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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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Xの怒り

ミスターXは、息苦しそうに喉を鳴らし咳き込んだ。

アドルフ・ヒトラーの言葉を一気にまくし立てたXは、声をからしながら三浦に告げた。

「水を…くれないか…」

三浦は慌てて、部屋の隅にある備え付けのウォターサーバーに走った。

部屋が余りにも広すぎる。そう、水木は感じた。

Xにこじんまりとした部屋への移動を勧めようか、水木は考えた。

三浦が水を差し出したときは、すでにXの咳は収まっていた。

Xは水を唇に湿らす程度に口を付けただけで三浦にコップを戻した。

Xは大きく深呼吸をして再び話し始めた。



「確かに、アドルフという男はキ印で妄想漬けの男だ。しかし、奴の演説には時折真理を突く言葉が見え隠れする。そう思い始めたのは日本が焼け野原になった時だった。

日本の敗北により第二次世界大戦が終わった。軍国主義、全体主義一辺倒だった日本が突然、自由と平等の国になった。

軍は解体され、軍首脳連は捕まり、裁判にかけられ縛り首だ。多くの兵士と国民を無駄死にさせた軍幹部共は名誉ある自決をするどころか無様に生き恥さらして十三階段を上がっていったのだ」


Xは、深く考えるように首を傾け震える指先を見つめた。



「ヒトラーは言った。戦争は、未来ある、有能な若者が真っ先に死んでいく。

日本もそうだった。残るのは無能で役立たずのチンピラ兵士と、手のひら返したように自由自由と叫ぶ無節操な国民、命をつなぎ留めた軍閥官僚。

そして、そう言う輩がこの国を牛耳っていく。何とかしなければこの国はダメになる。わしがそう思うのは、間違ってるだろうか?」


三浦は激しく首を振り、半ば叫ぶような声でXに言った。

「日本を思うミスターXのお考えに間違いなどありません。その時を生きていなかった私でさえそう思います」

水木の部下達も、頷きながら同調した。


ただ、水木だけは相変わらず冷めた表情でXを見つめるだけだった。

Xは、そんな水木を睨みながら尋ねた。


「水木、お前はわしの考えをどう思う?」


「分かりません。私は、その時を生きていませんから」

水木は無表情に言った。


「水木室長。あなたにはミスターXのお気持ちがわからないのですか」

三浦は、怒りに満ちたきつい調子で上司でもある水木を叱責した。


「当時を体験していない君にはミスターXの気持ちがわかるのか?」

水木は逆に三浦に尋ねた。


「特広局のトップであられるあなたには、想像力というものがないのですか?今までお話になられたミスターXの悲惨な戦争体験を自らの体験として、ミスターXの思いを察することができないのですか!」


「正直な私の気持ちを言ったまでだ。私は想像で物事を判断しない主義なのだ」

水木はいたって冷静に呟くように言った。


「水木室長。あなたがなぜ特広局のトップになられたのか私には理解できません。しかもなぜ、あなたがS群の集団にいるのかも理解できません。あなたは、第一…」


「やかましい!」

ミスターXは大声で三浦を叱った。


「三浦!水木はお前の上司だ。なんだ、その言いぐさは!いいか!お前たちに告げておく。水木は私の後を継ぐ最高責任者だ。水木に逆らうのは、私に逆らう事と同じだ。今後そのような態度をすればどうなるか、体で分からせてやる。よく覚えておけ!」

Xは、今まで見たこともない鬼の形相を呈していた。


三浦達は、青ざめ身震いした。

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