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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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アドルフ

「歳を重ねれば重ねるほど、見えないものが見えてくるようだ」

Xは、再び震え始めた手の指を見つめ呟いた。


「どこまで、話をしたのかな?」

Xの暗い窪みの眼が異様に輝き始めたのは日の光のせいだ、と、水木は思いこもうとした。


「アメリカのスパイとして日本に舞い戻ってきた、までの話を聞きました」

三浦はXに告げた。


「そうだった」Xは頷きながら天井に眼を移した。


数分間、沈黙が続き、突然何かを思い出したような表情で、Xは語り始めた。


「スパイになりたての頃、最初の任務が秘密裏にある男に接触し、その男の人物像を探る事だった。当時、その男の名前を知らぬ者はだれ一人いなかった。奴はあの時代の英雄であり、世界中の憧れの男だった。アメリカでは彼を信望する余り同じような儀礼的なパフォーマンスをする政治結社さえ現れた。

まだ誰も奴の本当の正体を知らなかったのだ。

第二次世界大戦がまだ始まる前、軍上層部はその男に近づこうとし、我々諜報機関にその男の身辺を探らせた。

外交官は、リッペントロップという外相を通じてその男と会う手配をした。

我々、スパイは、外交官の秘書事務という肩書でその男と面会した。

もちろん公式ではなく、非公式にだ」


Xは水木に目をやりながら、尋ねた。

「だれと会ったと思う?」


水木はすでに見当がついていたが、少し考える風な顔で答えた。

「アドルフ・ヒトラーですか?」


「そうだ。チョビ髭をはやした小男。胡散臭さが漂う大法螺吹きのペテン師野郎。最初にあった時の印象だ。だが、話すうちにその男の真の姿が見えてきた。アドルフという男は、精神を患ったサディストだ。目的のためなら手段を選ばない、平気で約束を踏みにじる狂った独裁者。その男の人物像を述べよといわれれば、一言でいえる。

第一級の危険人物。

世界中で一番信用してはいけない男。

しかし、あの男が死んだあと、忘れかけたあの男のおどろおどろしいある会話が、ここから滲み出てきたんだ」

ミスターXは、骨だけのやせ細った人差し指を額に当てた。


水木は、ミスターXの右のこめかみの大きな黒子を見ていた。


自分にもXと同じ位置に黒子がある。年をとると俺もXのようにあんな大きな黒子になるのだろうかと、つい考えた。


「ヒトラーは、我を忘れたように手を盛んに振り上げながら、俺たちに演説したのだ」

Xは、当時面会したヒトラーの様子をまねるように話し始めた。


「あの第一次世界大戦で、勇気ある優秀なアーリア人のほとんどが殺された。今残っているのは、無能で無気力な役立たずばかりのドイツ人もどきの混血連中だ。しかもユダの裏切り共の残党がこの世界を支配しようとしている。わたしは、それを阻止するためにこの世に送り出されたのだ。神の意志により、わたしは、今この時を生きている!わたしが成すことはただ一つ、裏切者たちが浸食するこの世界を救い、そして裏切り共たちをジェノサイドすることなのだ!」


水木は、ミスターXにヒトラーの魂が乗り移ったのかと錯覚した。

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