収された。

その麻薬を、フローレンス・グロスは半分以上かすめ取り我々に保管させた。

奴はそれを本国に密輸しマフィアに売りつけていたのだ。


フローレンス・グロスという奴はそういう男なのだ。

だから、我々は、あの男を自殺に見せかけ地獄に落としてやった。

そして、奴が手に入れた全ての物を我々が受け継いだのだ!」


Xは、興奮し息を切らした。


「よくわかりました。で、Sグループのルーツの話を聞かせてくださいませんか」

水木はXに尋ねた。


Xはそんな水木を呆れた顔で見上げた。

「水木、お前は…わしにそっくりだ。感情に流されず、恐ろしいほど冷静で、冷徹。それでこそ、わしの後継者だ」

Xは、口をゆがめながら笑みを浮かべた。


「歳をとると、どうも話すうちに要点が少しづつ外れてしまう。

S群のルーツの話をしよう。一言で言えば、Sグループはわしの息子の遺伝子を受け継いだ子供たちだ。そうだ、君たちは冷凍保存された息子の精子と優秀な卵子とが合体した子供たちなのだ。それだけの話だ」


三浦はよろけながら立ちXの顔を呆然と見つめた。

水木の部下達も唖然とした顔でXを見つめた。


しばらく沈黙が続いたのを破ったのは水木の質問だった。

「では、なぜ両親がいる私がS群のグループにいるわけですか」


「水木、お前は誤解している。お前はSのグループの人間じゃない」




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